見出し画像

心失すとき(2)


病院に到着して母のいる場所を探す

何度も来ている病院で
何度も救急の出入口を通ったこともあったはずなのに
なぜかたどり着けずにいた

やっと到着するも守衛の人の呑気な対応に
無性に腹が立つ
『急いでもらえますか!』
大声をだした後に、大声を出していたことに気づく

救急のナースステーションに案内され
そこでも待たされる

なにをやってるんだ?
父と妹はいるはずなのに、なぜ私は行けない?
なんで待たされる?

看護師さんに食ってかかるように抗議をした

『あちらの部屋にいるんですけど、今確認してますから』

確認しなくていいから行かせてくれ
もう待たせないでくれ

怒鳴りつけそうになったところで案内された




泣きつかれた父と妹

ときどき嗚咽をあげる父

力の抜けきった顔で私を見上げる妹

『お姉ちゃん...』

言葉をだした瞬間に泣き出す妹


部屋の真ん中にストレッチャーに寝かされた

動かない母


ゆっくりと近づく

『ばば?』

『ばば?』

涙が溢れて止まらない

頬に触れてみる

あったかい

生きてるのとおんなじだよ?
やわらかいよ?
ばばは、ほっぺたやわらかいんだよ
フェイシャルしてあげたときも
マッサージしてあげたときも
そう思ったんだ
そのときとおんなじにやわらかいよ?

『ばば?』

なんで動かないの?

『ねぇっ!なんでっ!』
『ばばっ!』

涙はさらに溢れてくる

髪の毛に触れてみる

髪の毛だって変わってないよ?
いつも髪の毛染めてあげてたから知ってる
また染めてねって約束してたよね?
白髪伸びてきちゃってる

ばば?もう染めないとだよ


ねぇ、なんで寝てるの?

ねぇ、寝てるんだよね?

寝てるときと変わらないもんね?


ねぇ、死んじゃったの?




『なんで?』

やっとの思いで妹に問いかけた


「大動脈解離」

倒れたときには心肺停止
救急車の中で処置するも
病院到着後も状態は変わらず

検査をされ
完全に破けていることの確認ができ
蘇生不可能
機械で動かされていた母は
私の到着を待たずに死亡確認された


妹からの電話のとき
病院に運ばれたときで、心肺停止してるとき

父からの電話のとき
もう機械が外されてしまうよ、という時


聞いたところで意味もわからない
納得もいかない


担当したという医師がきた
説明すると言うので別室に向かう


説明はやっぱり意味がわからない
言葉が難しいのもあったし
何より医師の態度が気に入らなかった

仕方のないことなのもわかるが
マニュアル的な言葉なら
言われない方がどれだけいいか


『先生だけが担当されたんですか?』

『いえ...担当は別の医師で他に僕を入れて3人で診させてもらいました。力及ばず申し訳ありませんでした。』

私なりの精一杯の嫌味だ

一生懸命してくれたのだろうけど謝罪の言葉もなかったし
こんなに若い医師が一人で担当する
そんな訳がないのもわかるし
説明を若い医師一人にさせてることにも腹が立った


文句を言ったところで
母が生き返るわけではない


それでも


納得できない気持ちをぶつけたかった



*過去に書いたものになります

続き↓

関連記事↓


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?