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劇評

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劇評・鬼滅の刃 無限列車編

劇評・鬼滅の刃 無限列車編

ラテン語で霊魂を意味するAnimaを語根とする言葉で、代表的なものが二つある。物を意味するalをつけ「命が吹き込まれた物」を意味するAnimal。そして動詞にあたるateと、物事を表すionをつけたAnimationだ。直訳すれば「命を吹き込む事」といえる。
 ただの筆記具の痕跡に過ぎない絵が、その時間軸を連ね、音と声を与えた瞬間、目の前に実在するような存在感を獲得する。そこに心を掴まれる物語が加

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劇評・映画大好きポンポさん

劇評・映画大好きポンポさん

 本作を見ていてふと気付いた。Directorとは面白い言葉だな、と。
 Directとは管理する、運営する、指揮する、監督するといった動詞のほかに、まっすぐ、直接、直行などの形容詞にもなる。
 強引な解釈だが、その思想や行動が作品や組織そのものと直結する存在と受け取れば、なるほどその責任の重さも意味できる気がする。
 重責、期待、経費、名誉。天秤の反対側に何を乗せても釣り合いそうもないものを目一

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劇評・シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

劇評・シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

 いきなりネタバラシから書いてしまおう。

 本作はシティーハンターことリョウと相棒カオリが、背水に立たされた依頼人からもたらされたトラブルを、追ったり追われたりドンパチ撃ち合ったり美女にもっこりしたりカオリにどつかれたりしながら解決し、最後はGetWildのフェードインで幕を閉じるお話である。
 そう、純度100%の紛れもない『シティーハンター』なのだ。

 当たり前のように思われるかもしれない

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劇評・ 劇場版シティーハンター:新宿プライベート・アイズ

劇評・ 劇場版シティーハンター:新宿プライベート・アイズ

 元禄年間、甲州街道の新たな宿場町として誕生し、江戸の行楽地としても発展。行き過ぎた風紀の乱れを理由に、一度廃駅の憂き目に会うもその後復活。明治維新後は鉄道整備などで人の流れが加速度的に増え、関東大震災に際し被害の少なかった武蔵野台地の東端部一帯に人が流入。戦後も闇市などを経て成長を続け、名実共に東洋一の歓楽街を形成。駅西口の浄水場跡地にオフィス街が生まれると、静岡県の人口に匹敵する人が1日で行き

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劇評・NAVY SEALS

劇評・NAVY SEALS

※本稿は旧ブログからの再掲になります

 マリオテニスの生みの親、高橋氏が語った言葉が印象に残っている。
 テニスのゲームを作ろうとして、本物と同じサイズのコートや人間を用意すると、つまらなくなってしまうことがある。だから僕らは、テニスの面白さをデフォルメしたゲームを作ったんです、と。
 なるほど、左右の移動一つとっても、現実はそのスピードを調整できるが、ゲームは動くか否かの二択しかないことが多い

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劇評・カメラを止めるな!

劇評・カメラを止めるな!

※本稿はネタバレ要素を含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

 映画は魔法である。人が空を飛び、宇宙人が地球を侵略し、大怪獣がビルをなぎ倒せば、死人だって蘇る。
 だが、誠に不本意ながら、魔法は存在しない。映画という魔法は、スタッフからシステムに至る、無数の現実が作り上げたフィクションなのだ。
 しかしそのフィクションを操る人々は、ただの一瞬も不真面目に映画と向き合ってはいない。最高の魔法を作り

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劇評・機動警察パトレイバーREBOOT

劇評・機動警察パトレイバーREBOOT

最近よくTVで昭和中、後期のTVアニメの再放送を見かける。当時本放送であれ再放送であれ、リアルタイムで観ていた自分には甚く懐かしいのだが、たまに違和感を覚えることがある。
 いわゆる『思い出補正』と呼ばれる、細部の記憶の齟齬はもとより、演出のテンポや声優の演技に、なんとも言えないこそばゆさを感じるのだ。
 時世の流行、自身の経験、その他複合的な要素がもたらす感性の変化。そういった違和感を含めてまた

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劇評 シン・ゴジラ

劇評 シン・ゴジラ

※本稿には、いわゆるネタバレ要素が含まれます。未見の方はご留意ください。

 1954年、日本映画史上初の特撮怪獣映画『ゴジラ』が封切られた。
 海から突如姿を表す異形の獣。その一歩が見慣れた街を瓦礫に変え、その一閃が建物を火柱に変え、あらゆる兵器や施策を嘲笑うように歩き続ける一個の生命。
 終戦から9年。焼け野原の記憶が未だ強く残る人々にとって、再生の道を歩き出した首都を蹂躙するその姿は、どのよ

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