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SF作家が嘆く、ニッポンITの惨状~『世界SF作家会議』読書感想文


みなさん投票には行かれましたか?
 今日は選挙特番で『日本沈没』の放映はありませんので、この読書感想文は小松左京トリビュートということで。(のんびりしていたら日付が変わってしまいました)

 さて、この書籍『世界SF作家会議』は2020年から3回、フジテレビ系列関東ローカルの深夜番組として放映された番組内容を議事録のごとく1冊にまとめたものです。

会議のパネリストは
【SF作家陣】 新井素子、冲方丁、藤井太洋、小川哲、高山羽根子、陳楸帆、樋口恭介、劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)、ケン・リュウ、キム・チョヨプ
【司会】いとうせいこう【顧問】大森望

 ビデオ出演ながら『三体』劉慈欣氏『紙の動物園』ケン・リュウ氏が参加されているというのは、なかなか豪華です。
 Eテレなら、プライムタイムの放送でいけます。

 冒頭で小松左京トリビュートといったのは、この世界SF作家会議の手本ともいうべき『国際SFシンポジウム』なるものが2020年からちょうど50年前の大阪万博で、氏が実行委員長となって開催されたからです。
 70年代はSF作家が「未来の専門家」としてよくコメントを求められたそうですが、80年代以降はめっきりなのだとか。

 とはいえ、2021年の現在においても、SF作家さんたちの発するコトバは示唆に富んでいます。話題の中心はやはりコロナ禍、パンデミックです。

いとう テッド・チャンは、今回のパンデミックに対して、フィクションではこんな無能な政治家は描かれないと面白いことを言っていました。
大 森 なぜかというと、フィクションに無能な政治家や官僚を出した場合、たとえパンデミックが拡がっても、それは彼らの無能のせいであって、ウイルスが恐ろしいせいではない、まともな人が対応していればすぐに制圧できただろうと、読者や観客が思ってしまうからだと。つまり、話の焦点がぼやけるんですね。ところが現実では、無能なりリーダーに振り回されて、どんどん焦点がぼやけてしまう。フィクションでは許されないことが、いままさにどんどん起きているわけです。

 野球の大谷翔平君はマンガを越えてしまいましたが、現実の政治はフィクションよりさらにうしろのほうにいってしまったということでしょうか?笑えないはなしです。

藤 井 例えば財政も、お財布の例えでつい考えてしまう。何もないところからお金が出てくるとは思わないじゃないですか。でも、国債を発行するのは何もないところからお金を出すわけで、カラ売りもそうですね。今、世界を動かしているとても大きな力というのは、私たちの肉体的な感覚とはすでに乖離しているんですょ。この乖離についていけなくなったときに非常に大きな問題に直面するのではないかという気がしています。

 よくよく考えたら、国債なんてビットコインなんかより、ずっとずっとむかしからあって理解した気になってましたが、たしかに身体感覚として理解はできていなかった。
 SFに限らず作家というのは色々な事象を言語化するのがシゴトですが、「わかってない」という感覚までも言語化してくれるのはありがたい。
 ちょうど、その後にれいわ新選組の山本太郎党首が国の借金は通貨の発行量である(という立場である)という説明を聞いたので個人的にはグッドタイミングでした。

示唆に富んだ言葉の数々でしたが、いちばん衝撃的だったのは…

藤 井 そして日本は、コンピュータです。本当に使ってないなと。1995年ぐらいから何も変わっていないんじゃないかというくらい使われていない。これは本当にマズイと思いました。日本で最高の英知を集めた対策チームが、手書きのファックスをEXELに入れて、なぜ電卓で計算しているのか。それからホワイトボードに数式を書く。悪いわけじやありませんよ、ホワイトボードで式を検討するのは数学者の身体感覚みたいなものなので、小説家が原稿用紙を使うのと同じです。そこは特に何も言うつもりはないです。でも、マセマティカはないのかと。世界中どこに行っても使われる数学エディターです。何にでも使う、当たり前すぎるソフトウェアなので何のために使うのかひとことで言えないようなソフトですが、これが見えなかった。ちらっと映像で見た韓国の対策チームでは全員が立ち上げていました。リアルタイムで何十万と集まってくるデータを片っ端からぶち込んで、現代数学を使った統計をおこなってます。もちろん分析のあとで具体的な手を打つのは政治や、行政の問題になりますけど、この一連の流れの中にコンピュータを使える人が普通にいるわけです。日本はやばいですね。

