パリ・シャンゼリゼ　本日の時計屋さん(11) クロコダイル・ロック

ロックはロックでも、現在フランスはロックダウン中。
春のカトリック行事、復活祭の連休続き+学校休校+春休み一週間繰上げという技で、一応今のところ商店も5月3日月曜から再開ってことざんす。まだまだお家時間。
私の時計屋さんも3月下旬からの臨時休業で、何の音沙汰もナシなので、勤しんでみる俳句作り。

"夏時間　変わらないのは　腹時計"

少し早いですが、5月になれば気候も良くなって、祭日も多くて、通常皆さん羽伸ばすぞー、ってことに。でも基本的に振替休日っていうのがないフランスは、今年の場合、あまり得しないんですね。
本来なら、5月1日はメーデーで基本全ての人が休日。この日はみんなでデモする日。そして、5月8日は第二次世界大戦の戦勝記念日。フランスは日本と別チームだったんで、勝利国で、シャンゼリゼ、凱旋門にて軍隊セレモニー。そしてそのどちらも土曜日。後の二つ、5月13日木曜と、5月24日月曜は再びカトリック行事の為の祭日で、実に週に一度は入る祭日。

元々休暇の取り方の上手いフランス人は、これを"Le pont(ル・ポン)"-橋じゃ、と呼んでどんどん増やしていく休暇。日本人が言う「飛び石連休」。日本人だったら、あー、飛び石で残念。で仕方なくお仕事へ行くと思いますが、フランス人その辺はヴァカンスマスターなんで、え!?　っていう技出し。
例えば、13日は木曜なので14日金曜はまず橋一本、で週末。そして水曜は小学校がナシ、中学高校は半日なのでこれも橋、ハイ12日の水曜日にもう一本。じゃあ、ついでに10日の月曜と11日の火曜、年に5週もある有給から計4日位消化させといて。と、どんどん橋渡しをしていくと、なんとも密かではありますが、ラク〜に8日から16日までしっかり9日間休めるという訳。

こうやって裏技攻撃も入れながら、なんだかんだで夏休み。でまたしっかり夏休みも取る、と。上手すぎるんだな、マスター達は。日本でも見習いたいですけど、こんな技使う前にピシッっと鋭い刀でクビ斬られちゃいそうですからね。

そう言えば、もう随分前ですがとても印象に残るお客様、いらっしゃいましたので、ご紹介してみましょ。

とある昼下り。
このおっちゃん、ホンマにフランス人かいな。
アジアンな女性とご一緒ですが、喋ってます、フランス語。
背は低く、タートルネックは無理そうに首が短い(たぶん足もだったと思う)。白いポロシャツに白いスラックス。オシャレヴィンテージとはちと違う、とても古い感じの近眼眼鏡。分厚いな。髪は七三分け。しかも今時珍しく革の固そうな真四角のショルダーバッグを首から。
思わず見ちゃう足元。職業上条件反射。

靴は体を表す。
靴は口ほどにものを言う。

🤔先の尖ったクロコの革靴。最近ほとんど見ませんね。
いや、しかし何故かショルダーバッグとお揃いに!?
上級テクだ。
思わず食い付くように見入ってしまう。
"とてもステキなバッグをお持ちですね"
"いや〜、わかるー?コレね、ワニ🐊
この真ん中に突起があるでしょ。コレ、背中の部分。これがしっかり真ん中に入ってるのはモノホンっす。"
わー、食い付かれたっ。
"え?どうして?"(いかん、聞いちゃった)
"コレね、小さいサイズだから、子どもなんすよ。大っきいのは2、3匹使わなきゃなんないから高いんっす"
きゃっ、やっぱりかわいそ。
"コレでビジネスしてるんっす"
うわ〜、またビジネスマンだ。そうは見えないけど。聞いてないのに答えてくれる。
"コレをね、フランスの大っきなメゾンがやったら高く買ってくれる"
"ほー、それを売ってらっしゃるんですね"
"売るだけじゃないっすよ。飼育してるんっす"
飼育!?何処で!?
"あー、タイ辺り行けばね、あっちこっちウヨウヨ居るから。ちょっと引っ張って来て自分の領地に置いときゃあいい。後は現地人任せで。観光客も遊んでいけるテーマパーク"
下手に手出せないわ、そりゃ。

