見出し画像

無法地帯

あの鉄橋をわたって
海を越えれば
しあわせの街があるんだってさ

入口には
ドラゴンと妖精の住む木があって、
普通と普通でないものを隔てるゲートをくぐれば
そこはもう異世界
男はギターを片手に平和な調べを奏で
「ここでは誰でもドラッグを吸うことができるのさ」
と、幸せそうに歌う
女はうつろな目をし
千鳥足の老人は、ほどけた靴紐を結び直す
「お前たち、
ここで見聞きしたことは誰にも言ってはいけないよ」
黒のスカーフで口を隠した少年が囁きかける
長く美しい彼の亜麻色の髪は、
乙女のようになびき、夕空に輝く
茜色に染まった空には 
太陽が異様な光を放ち、
匂いに惑わされた男たちの頬を焼きつける
「目がくらんだの?
 そろそろお前たちの帰る時間だよ。
 決して、出るときを間違わないで」
真剣な顔をする少女の足は魚の尾
その小さな背中と鱗に
飛び散る波しぶき

「人魚の肉を食べても、老いて、死にますよ」

人々は、ゲートへと戻れば
何ごともなかったかのように
もとの街に溶け込んで、消えていく
あそこにあったのはアナーキー
煙のにおいは 自由の象徴
レインボーの旗のもとに集まれば
あなたはあなた
わたしはわたし
暗闇のなかのキスはおいしくて
あの亜麻色の髪の少年が笑う
彼が瞬きすれば、
まつ毛に 星降り
その琥珀色の瞳に吸い込まれれば
もう二度とあの僕には戻れない

鉄橋をわたって
海を越え 北へと進むと
妖精が人魚を石にした街がある
そこでは人々は幸せな顔を浮かべて
歩いている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?