 これを読んだ瞬間、まるで静電気にホコリが吸い寄せられるごとく、過去に見聞きしたことがいっきに集合しました。

コロナ禍にテレビ出ずっぱりだった
昭和大学医学客員教授 二木芳人氏のコメント
「日本の感染経路不明50%はとんでもない数字。韓国は5%をこした時点で問題視してうまくやっていた」(フジテレビ・バイキングより)
さらには楽天三木谷浩史
 なかでも僕がとりわけ強く危機感を覚えたのが、日本における「技術者の質と量のお粗末さ」が鮮明に見えてしまったことだ。
 ワクチン接種のシステムを運用すればすぐにトラブルが起き、感染者の情報を管理する「COCOA」といったアプリケーションも結局はまともに開発できない……。そうしたシステムを社会の中で機能させられなかったことは、良い悪いという評価を下す以前に、現在の日本のソフトウェアの開発力を如実に表していると思う。
 日本の「未来」を考えていく上で、この「技術者不足」というのはあまりに大きな課題だ。
週刊文春2021/09/16号

 ソフトウェアの開発力ということでいえば、あの自慢のスーパーコンピューター富岳がこのコロナ禍を含めほとんどスパコンならではという稼働をしていなかったことも気になります。
日本の関節リウマチの治療薬
「トシリズマブ」「サリルマブ」
新型コロナウイルスの治療に有効であるとかいうニュースで
日本の手柄みたいに報道してましたが
あれはむしろ日本の恥です
 インシリコスクリーニングという創薬手法はスパコンの得意とするところです。
スパコンも薬も日本の領土内にあったというのに海外が先に気付くとは
「コンピューター、ソフトなければただの箱」
という昭和のフレーズを令和でも実践してるようです。
自慢気に飛沫シミュレーションとかやってる場合ではありません。

「技術者不足」でもうひとつつながってしまったことがあります。
全くの別件で気になって調べていたことがあるのですが、米国でのトヨタ車のリコール問題です。
そもそものきっかけは上級国民という言葉を生んだ、あの東池袋自動車暴走死傷事故です。
私の記憶しているところでは上級国民という新語の前には
「プリウスミサイル」ということばが流行っていました。
暴走事故の車種がなぜかプリウスばかりなのだという。
そしてその事故の加害者とされる人の多くがタクシードライバーだったと。
そして米国でのトヨタのリコールになると一転、
アメリカの難癖だとか、ジャパンバッシングとなりました。
上級国民
プリウスミサイル
ジャパンバッシング

と3つの相容れない世界線が混在しています。
ミサイルから池袋までは時間差がありますが
アメリカに関しては時系列的にもかぶっています。
そして調べてみると驚くべき事実が…

結果からいえば米国の裁判ではトヨタ車の電子制御をしていたファームウエアに欠陥があったという調査結果が出てドライバーと事故死遺族にそれぞれ150万ドルづつ支払うという判決がくだっていたのです。
 ファームウェアというのはざっくり言えばハードウエアに直接組み込まれたソフトウエアで家電やDVDドライブなどにも入っていて、組み込みソフトともいいます。

Why Toyota’s Oklahoma Case Is Different
https://www.eetimes.com/why-toyotas-oklahoma-case-is-different/
Toyota Case-Single Bit Flip That Killed
https://www.eetimes.com/toyota-case-single-bit-flip-that-killed/
Toyota’s killer firmware: Bad design and its consequences
https://www.edn.com/toyotas-killer-firmware-bad-design-and-its-consequences/

