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【連載】 アニマルバー 『メモリーグラス』 ④





浦島... 浦島と言えば、今でも横浜市にある町の名前、浦島町か。郵便番号は221-0042。
今でこそ湘南新宿ラインで埼玉とも一直線に繋がっているので通勤は楽そうだが、最寄りの駅は京急「子安」ということになる。

今じゃ、浦島町にはセブンイレブンだってある。新浦島橋を渡ればもうそこは海だ。子安漁港へだってアクセスが可能。その昔はこの辺りだったのではないか。いじめられたと言うのは。

そしてその浦島町のすぐ北側、隣町に位置するのが亀住町。郵便番号は221-0041。
亀たちはこの辺りに住み、この辺りで甲羅干しなどしていたのだろうか。

こちらは逆に一駅手前の「神奈川新町」駅がおすすめ。何故ならここには浦島公園があるから。ちょっと一服したい輩や、先程のセブンイレブン浦島町店で手に入れたコーヒーで一休み、に丁度良い。公園反対側には、浦島地蔵があるのでぜひ拝みたい。
その後は、昔は地引き網でも張ってあったのかもしれない、網島街道を通り、線路を越えると浦島丘へ出る。こちら側には中学だってあるし、もう一つの公園、少し高台になった浦島が丘公園が見える。
地震の時にはこちら側へ逃げるのが懸命だろう。

お、っと。少しだけ、頭がクラっとする。
またあのカクテルが効いているらしい。


話はこうか。

ママの音姫さんが、海辺で昔いじめられ、浦島である男に助けてもらった。そのお礼に男をこのママの竜宮城のようなバーへ連れてきて、夜な夜な祭りとご奉仕で夢心地。こりゃあはん♥としばらく縛られたりしてここに居た。しかし何となくモノ足りなさそうなママ。果たして助けてやったのは正しかったのか、そうでなかったのかと思い悩み始める。

それはやっぱり、最初のうちこそ目隠し遊びや、羽で撫で上げるソフトなものであったが、段々と数を重ねるごとにつのる欲望、興奮が高まるごとにエスカレートする饗宴。
だんだん
「縛ってー。」とか
「叩いてー。」となり、遂には、
「もっとキツくー」とか
「もっと強くー」などと上手く逆調教。
遂にはバー直結の隠れサロンにて、特別ご奉仕の調教マスターへと成り上がる。
なのに、なのに音姫は一度も褒めてはくれなかった。挙げ句の果てに、
「まだまだ修行が足りない〜ん。こんな技じゃ、面の皮の厚い鬼ヶ島の鬼退治へも行かれやしない。先ずは、佐渡ヶ島へ行って、もっと修行に励むことね、サドだけに。」
ひーーーっ🐢
そもそも鬼退治に行くのは他のヤツだろ。

そんなこんなでイタズラをしながら、いたずらに時は過ぎ、むくむく膨らむのは、あはん♥とノスタルジー。えーーーっ。
遠くを見てはあはん♥近くを見てはいやん♥
こんなポーズはどうか、あんな体勢はどうか、
あぁ、もう耐えられないん、ためいきばかり。
ふーーーっ♥

あんなに好きだった寿司にも飽きた。握って掛け合うオトナのスシが気に入っていた。
海中では湿度1000%で、魚だって干物さえ貴重。ここには鮮魚しかない。スモークサーモンだって難しい。これは元々ネイティブアラスカンの保存食。炙りが肝心だ。
こんな海中にぷかぷか浮かんでたんじゃあ、真っ赤な血が滴るような極上のステーキをつるんと食べたくなる。出来ればこっくりしたボルドーと共に。そうでなければ、たまには鮮やかな色の生ハムと小気味よい苦味のルッコラを乗せた、カリッと焼けたピザなんかもいいだろう。これにしっとりしたキャンティ・クラシコも悪くない。

ある時、背中に派手なムチ打ちの跡を作って戻ってきたと思ったら、半ば涙目になりながら、土産の玉手箱を片手に抱え、それっきりドロン。
さっきのカクテルを呑むのも忘れて。

ママが二の腕を広げながら頭の上で大きく両手をパンパンと叩いた。
「さぁ、そろそろ、ショータイムですよ。みなさん、楽しんでくださいね。」







軽快な、から騒ぎ風トロピカルサンバのリズムに合わせ、出てくる出てくる、色とりどりの踊り子たち。
脇を締めながら両手を左右に開き、指を波のように動かす。揺れるように流れ出る踊り子たちが現れる。

GO! GO! GO! GO!
キミたち踊り子サ ボクたち握るのサ
ヘヘヘイ、ヘヘヘイ
おいで遊ぼう イクラの世界で 握ってみよう
GO! GO! GO! GO!

さぁ、ここの有名な、レッツ! ショータイム。


🐠🐠🐠




メタリックブルーがTレックスのマーク・ボランを思わせる、グラムロックシンガー張りの衣装が冴えるネオンテトラ。
キラキラのスパンコールで飾りつけた首から足首までの縞が映えるデヴィッド・ボウイのような優しそうでいて、意外と心の強いエンゼルフィッシュ。
マドンナがゴルチエにオーダーメイドさせた、ボンテージかと見間違うような、セクスィー系で透明な体に蛍光色のラインが光るラージグラス。
ヨダレが垂れそうなぴったりとしたタイトなボディに、フラメンコダンサーのような裾だけ広がったドレスがとても似合うグッピー。
そしてその周りを囲むひらひら揺れる紅いおべべのキンギョちゃん達。
キレイに着飾ってるな、ショーガールズ。
今時もう、タイやヒラメの舞い踊りでもないだろう。





そして、さっきのカクテルをまた一口煽る。
あぁ、いかん、これがカクテルの盲点なんだよ。口当たりが良く、のど越しがいい。そのくせピリッと刺激があって。なのに、合わせてあるアルコールの度数はかなり高くて、聞いただけでも倒れそうになったりする。
「そう言やママ、このカクテルの名前は?」

「うふふ、そのカクテル、『浮世ワスレ』と申しますん♥」



凝りもせず ほろ酔いたくて また呑んで
アナタいなけりゃ 水も同じか




🐠 🐠 🐠 🐠 🐠








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