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成長

 身長が伸びていることに自分で気がつくのは難しい。それと同じくらい、学力の伸びに気がつくのも難しい。


 私は小学生のときから算数や数学が得意だった。得意だったし、好きだったと思う。苦手分野はあったけど、それでもやったらできたから楽しかった覚えがある。

 さて、高校に来たらどうだ。授業を聞いたらわかるし、問題集の問題も解ける。でもテストで点が取れない!おかしい、私は数学ができるはずだった。これはどういうことだろう。幸いにも意欲と負けず嫌いな性格のおかげで諦めはしなかったけど、何かを変えなければならないことは明らかだった。

 まず演習の量を増やしてみた。授業は週に5時間、ほぼ毎日あったけど、次の授業までにその日の授業の範囲の問題を解くことを目標にした。テスト範囲を3周したこともある。一年生の時はそれでうまくいったりいかなかったりしていたけど、常に不安定だった。

 それでも良い成績をもらい、二年生になったときは上のクラスにいた(私の学校は成績でクラスが分かれていて、学期ごとに移動の可能性がある)。そして一学期の中間テスト、5割くらいの点数だった。期末テストは、それよりはよかったけど、決して褒められるようなものではなかった。夏休み明けにもテストがあって、先生が簡単だと繰り返し言うから、夏休み中ずっと数学の問題を解いていた。そして、結果は……49点(100点満点)。どうしてという気持ちよりも、悔しさよりも、「あぁ、私はこれくらいなのか」という気持ちが大きかった。このときの私はもう限界に達していた。夏休み中に消費したノートは7冊あった。それだけやってもだめなのなら、私にはもうできることはない、と力が抜けていた。

 とはいえ、ただ諦めるのは私の性に合わない。先生に相談してみたら、「テストに慣れていないんだと思う。自分でテストを作って時間を計ってやってみたら?」とアドバイスをもらった。なるほど確かに、私はテスト前緊張で狂うタイプだ。焦ってできるものもできていなかった。うまくいくのかさっぱりわからなかったけど、私の知る方法でもうまくいっていなかったから、とりあえず試してみた。解く問題数も数学に費やす時間も何倍にも増えて、疲れることもあったけど、解ける問題数も確実に増えていった。

 約2か月後、二学期中間試験。不安と緊張が混在した状態で臨んだ。解き終えて、特別うまくいった感覚はなかったし、実際すごく良い結果でもなかった。でも、楽しかった。ぼんやりとだけど、解けている感覚はあったのだ。興奮気味に「先生、すごい良くはないと思うけど、でも解いてて楽しかった!」と言ったら、周りにいた先生たちの注目まで集めてしまった。

 それから今まで、確実に数学の点数は伸びている。二学期の期末テストは私にしては本当に良い点数だった。今回のテストも、点数はよかったらしい。でも感覚は「微妙」だった。できていないわけでもないけど、もっとできたはず。そんな感じ。でも、解いているときの緊張度合いは明らかに改善している。だから、先生に「『できない』の基準が変わっていると思うから、今微妙だと思ってても少しは成長したんじゃないかな~って思います。」と言った。先生は

「少し成長した、じゃないよ。別人だよ、別人。」

と言ってくれた。


 勉強はひとりになりがちだ。受験勉強なんかは特にそうだろう。でも、他の人からしか得られないものもある。学力は身長のようなもので、毎日少しずつ成長するから、自分で自分がどれだけ伸びているのかはわからない。たまに会う人に「成長したね」と言われて初めて気づく。あるいは、身体測定なんかで数字になったものをみて気づく。そうやって、自分でも気づけるようになるころには、はじめとはくらべものにならないくらい、大きく成長しているのだろう。


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