 この判決のあとに他の裁判での和解が成立したと発表され、それは日本でもうっすらと報じられました。

https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2014/03/1200_2.php
では、なぜ基本的にトヨタは「シロ」であるという証明がされたにも関わらず、ここまでのカネを払わされたのでしょうか?
本体の電子制御には全く問題はなかったことは証明されていますが

↑などとありますが、オクラホマの判決からすればとんだ事実誤認です。
しかしこの筆者は米国在住のようですから、なにか意図的なのかもしれません。
もうひとツッコミさせていただくなら
この記事だとまるでトヨタが譲歩したかのように書かれていますが
実際には懲罰的損害賠償を回避するための和解だったので
むしろ逆の構図です。

オクラホマの判決でのもうひとつの衝撃は
EDRを御するソースコードにも欠陥があったということ
EDRというのは池袋の事件でもニュースにたびたび出てきた
ドライバーの挙動を記録するという装置です。
それがなんと

ブレーキを踏んでいたテスト中に、記録されたブラックボックスデータシーケンスは、彼がブレーキを踏んでなかったと示していた。

ということ。

そうなると日本でおこった過去のこれらの事案も↓

「プリウス暴走事故」はなぜ多い 【公式】三万人のための総合情報誌『選択』- 選択出版
https://www.sentaku.co.jp/articles/view/17594
アクセルの踏み間違い、それとも車の異常? 池袋暴走事故裁判から、筆者が思い返す24年前のある死傷事故
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20201016-00203151

↑冤罪の可能性が出てはこないでしょうか。

そもそも「第三者委員会」などというワードが流行語のごとくとびかう昨今
トヨタの自前のデータなどは
身内の証言するアリバイのようなものではないでしょうか
トヨタといえば系列ディーラーで車検不正が
いまも発覚し続けています。

2021年9月28日付(朝日・7面)
●トヨタ系不正車検次々、計6000台、本社、近く再発防止策(朝日・7面)

しかし問題はここからです。
不正や手抜きなら、心を入れ替えていい人になればいいのですが、
アメリカの裁判での調査結果で担当した組み込みソフトの専門家マイケル・バー氏が出した最終結論は

トヨタの電子制御システムはヤバいしろもので
予期せぬ急加速の原因になったバグが含まれる。
さらにコード品質メトリクスからさらなるバグの存在が推測される。
トヨタのフェイルセーフは欠陥があり、まるでトランプを積み上げたタワーのような脆弱な構造だ。

ということです。

メトリクスというのはざっくり言うと
プログラムのとっちらかり度を表す評価指標で
あまりにも複雑すぎて書いた本人しかわからないようなしろものだと
なにか不具合があった時に
迅速に対応できなくなってしまいます。
そんなプログラムにはまだまだバグが見つかるはずですよ
と言っているわけです。

たとえばサイクロマティック複雑度という指標では
67の関数についてテスト不能と判定され、
その場合のバグ混入確率は
なんと70%以上といわれています。
組み込みソフトでの使用はなるべく忌避すべきといわれる、
グローバル変数については11000もあったのこと。
さらにはMISRA-CというC言語プログラミングの安全規格に関しては
トヨタ側は当初それに準拠していると、いい張っていたものの
実際には80000ヵ所もの違反がみつかったのです。

これが手抜きやズルをしただけなら
いい人になるという打開策が残されますが
どうもこれは致命的にヘタクソだと言っているようです
「文化の問題」だとも指摘しています
その例として、チェック専用にもうひとチーム必要と言っているのですが
裁判で有罪をくらったソフトウエアではもはやチェック不能です
NASAが10ヶ月かかってもバグを発見できなかったくらいですから
あとを継いだ専門家チームも有罪にする最低限の欠陥を発見したにすぎず
まだまだ欠陥はあるだろうと言っているのですから

それでも日本のトップ企業のトヨタといえば
日本で最高峰のプログラマーがいるはずです

ここで三木谷氏の指摘がよぎります
みずほ銀行の度重なるシステム事故もよぎります
もうインドあたりから優秀な人材をつれてくるしかないのでは?

