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第四十九話「開業計画書チュートリアル」2024年8月27日火曜日 曇り

 風が強い。台風が近づいているせいだろう。アスファルトに澱む熱気が風に運ばれていく。幾分か過ごしやすいのは助かるが、台風災害は歓迎できない。何事もなければいいが。
 二週間前に宿題となっていた「開業計画書」を作成した。それについての添削というか、アドバイスをいただきに区の庁舎に訪れていた。
 「開業計画書」と言っても項目を削いだ簡易版であり、先日内見したレンタルキッチンでの出店計画を計画書として作ってみよう、ということだった。まさしくチュートリアルだ。先週末の空いた日に項目を埋めておいた。

・開業の目的、動機
・具体的な取り扱い商品・サービス
・セールスポイント(同業他社・店との差別化)

 簡易な計画書なので長文の必要はない。実際の計画書はこの部分をどんどん掘り下げていくらしい。
 おもしろいことに、するすると簡単に書けていく。もっと長文にすることも全く問題ないと思うほどだ。
 失業してから自分の身の振り方を辿々しくも考え続けていた。ありがたいことに、それを言葉にする機会に恵まれていた。
 N美さん、船長から始まり、ハローワークの担当者、起業セミナーでのグループワーク、区のアドバイザー、シェアリングコーヒーショップの面談やそのお客様たち。
 目的と動機。自分の強み。同業他社・他店との差別化。
 繰り返し繰り返し言葉にし、話しながら軌道修正し掘り下げた。
 数字面もそうだ。まずはシェアリングやレンタルであれ、どうやって売るか、客数、客単価はの見込みは?希望的観測と実際のシェアリングコーヒーショップでの成果を行きつ戻りつしながら、現実的な数値を導き出していく。
 結果、私は自分の開業計画書を頭の中で書いていたわけだ。頭の中の計画書を紙に写していくだけだ。簡単なわけだ。
 計画書は出店1日目と2日目に分けて作った。
 1日目は赤字だ。2日目はかろうじて赤字は免れるが儲けはない。
 これでもかなり希望的観測に寄っている。
 私の補足説明を聞きながら、先生は計画書に目を通す。二、三の質問が投げかけられた。
「カフェインレスコーヒーとはどのようなもの?どうして、それをメインに据えるの?」
私はカフェインレスコーヒーの製法を簡単に説明した。カフェインは非常に強い成分で、苦手な人、妊産婦など避けなければならない人も多い。カフェインレス、ノンカフェインの潜在的な需要はあることを経験的に知っていること、そして専門店は意外にも少ないことを告げた。美味しいカフェインレスコーヒーの業者を知っていることも付け加えた。
「コーヒーとクッキーの相性はよくわかるんだけど、クッキーとワインは?」
塩気のあるクッキー、ハーブ系のフレーバーのクッキーはつまみとしての側面もあること。シンプルな甘さとフレーバーのクッキーであれば、甘い果実味のワイン、ナッツ系やコーヒーのニュアンスのワインは問題なく合うだろうと言った。
「客単価の根拠は?」
客単価は800円としていた。各商品の価格を説明し、コーヒー一杯の人、グラスワインをおかわりする人、クッキーのみ購入する人などを平均すると800円/1人が妥当だろう。そう説明した。
「出店曜日と時間は?」
金土、12:30〜15:30を予定している。金曜日は保育園、幼稚園の帰りの時間帯のお母さんお父さん方とそのお子さんたちを想定した。土曜日は前日に興味を持ってくれた方の来店を期待している。
 アドバイザーの先生は頷く。
「1回目2回目合わせても赤字。でもチャレンジでありテストマーケティングでもあるのだから、これでいいでしょう!やってみましょう!」との言葉をいただいた。
 良かった。私の計画はそんなに間違っていなかったのだ。
 今回の出店にはまだ必要はないけれど、と先生は続けた。
「ただの紙コップでは味気ないし、付加価値もない。シールでもいいからロゴをカップに貼るとか、サトウさんに繋がるショップカードなどを用意した方がいいかもしれないのですね」
 既視感のあるやりとり。

 ーーショップカード。名刺。シール。ロゴ。メニュー。看板。のれん。

 ーー飲食店には山ほどの制作物が必要だ。

 ーー『「文字が入っているもの」ならなんでも』

 ーーsummerさん

 この縁と流れに驚愕し、意識が飛んでいた私に先生がにっこりと笑って言った。
「楽しい秋になりそうですね」
先生の声で現実に引き戻された私は
「はい!」
と答えた。
 そう。とても楽しい秋になりそうだ。

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