CSAの矛盾とジレンマ

CSA農家の矛盾とジレンマ:日米のCSA比較【卒論まとめ①】

私が2019年に提出した卒論「Contradictions and Dilemmas of Community Supported Agriculture (CSA) Farmers: A Comparison of CSAs in Japan and Kentucky, United States(CSA農家の矛盾とジレンマ:日本とアメリカ・ケンタッキー州のCSA比較)」を、内容を3つに分けて日本語で要約しました。
省略している内容もあるため、詳細については個別でお尋ねください。

1-1. 日本におけるCSAの歴史と現状

CSA(Community Supported Agriculture:地域支援型農業)は、日本の産消提携運動が起源だと一般に言われている。
産消提携運動は、1971年に日本有機農業研究会が発足したのちに、各地の有機農家が地域の消費者団体とパートナーを組んで有機野菜の供給をするようになったことに端を発する。その後80年代にかけて産消提携団体の数は急速に増え、90年代にはその数は800~1,000に達した。 (Henderson and En, 2007; Hatano, 2008a)

しかしその後産消提携運動は停滞を迎える。
その原因について、Hatano (2008b) は以下3点にまとめている。

①有機野菜の流通チャネルが拡大したこと
②産消提携運動の硬直性
③運営における主婦層への依存

産消提携運動が停滞した一方、1999年には環境白書によってCSAの考え方が日本に再導入された。その際にはCSAは大規模な近代農業へのオルタナティブとして受け入れられた。 (Hatano, 2013)
そこから農家から消費者への直接販売の機会増加にともない、日本でも数人の農家が自分たちの販売形態の一つとしてCSAを取り入れるようになった。

冒頭に述べた通りCSAは産消提携運動を起源としているが、日本ではCSAは一般に産消提携運動とは異なるものとして受け入れられている。
農研機構は2016年に発行した「CSA導入の手引き」で、CSAは消費者が代金を前払いすることや、援農など農場運営に積極的に関与する点に大きな特徴があると記述している。
しかしCSAに定まった定義はなくRagriという事業でCSAをうたう楽天株式会社(2017)や、CSAを導入する農園のウェブサイトなど(参考:つくば飯野農園HP)ではそれぞれ異なった定義がなされている。

1-2. 本研究について

CSAへの関心が日本で高まっているのに対し、日本で近年始まったCSAに対して行われた研究は極わずかであり、その運営の実態やアメリカのCSAとの違いは不明瞭のままである。
また、過去日本で行われたCSA研究のほとんどはCSAが生産者や消費者、地域社会に対してもたらすポジティブな影響を評価したものとなっており、CSAの運営継続における課題を調査したものはほぼない

*本研究の主たる目的
1)アメリカ・ケンタッキー州のCSAとの比較を通して日本のCSAの現状について理解を深めること
2)両地域のCSAの運営実態についての理想と現状の差について明らかにすること
3)日本とケンタッキー州のCSA農家が自分たちのCSAについてどのような認識をもって戦略を立てているかの違いを見ること

*データ収集と分析
データは2017/09から2018/10にかけて行った、9つの日本のCSA農家と4つのケンタッキー州のCSA農家への聞き取り調査から得られた。
このデータについて特に両国のCSAの共通点や相違点に着目して比較を行なった。

*本調査の限界
・調査対象の数の少なさ
・自分たちの運営形態をCSAとは表現していないが、実質はCSA的であるという農家も含まれる(提携、野菜セットなど)
・必ずしもすべてのCSA原則には従っていない(支払いが前払いではないなど)
・日本とケンタッキーでは様々な前提条件が異なるため単純に比較はできない

1-3. CSA先行研究の分析

ここからは先行研究の中でも特にCSA運営体制への批判について見ていく。

1-3-1. CSA研究の変遷

【1990年代後半〜】
CSAの研究が農村社会学、農業経済学、地理学など様々な分野で行われ始める。
当初の研究のメインは
①CSAを導入することによる生産者・消費者への影響
②CSA参加のモチベーション

【2000年代後半〜】
研究は多様化し、批判的な側面を含むように。

・会員の属性や地理的な偏り (Cone and Myhre, 2000; Schnell, 2007 & 2013; Uribe et al, 2012; Galt, 2011; Farmer et al, 2014)
・コミュニティの希薄化 (Pole and Gray, 2013)
・会員の高い離脱率 (Ostrom, 2007)
・CSA農家の所得の低さ (Lass et al, 2003; Ostrom, 2007; Tegtmeier and Duffy, 2005)

1-3-2. CSA農家側の課題

①Lass et al (2003):全米300のCSAを対象に行った調査

農家がCSAを辞める要因
1位:収益が十分に得られない (34.4%)
2位:会員・需要の不足 (21.9%)
3位:燃え尽き(burned out) (12.5%)

②Ostrom (2007):ミネソタ・ウィスコンシン州のCSAを対象にした10年間の継続調査

・新規参入が一定数継続的にある一方で、CSAの総数は頭打ち
・多くの農家は開始後1、2年のうちにCSAをやめている
・24農家のうち10農家は10年の間にCSAを中止しており、第一の理由として経済性を挙げた

③Galt (2013)

・CSA会員との距離の近さと農家の収入にネガティブな相関
・その背景には農家が感じる会員への義務感・責任感があると指摘

④Galt and his colleagues (2016)

・農家の自己搾取の傾向はカリフォルニアに見られるようなCSA同士の競争環境下ではより顕著に
・競争下ではCSA農家は環境や従業員よりも自身を搾取する傾向にある

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まとめ②はこちらのリンクから
まとめ③はこちらのリンクから
それぞれご覧ください。

※参考文献は③の末尾に掲載しています。

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