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これは執着なのか、それとも未練なのか

2年半前に当時付き合っていた彼氏に振られ、それから幾度となく出会いの場に足を運んできた。人から紹介してもらったり、マッチングアプリに登録してみたり、いろんな街コンや合コンに参加してみたり、アラサーという年齢もあり、少々の焦りと共に出会いを求めてきた。
お付き合いまで至ることはなかったが、何度か食事に行ったり、デートをしたり、良い感じになることはあった。そして現在も、連絡を取り合っている人がいる。優しそうな雰囲気で、メッセージのやり取りのテンポや内容も私にとってはちょうど良く、うまくいけばいいなぁ、と思う。

ただ、どうしても思い出してしまうのだ。2年半前に振られた元彼のことを。

私は元彼のことが大好きだった。付き合ったのは向こうのアプローチがあったからなのだが、人見知りで、親しくない人と話すのがあまり得意でない私に、熱心にいろんな話題を振ってくれ、嫌味のない程度に自分の話もしてくれて、付き合う前から付き合ってからも、天邪鬼で決して可愛いとは言えない私のことを「可愛い、可愛い」と口に出して言ってくれた。そんな元彼を見て、そんなわけないだろ、と思いながらも、でもどこかで、彼がそう言ってくれるなら、私は可愛いのかもしれない、と思うようになったし、なんだか自信が持てたし、何より彼といることで、自分のことが好きになれた。
その分、いきなり別れを切り出された時は目の前が真っ暗になったし、仕事も手につかなくなった。混乱した私は別れ際に目の前でスマホに入っていたデータを全削除し、それっきりになったはず、だった。

そこからの私は元彼を忘れるため、吹っ切るため、もしも今後街中で出くわした時に見返してやるために、自分磨きを始めた。ダイエットやメイク研究などの見た目改造もしたし、ライティング・ゼミに参加したり今まで以上に仕事に励んだり本を読んだり、内面改造もした。頭では、どこかで偶然出会うなんてことは、奇跡でもない限り起こり得ないと思っていた。でもそうでもしないと、大好きだった元彼を私の中から無理やり消し去ることなんてできなかった。無理やりにでも消し去らないと、私は次の新しい一歩が踏み出せないような気がしていた。

ダイエットの目標体重を達成した時が、なんとなく自分の中で1つの区切りになった。その他の自分磨きも並行して進めていたからか、それが外見のおかげなのか内面のおかげなのか、はたまたどっちものおかげなのかはわからないが、以前より出会いの場でも声をかけられたり連絡先を交換したりすることが多くなった。なんだ、私、まだ需要あるじゃん、と少し安心した。それと同時に思い出す。2年半前に私を振った、元彼を。

新しく連絡先を交換した人とメッセージのやり取りをしたり、食事に行ったり、なんとなく上手くいっている時ほど思い出してしまうのだ。まだ告白されるかもしれないとか、付き合うかもしれないとか、なんとなくでもそういう確証がないタイミングで、思い出してしまう。
私はこの人と付き合うのだろうか? 付き合ったその先、結婚するのだろうか? となると、本当にこの人でいいんだろうか? ……元彼の方が良かったかもなぁ、と。まだ深く知らない相手を目の前にして、深く知った元彼と、どうしても比べてしまうのだ。

私は元彼の、なんでもストレートに思ったことを口に出して伝えてくれるところが好きだった。それがたまにきつい言葉だったこともあるが、「可愛い」を始め、私が作った料理を食べて「おいしい」と言ってくれたり、いつもと違う髪型にしたら「その髪型も好き」と言ってくれたり、とにかく私を褒めてくれることがほとんどだった。
自己肯定感の低い私は、いつも漠然と「このままじゃいけない」と思い続けていたのだが、彼の言葉を浴び続けて「私はこのままでもいいんだ」と思えた。実際、彼も「そのままが好きだから、そのままでいてほしい」と言ってくれた。結果、そのままではダメだったから振られてしまったわけだけれども、少なくとも付き合っている間は、私は彼のストレートな言葉に助けられていた。

筋肉質で、少し色も黒くて、顔も濃くて、私の好みのタイプとは真逆だった。
それでも、大好きだった。
どこかで吹っ切れたと思っていても、思い出す頻度は少なくなっていっても、やっぱり頭の片隅に元彼はずっといたみたいだった。

夏が終わる頃、連絡先を消したはずの元彼から連絡がきた。何波目かもわからないが、コロナの感染者が増えていたので心配になって、とのことだった。しばらく連絡を取り続け、会うことになった。別れた当時の思いや、別れてから今までのことや、たくさん話をした。頭の片隅にいた元彼が、どんどん大きくなってしまった。
せっかく、片隅まで追いやったのに。つらい時も、楽しかった頃を思い出して泣きたくなった時も、どうにか頑張って片隅に追いやってきたのに。また振り出しに戻ってしまった。元彼が私の脳内の中心に躍り出てきてしまった。もう一度ゲットしてしまった連絡先を、私は2年半前のように削除できていないし、しようともしていない。当時ほど彼のことを好きでなくても、やっぱり彼はまだ、私の中で特別な人で、忘れたくない人で、消したいのに消えてくれないくらいには思入れが強い人なのだ。

再会した当初と比べると、元彼は脳内の中心にはいない。それでも、かつて頑張って追いやった片隅ではない。中心から、少しだけ外れたところにいる。やっぱり、消えてはくれない。再会しなければ、今頃消えていたかもしれない。再会しなければ良かったかもしれない。そう思うことが、正直多い。でも、もし過去に戻ったとして、また元彼から同じように連絡がきたら、やっぱり私は連絡を返すだろうし、もう一度会ってしまうのだろうと思う。

今連絡を取っている人は、本当に優しくて良い人なんだろうと思う。もし上手くいって、お付き合いをすることになって、その先も……と考えた時に、きっと穏やかな生活が待っているんだろうな、と気の早い妄想をしたりもする。それと同時に、やはり元彼が出てきてしまう。元彼と上手くいく世界線を、無意味だとわかっていても考えてしまうのだ。

吹っ切れたとどこかで思っていたけれど、2年半も経っているのに、こんなにも吹っ切れないものなのだろうか。これはただの執着なのだろうか。それとも、未練なのだろうか。私はもしかして、なんだかんだと言いながらも、まだ元彼に想いが残っているのだろうか。

答えは自分で導き出さなければならない。これは私の問題である。自分自身で、この感情を腑に落とさないといけない。わかっている。わかっているのだけれど。

ああ、こんなことばかり考えているから彼氏もできないし、どんどん拗らせていってしまうのだ。そんなこともわかっている。わかっているけれど、どうにもならないのだ。

いや、もう拗らせ女のままでいい。拗らせたままでいいから、もう少し、気が済むまで私の脳内に元彼を置いておきたい。執着でも、未練でも、どっちでもいい。いつの日か、自然と元彼が私の脳内から消えてくれるその日まで、私は頭のどこかで元彼のことを考えるのだ。

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