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連載 #夢で見た中二物語 50

☆とあるマジシャンと世界の終焉☆

3XXX年、人類は世界の片隅で人間的欲望と生物的欲望にまみれながら生きていた。

世界中で止めようもない災害や争いが続く中、ある時に「人間として生きる為の最後の希望」として行なわれた実験。

それは人間と、地球上でもっとも進化した生物とも称される昆虫を合体させる事で、地上最強の生物が生まれるというものだった。

しかし実験は失敗に終わり、人間と昆虫は上手く融合されることはなかった。

何よりも、中途半端に融合させられた者達は抑制する理性よりも攻撃的な性格が全面に出てきてしまうという状態となってしまった。

そうして失敗作として社会に蔑まれ捨てられた人体実験参加者達がある時に謀反を起こし、他の人間たちは本格的に世界の片隅へと追いやられる結果となってしまったのだった。

結果として人間は、今度は逆に昆虫人間たちに苛まれ蔑まれ虐げられ、ほとんど家畜やペットのような扱いをされていた。

その中でもほんの一部の人間たちはまだ希望を捨てていなかったが、人間という生物が地球から排除されるのも時間の問題だった。



古い文明の残る地に追いやられた人間の内の一人であった主人公の少女は、世界最大のマジシャン集団に属し、下働きとしていじめられながらも長く働いていた。

そのマジシャン集団は皆人間であったが、支配人は昆虫人間であり、昆虫人間たちを喜ばせるための施設としてマジック館を経営していた。

普段は汚い格好をしているがなかなか好戦的で、芯の強さは身の回りにいる大人である上司や同僚よりもずっと上だった。

本当は彼女は自らも知らない秘めた力を持っていて、その力が目覚めれば人類を救うことさえ可能になるようなものだった。

しかし彼女はそんなこと知る由もなく、ただただ地に伏して今日も床掃除をしていた。



マジシャン集団でも一番の実力を持つ、支配人のすぐ下の立場である権力者は男勝りな性格のある女性で、彼女はずっとある力を持つ者を探し求めていた。

実は彼女も特殊な力を持っているのだが、もう一人同じ力を持つ者を探さないとその力が発揮できないことを知っていたのだ。

なのでこれまでずっと探し求めてきたのだが、そのヒントは未だに見つかっていなかった。

その力を持ってすれば世界の混沌を直しその全てを無に帰し、世界を再び自然の状態へと再生させることが可能だという。



主人公の少女はめったに喋らないが口が悪く、服装も決して綺麗とは言えなかった。

しかし少しばかりの休憩をもらった際、申し訳ばかりに作られた図書館などに入り浸る趣味があり、組織の知識層達と交流があって仲がよかった。

主人公が自らのことをあまり喋らないので知識層たちは彼女を働き手の誰かの子供だと思っているらしい。

彼らは結構いろいろなことを話してくれるので、主人公は組織の中のことや構造、支配人のことや権力者の女性の事など何でも覚えてしまっていた。

ただそれらのことを同僚などに話すとバカにされるか、もしくは妙に崇められたりしても癪なので、何も言わないでおくことにした。



ある日、自分の出ないパフォーマンスの練習を他の皆がしているのを見ながら、主人公は暇そうに壁により掛かっていた。

そんな時、知り合いの女性が話しかけてきて、パフォーマンスで使うナイフを忘れたから貸してくれと言ってきた。

少女はすぐに承諾したが、その女性が現在マジック道具の倉庫番をしていることを知っていたので、女性が忘れたナイフを取ってくるから鍵を貸してくれと言う。

女性はすぐに鍵を貸してくれたので、主人公はすぐさま鍵を受け取って倉庫へと向かった。

実は主人公の目的は他にあり、その倉庫の一番奥の壁が一部壊れていて、主人公たちが普段押し込められている生活空間の外に出られることを知っていた。

普段主人公達は厳重な管理の元で厳しい生活を強要されていたのだが、知識層たちの話を聞いて滅多に出ることが出来ない外の世界に興味を持っていたのだ。



上手く外の世界に出ることが出来た主人公は、誰にも見つからないように隠れながら地下から上階に上がっていく。

その途中で客らしき昆虫人間たちの会話を聞いてしまうが、その内容が如何にして人間たちを滅ぼそうかと楽しげに語る内容のものだったために強い憤りを感じていた。

休憩のために誰もいなさそうな部屋に入ると、そこには人類の過去の遺品や遺物が展示されていた。

人間が最盛期の生活を行なっていた時代の写真などがあり、主人公はしばらくの間それらを夢中で見て回る。

それを終えて更に疲労が溜まってしまった主人公は、今日のところは自分達の生活空間に戻ることにする。

そうして去っていく際、その部屋の片隅で例の権力者の女性が主人公を見つめていたことには気付かなかった。



夜になり、いつものように皆で雑魚寝をしていた時、上の階で何やら大騒動が起こっている事に気付いた。

余りに大きな声や音が響いてくるので、皆と共に起き出してみると、主人公達の生活空間に、普段上階にいるはずの知識層の人々がなだれ込むように降りてきた。

そして彼らは見知った顔の主人公を見つけると、上階で何が起こっているのか説明し始めた。

どうやら団体客の昆虫人間たちがひどく酔っ払って、人間を滅ぼすと言いながら恐ろしいくらいに集団で暴れ回っているのだという。

その話で昼間に聞いた昆虫人間たちの会話を思い出し、主人公は怒りによって無意識に力を覚醒させる。

そして誰が止めるまでもなく上階に続く階段を駆け上がると、その階段の上に権力者の女性が待っていて、彼女も力を顕現させて主人公と共に戦いの場に向かう。



施設内では昆虫人間たちが相変わらず暴れ回っていて、その周りには血を流した人間たちが数多く倒れていた。

知識層の人々がなんとかして昆虫人間たちを止めようとしたらしかったが、全く敵わなかったらしい。

その事で更に怒りを募らせた主人公と権力者の女性は力を発動し、そこから世界中が強い光に覆い尽くされた。

その光の中に龍のような姿をしたその力が完全に現れると、世界は一気に浄化され始めた。



主人公が目を開くと、白い雲が浮かぶ青空の中に太陽を見た。

その世界は全く汚されていない過去の平和な時代のようで、昆虫人間どころか目に付くような人工物さえ無さそうだった。

そして今までの記憶は全て抹消され、主人公は長い夢を見ていたようだと思う。

そんな時に足元に小さな蟻を見つけた主人公は、怖がりもせず踏みつぶすようなこともせず、ただじっとお互いにいつまでも見つめ合っていた。

☆☆☆


今回は、とても長い物語でした。

命とは何なのか、自然とは何なのか。

夢で見たものですが、妙に意味ありげな内容のお話でしたね。

(というかマジシャン要素が希薄ですが、何せ夢で見たものなのでご理解ください σ(^_^;))

SFらしいといえばSFらしいですが、「サイエンスフィクション」というよりは「サイエンスファンタジー」といった感じだったかもしれません。


中高生の頃より現在のような夢を元にした物語(文と絵)を書き続け、仕事をしながら合間に活動をしております。 私の夢物語を読んでくださった貴方にとって、何かの良いキッカケになれましたら幸いです。