【ショートショート】電話ボックス
就活にて、日の目を見れなかったショートショート(短い小説)を記録として残しておく。part1
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『電話ボックス、使ってみませんか?』
突然、中折れ帽を被った男性が声を掛けてきた。
ボールドルックスーツを着た味のある装いから、80代ぐらいだろうか。
「えっと、どういったご用件でしょうか?」
『なあに、簡単なことさ。この電話ボックス入ってくれればいい。ただそれだけだよ。』
「あっ、、なっ、、るほど。分かりました。」
中折れ帽の紳士が放った言葉の意図を探る事ができず、混乱から咄嗟にイエスと言ってしまった。
これから一体全体何が起こるというのだろう。
某アニメーションの青いロボットが織り成す、近未来的ストーリーが『もしも』という合言葉を皮切りに始まるというのか。
『さあ、入った入った。お前さん、使い方は分かるだろう?後悔はさせないよ。』
言われるがままにその異空間に入る。
嗚呼、最後にこの空間へ足を踏み入れたのは小学生の隠れん坊だっただろうか。
何かに導かれるように、徐にポケットへ手を入れ、レシートに包まった10円を手にした。
一体何処に繋がろうというのか。
思いのままにそのダイヤルを回した。
無機質な音が鳴る。
4回ほど繰り返した時、
『ーーしもし。』
身に覚えのある声が鳴る。
「もしもし。俺だけ、、ど。」
鼻の奥がツーンと痛み、眉を潜めた。
『なんだ、お前か。急にどうした。』
自分に似た不貞腐れたような声に、何処か安心を抱いたと同時に、寂しさを感じた。
残る時間はあと20秒。
この点滅が終わりを迎えると、世界が終わってしまうような、そんな何処とない憂慮する気持ちが強くなる。
「あのさ、いつもごめんな、ありがとうな。」
『ーーーおう。』
「ちゃんと帰るから。変わらず元気でやれよ。俺は、、まだやらなきゃいけないことが沢山あるんだ。だから、、、っ!」
そう言い放った時、味気ない音が鳴り響いた。
目を瞑り、思いを馳せる。
相変わらず不器用な人だった。
ほっと、何処か救われたような気持ちでその空間の扉を開くと、中折れ帽の紳士はもう居なくなっていた。
不思議と、肩の荷が降りた気がした。
【電話ボックス】
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