🦆『正欲』🦆朝井リョウ

人はなんでも、何かに名付けたがるなと思います。曖昧なものをなかなかよしとできず、名付けることで安心したいのかもしれません。病名や現象、ムーブメント…何から何まで私たちは既に名付けられている名前で呼びたがり、括りたがる。LGBTだってそうだ。名前をつけてその名前で呼ぶことで、そのものについて考えなくなる気がするし、なんだか本質が見えにくくなりそうだ。
でもこれは単に気まぐれに本質主義を齧ったが故の不安に過ぎないようにも感じるけど、そしたら名付けられて括られている場所からはじかれて、いわば病理とされた人々の心や身体はどうなるのだろう？
そして私たちは名付けたもの、既に名付けられているものをゼロに戻すことはこれからもできないのだと思う。

これはずっと前から私の中にあった、ふわっとした大雑把な問いです。改めてこんな問いを思い出させてくれて、かつマジョリティとマイノリティの構図を俯瞰している小説には私は初めて出会ったかもしれません。心から多くの人に読まれて欲しい、それは想像すらしなかった世界を教えてくれるというだけでなく、さまざまな視点と、その視点のありように気付かされるからです。そして個人的には、自分の中でいつもぼやっとしがちな、逆説的に考える回路や道筋をくっきり照らしてくれた気がするのです💡

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「繋がり」
おそらく多くの人もそうだと思うけど、以前から「多様性」と言う言葉には前からなんか寒寒とした違和感を抱いていた。自分がその言葉を使ってしまったときは少し自己嫌悪に陥った。本書はそんな手軽で使いやすい代物になってしまった「多様性」という言葉をこれでもかと皮肉っていた。

私の感想はこの作品のテーマからは少しズレているかもしれません。
主人公の彼らは人ではないある物に性的興奮を覚えることで社会には馴染めていないのですが、私は彼らが、自らの性的嗜好を理由にあまりにも卑屈になりすぎな印象を受けた。(私が色んなことを理解できていないからかもしれないが)
マイノリティとして避けられている欲望はきっと、もっと生き生きとしているはずだ。私たちが知らない形をして温度を持って、血生臭いかもしれない。いや、本来は生き生きとしているのに、社会においては生き生きとされることを許されないとされている欲望だから卑屈になるのかもしれないが、彼らが卑屈になればなるほど、不思議と彼らの嗜好すら正気を失っていくように感じるのである。それは、この物語が単なる"想像したに過ぎない彼らの苦悩"のポーズをとってしまうように見えるのが勿体無くてモヤモヤした。マイノリティは、弱者でもなんでもない。

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良くも悪くもこの物語を貫く言葉でありアクション、「繋がり」
需要があって供給があるのではなく、供給が需要を作りだして今のこの社会が回っているように
社会が個人に介入しているように見えて、私たち個人は社会に取り込まれていく。様々なものに適度な語呂合いの名前をつけられ、それが私たち個々に浸透するにつれ「こんなもんなんだ」と思わざるを得ないほどに、思考する力を奪われては、たまったものではない。自ら社会を拒んで生きることを選び、「繋がり」を避ける人だって絶対にいる。

「繋がろう」という呼びかけは、時には救済ではなくなる。繋がることで要らぬ排除を生むこともある。そもそも、救済や援護をするのと同じ姿勢でマイノリティを理解しようとすることは、お門違いなのだと思う。
だから私は前から「繋がり」という言葉が少し苦手だったのかもしれない。でも、現実はふとひとりを痛感した時、誰か何かとの繋がりが欲しい、と思ってしまう自分にため息がでるばかりなのである😕

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でも私はこの小説が配置した人々の対比や人間関係のありようにとても共感できたのだ。
この小説には強度の強い人たちが出てくる。
本文の言葉を借りるとそれは、正しい命の循環の中にいる人たち。いつも同じ日常がこれからも続くことを疑わない人。先頭を歩き、バス酔いもしない、全然疲れない、精神も肉体も強い、周りの人間も自分と同じようなもんだと思っていて、細胞のひとつにも裏切られずに生きてきた人。

思わず目を見張ったのは、主人公たちがそんな生命力の強い彼らを見つめる時に気がつく孤独。きっとそれはもう少し成長した後、誰かと同じ嗜好を前にしたとき、この人との間には言葉などいらない、と確信した瞬間に自覚する孤独でもあるかもしれないと思うと勇気が出た。
抱えてる孤独はきっと自分ひとりだけのものではないのだ🙏
呼びかけたり無理やり作らなくとも、そういう瞬間に気付けたときに、「繋がり」というものは初めて生まれるのではないか。

私は先頭歩くタイプじゃなかったしバス酔いもするし、疲れやすいしメンタル弱いし、なんだかこういう強度の強い人を、そう称して側から傍観する気持ち、恐ろしいほどわかってしまう🤒

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ズレてることを色々書いたけれど、私も今のうちに、できるうちに、明日の自分を救っておきたいなと思っている🪡
今日、明日死なないための何かを。
なんかどこかのレビューで"簡単に人におすすめできない"って書いてあったけど全然そんなことないと思う！広く、多くの人に読まれてほしいです。