そう言えば、シンガポールにも居ました。陳岳泉って言うワニ王。今はもう閉鎖したらしいけどクロコダイル・ファームがあって養殖場が観光スポット。しかもスーパーにはワニ肉がパックに入って売っていたっけ。

じゃ、このおっちゃんもワニ王🐊。
"あー、それでポロシャツも🐊で、トータルコーディネート!"
"アレ、ホントだ"
って気づいてなかった?
そして更に、
"今はね、中国🇨🇳"
とお連れを見ながら。
あ〜、それで愛♥もワニ🐊もマニー💰もトータルでタートル🐢
"スゴい。大成功じゃないですか!"
と、喜ばせておいて。
"じゃ、やっぱりちょっとしっかりしたヤツ、欲しいですよね"(と始めるこちらのビジネス)
"いや、今日は、あちらが"
は、お連れのほうね。
確かにフランス人の国際的ビジネスマンは、現地じゃ大判振る舞いだろうけど自国の出費には何の得もなし、と。
しかし中国のお客様は、金のジャガ芋です。
一人で来てても、本国には家族がお芋のツルの様にいっぱい待っていて、電池代のかからない、Swiss Madeの機械式時計を買っていくのが大好き。
"お幾つお入用で?"
お父さん、お母さん、妹、と自分のも。
うん、うん、買っとき買っとき。

お父さんへ: ホワイト、3針、ローマ数字、オートマチック、直径39mm、メタリックベルト
お母さんへ: ホワイト、3針、ローマ数字、オートマチック、直径26mm、メタリックベルト
(お父さんとペア)
妹さんへ : ホワイト、2針、花型オープンハート、直径31mm、バー表示、オートマチック、メタリックベルト
自分へ : ホワイト、2針、花型オープンハート、直径31mm、バー表示、茶革ベルト

おっちゃんは?
さっきのクロコのバッグの中をゴソゴソ。

ジャ〜〜ン!! 出たっ。(ドラえもんかっ。)

"この財布が、目に入らぬか〜!" ぐわしっ。

いやいや、そうだと思ってましたよ。
クロコの財布でしょ。ここまでトータルコーディネートしておいてガマ口👛持ってるとは思ってなかったです。
しかもクロコなのにアカ!
"うわー、赤クロコなんてオシャレ〜"
"でっしょ〜、中国じゃー赤!"
そりゃそうだ。中国人はパンツまで赤がお好み。ラッキーカラーですから。
それで、そこからごそっと自分の時計も5個分払って頂けるんですね。
目を細めて優しくなっちゃう時計屋さん。
"いや、見・せ・た・だけー"
へ!?
"いやね、言ってあるんっすよ。コイツもね、あっちの工場で真面目にお金稼いでるんだ。食べんのは出してやってもいいっすよ。自分も食べるし。でも、買い物の支払いはキチンと自分でしろってね。ジリツってやつで。あー、自分は今回いいっすから"
耳を疑う。
あれ!? 今何て?
そこだけ突き放す? クロコダイル・ダンディは。
そーゆーこと。
そして彼女はキャッシュで家族への時計を4個分、自力で支払ってみせたのでした。

本日はお買い上げありがとうございました。

そして、最後に、
"今度はね、タイ人のコ、連れて来ますんで"
連れて来て頂いてもなんにも出ませんよ。
そういう店じゃないですから。
色々勉強になります。シビアなビジネスのやり方が。

そんな余韻を残しながら、今日はもちろんこの曲。
1972年にエルトン・ジョンが出した「クロコダイル・ロック」。本気のホンキートンクとロックダウン中のロックンロールでガンガンいきます。もちろんクロコも一緒に歌ってくれますのでお見逃しなく。

それでは、また。