日本はヘンな優生思想も見え隠れするのが気になります。
韓国の功を奏した施策が紹介されるたびに
ネットでは韓国に学ぶことはない
といったコトバが躍りましたが
先述の二木教授の指摘が現実です

フロリダ州が五輪開催代替地を表明したとき
キャスターの小倉智昭氏は
「日本のほうがよほどうまくやれるよ」
とやや感情的に言っていましたが
フロリダ州はたしかに感染爆発もしましたが
そんなコロナ禍の中
NBAの奇跡のシーズン
スーパーボウルも成功させた実績があったのです。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」(江戸時代の剣術書「剣談」)

とはいまは亡きノムさんもよく言ってましたが
スタート時点での日本の感染者の少なさの要因は未だに正体不明のXファクターで、ただのラッキーにすぎないのです。

この国では地震や台風などの教訓が生かされないというのも
よく指摘されることではあります。
このコロナ禍も
「なんだかんだで結局、のりきれたじゃん」
で済まされそうなところがコワイ。


思うのはSF作家の方々も
三木谷氏も
そういう意見はもっと目立つところで言ってよ

さらに三木谷氏については、スポーツチーム持つのもいいけど
気づいてるんだったらIT人材の育成とかもやってよ

気づいた人がやる
それが「家事」のキホンですから

文末ふろく
ここ最近(2016~2021)日本の日本企業のズル
IHI ……… 無資格検査
JSSJ ……… 強度データの改ざん
KYB ……… 検査データの改ざん
SUBARU ……… ブレーキや舵角などの検査不正
SUBARU ……… 完成検査の不正
SUBARU ……… 燃費・排出ガス検査不正
シチズン電子 ……… 製造拠点の偽装
ジャムコ ……… 無資格検査と業務規定違反
スズキ ……… 検査項目の不正
スズキ ……… 燃費・排出ガス検査不正
スズキ ……… 燃費試験不正
タカタ ……… 欠陥エアバッグで経営破綻
ダイヤメット ……… 品質データ偽装
デンソー ……… 米国でリコール
デンソー ……… 世界でのリコール
トーカン ……… 品質データ偽装
マツダ ……… 燃費・排出ガス検査不正
ヤマハ発動機 ……… 燃費・排出ガス検査不正
宇部興産 ……… 品質データのねつ造
丸善石油化学 ……… データねつ造と試験不正
京セラ ……… UL規格不正
三菱アルミニウム ……… 品質データ偽装を公表
三菱マテリアル JIS認証の取り消し処分
三菱自動車 ……… 燃費試験不正
三菱伸銅 ……… 検査データを改ざん
三菱電機 ……… UL規格不適合
三菱電機 ……… 欧州無線機器法令の不適合品の出荷
三菱電機 ……… 検査不正
三菱電線工業 ……… 材料物性の測定値で改ざん
曙ブレーキ ……… 自動車用ブレーキで品質データの偽装
小林化工 ……… 経口抗真菌薬への異種薬品混入で業務停止
神戸製鋼所 ……… 検査データの改ざん
神鋼鋼線 ……… 鋼線強度試験データ改ざん
東レ ……… 検査データの改ざん
東洋紡 ……… UL認証の取り消し
東洋紡 ……… 3種類の樹脂でUL規格認証の取り消し
東洋紡 ……… さらに3種類の樹脂でUL規格認証の取り消し
日医工 ……… 不正な廃棄回避と試験の不実施で業務停止
日産自動車 ……… 完成検査の不
日産自動車 ……… 検査不正
日産自動車 ……… 燃費・排出ガス検査不正
日立金属 ……… 検査データの改ざん
菱三工業 ……… 品質データ偽装
立化成 ……… 検査不正
立花金属工業 ……… 品質データ偽装

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