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みゆきと、もうひとりの私~中島みゆき『歌会VOL.1』

四年ぶりの「歌姫」の姿は、あいかわらず神々しく、ほんとうに実在する人であることをようやく思い出すような再会であった。
《新しい服を着る季節のように、今来た道を忘れてしまう》
《枯れた枝 落とすように、悲しい人を他人のように忘れてしまう》
私にとっての、「歌姫」にとっての、それぞれのの空白の四年間の日々を想起させるような再会は、《はじめまして》という歌でなされた。

2024年1月から5月にかけて、東京国際フォーラム・大阪フェスティバルホールで挙行される『中島みゆきコンサート 歌会VOL.1』。
2月20日(火)のチケットを確保することができたため、東京国際フォーラムへ参上した。
2020年に挙行されたツアー・コンサートは、かの感染症により、予定されていた24公演のうち8公演のみで、惜しくも打ち切りとなってしまった。そういう経緯もあり、「四年ぶりの再会」と相成ったわけである。


満席の東京国際フォーラム・Aホール。
ギターを肩にさげた「歌姫」の姿を一目見たとき、不覚にも目から涙が流れる。空目で口ずさむことなんて容易なほどに聴きこんでいるはずの《はじめまして》なのに、歌詞が、歌声が、私の心を揺さぶる。
自分の店を構える、という今後の人生でも割と大きな出来事に恵まれた、この四年間の、さまざまな光景が眼下に・脳裏に浮かび続ける。
みゆき、私はみゆきに、ずっとずっと、会いたかったんだよ。


かつてのオールナイトニッポンを彷彿とさせる、やわらかく・繊細な言葉に満ち満ちたMCにも感無量である。
話す声も、歌う声も、みゆきの一挙一動に私の魂は完全に寄り添っている。これまでの時間もそうだったように、みゆきに寄り添うことで、私の魂は安寧となる。
よろこびも、かなしみも、まよいも、私の人生のあらゆる場面には、みゆきの歌声が聴こえている。中島みゆきの歌というものは、私の人生のサウンド・トラック他ならないのだ。

「四年ぶりの再会に、来場した我々の顔が見たいから」と、10秒間だけ客席を全灯する時間があった。
私の顔はもちろん、みゆきに見えてなどはいないだろうけれども、
みゆきは私のことを忘れてなどいなかったんだね。
いつまでも丁寧に、再会のうれしさを語ってくれるみゆき。
みゆき、私はあなた以上にやさしい人を、知らないんだよ。



未だ公演が続いているために、くわしい曲目に関する言及は避けるが
中島みゆきという人間が生みだした楽曲が、発表年代を適度に攪拌したセット・リストであった。
「言葉の実験劇場」と銘打って、みゆきが自身のライフワークとして挙行し続けている、演劇的な要素もある《夜会》も組み込まれた今回の《歌会》には、みゆきのバイタリティの深さを感じ、ひたすら感激するばかりである。


ツアー会場で会場オリジナルのスタンプを押す「歌姫国パスポート」。
もちろん、永住ビザも取得済みである。

みゆき。
私は心から思っていることだけれども、
あなたがいなければ・あなたに出会わなければ、
とっくにこの世界に見切りを付けてしまっていたんだよ。
みゆき。
私は、あなたの紡ぎ出す、豊かな・繊細な日本語に惹きこまれて、
言葉というものに真摯に向き合おうと思うことができたんだよ。


《いい男は いくらでもいるから、そばにいてよね いつでもいてよね》
《誰にだっていいとこはあるから、とかくほろりと ほだされたりするわ》
《思いも寄らぬ女になって、変わったねって哄われるだけ》
野ウサギのように、いつまでも在りたいなあって思ったよ。
あなたと同じ時代に、出会えたことに、今日もありがとうって思えたよ。


あしたも、がんばるね。みゆき。


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