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『星の王子さま』は宝物となる物語

私がこれまで読んだ物語の中で最も印象的だったのは、サンテグジュペリ『星の王子さま』だ。この物語は全体的に、短めのシンプルな文章で書かれている。会話劇が中心となっているため、絵本のような感覚で読み進めることができる。

サハラ沙漠の真っ只中に不時着した飛行士の前に、不思議な金髪の少年が現れ「ヒツジの絵を描いて……」とねだる。少年の話から彼の存在の神秘が次第に明らかになる。一本のバラの花との諍いから、住んでいた小惑星B612を去った王子さまはいくつもの星を巡った後、地球に降り立ったのだ。王子さまの語るエピソードには沙漠の地下に眠る水のように、命の源が隠されている。肝心なことは目では見えない。心で探さないとだめなのだ……。生きる意味を問いかける永遠の名作を池澤夏樹による瑞々しい新訳でお届けします。原典の世界観を忠実に再現した横組みの本文。電子化に際し、挿絵は原典の彩色に復原しました。手のひらの中で、サンテグジュペリの描いた世界が鮮やかによみがえります。

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まず、大人である主人公の視点で物語がはじまって、王子さまとの不思議な掛け合いに惹き込まれていく。「すみません、ヒツジの絵を描いて」(1)という出会いのシーンの王子さまは、幼い子どもの印象だ。私はそのキャラクターに一気に愛着を覚えた。

物語上で繰り広げられていく会話や思考の中で、強調したいシーンの文末には感動、驚き、怒りなどの感情を表す感嘆符「!」が多く用いられており、王子さまのまっすぐな視点に情緒が揺さぶられる。また、余韻を持たせるためか、文末にダッシュ(――)や3点リーダー(……)も多用されている。

バラのセリフ「鋭い爪のトラが来ても大丈夫よ!」(2)にも見られるような、独特な比喩表現も物語を面白くしている。

しかし、この物語は決してシンプルで可愛らしいストーリーのままで終わらない。文中には子ども向けではない、強い語感のある難しい単語もちりばめられており、その点において洞察が必要となる。例えば、バラについて「彼女は猜疑心と虚栄で彼を悩ませるようになった」(3)と表す箇所には、大人の恋愛物語を感じさせられた。シンプルがゆえに詩のように抽象的で余白が多く残されているため、読み返すうちに深みが出てくるところが魅力的だといえる。

ベタではあるが、私は「ものは心で見る。肝心なことは目では見えない」(4)というキツネの言葉を座右の銘として刻んでいるほど好きだ。ふと立ち止まった時、私は「私にとってのバラはなんだろう?」などと考える。『星の王子さま』は自分のなかにある大切なものに気づかせてくれる、宝物となる物語である。


註・参考文献

(1)サンテグジュペリ『星の王子さま』池澤夏樹訳、集英社文庫、2005年、P.11。
(2)(3)サンテグジュペリ『星の王子さま』池澤夏樹訳、集英社文庫、2005年、P.42。
(4)サンテグジュペリ『星の王子さま』池澤夏樹訳、集英社文庫、2005年、P.104。

参考文献

  • サンテグジュペリ『星の王子さま』池澤夏樹訳、集英社文庫、2005年。

  • 「感嘆符(カンタンフ)とは? 意味や使い方 - コトバンク」 https://kotobank.jp/word/%E6%84%9F%E5%98%86%E7%AC%A6-470774(2024年06月06日参照)

  • 「疑問符(ギモンフ)とは? 意味や使い方 - コトバンク」 https://kotobank.jp/word/%E7%96%91%E5%95%8F%E7%AC%A6-475929(2024年06月07日参照)

  • 「4.三点リーダ(…)とダッシュ(―)は二つセットが基本? - 間違えやすい日本語表現(澤田慎梧) - カクヨム」 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881006064/episodes/1177354054881030847(2024年06月08日参照)

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