見出し画像

エイプリルフールの嘘とさよなら

「俺、鴨居のこと好きなんだよね。付き合わない?」

告白のメールは突然、届いた。
中学3年生の最後の春休み。高校の入学式を数日後に控えた4月1日。

そのメールの差出人は同じクラスのムードメーカー的存在のWくんからだった。
その子から好意を持ってもらっていることはわたしも薄々気づいていた。中学3年の秋の合唱祭の打ち上げの後に、クラスメイトの女子から「Wくんがカモネちゃんのこと、かわいいって言ってたよ」と言われていたから、わたしも少しだけ意識していた。
制服姿と私服では印象が違って見えたらしく、かわいいと思ってくれたらしかった。そう思ってもらえたことは、単純にうれしかった。

告白のメールが届いてわたしは動揺した。
好意はうれしかった。だが、高校の入学を目前としていて中学校での出来事が遠くのことのように感じていた。
気分はもう高校生で、中学のことは卒業式に置いてきた気分になっていた。それに彼の進学先の高校は知っていたけれど、他校同士で付き合うことが現実的に思えない。
そもそも付き合うことさえよくわからなかった。受験の時期に好きな子に告白されて、両思いにもかかわらず付き合うことがイメージできなくて振ってしまったこともあった。
気持ちに応えることはできないが、せめてメールくらいちゃんと返したいと思った。

「ごめんね。付き合うことはできないけど、ありがとう。お互い高校がんばろうね」

実際にはWくんのメールもわたしのメールも当時の中学生らしい絵文字がたくさん入った装飾されたものだったが、おおむね内容はこのような感じだ。
数分置いて、Wくんから返事が届いた。


「エイプリルフールの嘘だぴょ〜ん」

わたしはしばらく、その文面を呆然と眺めていた。
それは中学生のわたしから見ても照れ隠しでふざけたとしか思えない、それこそが即興の嘘だとバレバレのものだった。
シンプルにダサいと思った。茶化されたことにより、彼の告白という行為そのものが茶番に感じた。茶番に付き合ってしまった自分が恥ずかしい。

わたしの心に傷がついたのがわかった。それと同時に怒りを感じた。

「そういうの人として本当にどうかと思うし、本当に嫌だからもうメールして来ないで」

怒ったわたしは火力全開で返信していた。
この返信にWくんは引っ込みがつかなくなっていたと思う。わたしの言いつけ通りに、彼からメールが送られてくることは二度となかった。


なんでエイプリルフールなんて言ったんだろう。普通に返信してくれれば気持ちよく終わることができたはずなのに……わたしはそう思っていた。
自分が悪いことをしたわけでもないのに、罪悪感と嫌悪感に苛まれていた。人を傷つけるメールを故意に送った気分の悪さ。ただただ居心地が悪いような嫌な気持ちになっていた。


この出来事をきっかけにエイプリルフールに嘘をつこうと思うことがなくなった。巧妙な嘘を考えることも、人を笑わせるようなたのしい嘘も考えることをしなくなった。
エイプリルフール自体は嫌いじゃない。ただわたしは嘘をつかないというだけ。
エイプリルフールになると、気持ちを弄ばれたかのような当時の気持ちがよみがえる。今となってはお互いに子どもで不器用だっただけなのもわかる。
でも、エイプリルフールだなんて言わないでよとも思うのだ。好きって気持ちを茶化すのは相手にも自分にも失礼なことだから。


今年Twitterで見た一番好きだった嘘。
せめて嘘はこういうのがいい。

白丹

わたしは子どもの頃からしろたんファンで、家に大中小様々のしろたんが4体いる。アイラブしろたん。

エイプリルフールの話はこれでおわり


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?