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#8 長野県伊那市の観光振興と地方創生政策 ―地域活性化と知名度アップを目指して―《後編》

前編(観光振興)については、下記のリンクから見ることができます!

伊那市による地方創生事業

続いて、伊那市による地方創生事業についてみていきたいと思います。

伊那市では、2020年3月に「第2期伊那市地方創生総合戦略」が策定され、「人口減少対策」と「経済縮小対策」の2つの地域政策に取り組んでいます。そして、人口減少と経済縮小問題に立ち向かうために、

★結婚・出産・子育ての希望をかなえる
★ひとが集うまち・地域をつくる
★地域で安定した雇用を創出する
★時代に合った地域づくりと地域間連携を促進する

伊那市「伊那市地方創生人口ビジョンおよび総合戦略」より抜粋。

という4つの基本目標が掲げられており、その基本目標達成に導くためのいくつかの事業(リーディング・プロジェクト)が示されています。そして、伊那市の人口が現在より1万人ほど減少すると予測されている2045年に向けて、様々な地方創生事業に関する施策の計画が示されています。

ここからは、伊那市が取り組んでいる地方創生事業の実例をいくつか紹介します。

伊那市50年の森林(もり)ビジョン

2016年3月、伊那市では「伊那市50年の森林(もり)ビジョン」を策定し、豊富な森林資源を生かした雇用の創出や農林業の保護、そして「社会林業都市(ソーシャル・フォレストリー都市)」の実現を目指した様々な施策を行っています。

具体的には、「伊那市産の木材の利用促進」や「森林整備の促進」、「市民への森林教育」や「木質バイオマス燃料の普及」などに地域を挙げて取り組んでいます。ちなみに、木質バイオマス燃料とは間伐材を加工してペレット状にしたもので、主にストーブやボイラーの燃料として使用されています。山を適切に管理する上で生じてしまう間伐材を利用することで、山の荒廃を防ぐことにつながっています。

また、「伊那市50年の森林(もり)ビジョン」は5年ごとに計画が見直しが行われる予定であり、すでにビジョン開始5年目に当たる2021年には、実行計画の変更や追加などが行われています。

このように、50年後でも伊那市の農林業が街の経済と雇用をしっかり支えているような未来になるように、市では日々林業に対する先進的な取り組みが行われています。

2023年に伊那市産学官交流施設が開業

2023年春、伊那市では信州大学伊那キャンパス(南箕輪村)の隣接地に、新たに産学官連携拠点施設が整備する予定です。

産学官連携とは、大学や研究機関の研究成果を企業や自治体が利用することで、教育機関と公的機関、民間企業が協力して新たなビジネス創出や課題解決に取り組むことです。

伊那市では市域の豊富な森林資源を生かして、信州大学農学部と協力して新たな雇用創出や地方創生事業に取り組もうとしています。また、この産学官連携拠点施設にはホールや会議室の他にも「レンタルラボ」を設けることで、信州大学の研究者やベンチャー企業が研究に取り組みやすい環境も整備される予定です。

先述のように、伊那市は東京と名古屋の中間に位置しており、数年後にリニアの開業も控えています。そのため、関東や東海地方からビジネスや研究目的で市を訪れる人が増える見込みで、今後の交流人口の増加が期待されています。

このように、伊那市では地域産業をビジネスや研究に結び付けることで、新たな地方創生事業に挑戦をしています。

おわりに

ここまで、長野県伊那市の観光と地方創生事業に対する取り組みについて見てきました。

伊那市では、高遠城址公園の桜やローメンなどで伊那市のPR活動を行い、観光客の呼び込みに力を入れていることが分かりました。また、市では50年規模の長期ビジョンを策定し、人口減少社会の中で今後伊那市が生き残っていくために地域が一体となって地方創生事業に取り組む姿がみえました。

伊那市を含む南信地方は、数年後のリニア開業によって交通事情が大きく変わるため、開業後の観光客や交流人口の増加、および街の活性化に向けて、今後ますます観光政策や地方創生事業が盛んなものになると思われます。また、King Gnuの活躍によって今後さらに伊那の街が取り上げられる機会も増える可能性もあります。

以上のことから、伊那市は地域社会が縮小している現代において、今後も「まだまだ可能性の秘めた街」が分かりました。私は長野県にルーツがある人間ですが、今回新たな伊那市を知ることができてとても勉強になりました。

関連文献

今回、伊那市や上伊那地域についての関連文献をサーチしたところ、私の想像を遥かに上回る数の先行文献があることが分かりました。具体的な数は分かりませんが、CiNiiや公共図書館の検索でヒットしたものだけでも、上伊那地域を研究対象にした論文数は軽く20本は超えます。

そのため、伊那市や上伊那地域については既にどの研究分野においても研究されつくしている感が否めませんが、大学のレポートの題材として用いる場合については、先行文献が豊富なためかなり書きやすくなるのではないかと思います。

また、筑波大学人文地理学・地誌学研究会が2019年に刊行した『地域研究年報』第41号では、伊那市などの「上伊那地域」を特集しています。2017年から2018年にかけて、筑波大学がおこなった野外実習の成果が多数掲載されていますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。筑波大学のオープンジャーナル「つくばリポジトリ」にて全文公開されています。

『地域研究年報』第41号(2019年2月)に掲載されている論文

その他の関連文献

  • 河内良彰『地域主義の実践ー農産物の直接販売の行方ー』(ナカニシヤ出版、2022年)

  • 小林史麿『産直市場はおもしろい! ー伊那・グリーンファームは地域の元気と雇用をつくるー』(自治体研究社、2012年)

  • 山口真一『信州・伊那ローメン物語 ー「食」から広がる町おこしー』(ほおずき書籍、2016年)

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