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#16 富山県南砺市のなんとびっくり!な芸術産業について

はじめに

『J NOTE』第16回は、富山県南砺市を取り上げます。

南砺市は、富山県西部に位置する人口約4.6万人の市です。市内の南北には東海北陸自動車道が通っており、北陸新幹線の新高岡駅にも程近い立地であることから交通アクセスにも優れています。

南砺市は、2004年に平野部の5町村山間部の3村が合併して誕生した市です。行政の中心は、警察署や市役所(2020年に福野地区から移転)などが置かれている福光地区ですが、平野部の福野・井波・城端地区にも市街地が分散しています。

表1:南砺市の地区(合併前の市町村)一覧

そんな南砺市の平野部は「散居村」と呼ばれる独特な集落形態が有名です。散居村の集落は、一般的な集落とは異なり人家が密集しておらず、家と家の間が田を隔てて大きく空いています。

また、風雨に晒されやすい集落形態であることから、家の周りに背の高い木々を植えて「カイニョ」と呼ばれる防風林を作っているのも特徴です。

そのため、高い場所から南砺市や砺波市内を眺めると、このコラムのサムネイルのように他地域ではあまり見ることがない独特な街の景色を見ることができます。

対して、山間部の地区は「五箇山」と呼ばれており、40ほどの小さな集落が山あいに点在しています。このうち、相倉集落と菅沼集落には茅葺屋根の合掌造りの建物が残されており、隣町の岐阜県白川村の荻町集落とともに世界文化遺産に登録されています。

このように、南砺市は伝統ある建物や独特の景観が有名な街ですが、他にも芸術に関する産業が特別盛んな地域でもあります。

そこで今回の『J NOTE』では、南砺市の芸術に関する産業とそれらを生かした観光振興についてみていきます。

①井波彫刻(井波地区)

南砺市の代表的な伝統工芸として、「井波彫刻」が挙げられます。

井波彫刻は、平野部の井波地区で生産されている木工の彫刻品です。江戸中期ごろに町内にある瑞泉寺から始まったもので、主に木像や襖の上にある欄間などに用いられてきました。約200種類の彫刻刀を使用して彫ることで、今にも動き出しそうな龍や獅子の荒々しさなどを緻密に表現しています。

現在、井波地区では神社仏閣の装飾品の他にも、表札や時計など多種多様な木工品を製作しています。井波彫刻協同組合では、公共施設のオブジェや額縁など様々な受注を受け付けており、個人団体問わずに注文をすることができます。

そして、井波地区では井波彫刻を生かした観光振興に取り組んでいます。

道の駅いなみ木彫りの里創遊館では、井波彫刻の見学や体験工房が併設されており、屋外には七福神の大彫刻が飾られています。

また、道の駅の隣には「井波彫刻総合会館」や「井波芸術の森」が立地しており、数多くの木工の彫刻品が展示されています。

このように、井波地区では伝統工芸を生かした観光振興を行っています。

②木製バット(福光地区)

南砺市は、国産木製バットの生産量が日本一の街です。

福光地区は大正時代から木製バットづくりが盛んな街で、現在でも20万本の木製バットを生産しています。量産品だけでなく、バット職人によって1本1本手作りで製作するオーダーメイドのバットを手掛ける会社もあり、質の高いバットがこの福光地区で生まれ続けています。

そんな福光地区には、「南砺バットミュージアム」が立地してます。南砺バットミュージアムでは現役選手やOB選手のバットが数多く展示されており、王貞治さんやイチローさんらが実際に使用したバットを間近で見ることができます。

このようなバット専門の博物館は国内でも南砺市にしかなく、全国から野球ファンが訪れる観光スポットとなっています。

③アニメ制作(城端地区)

南砺市には、アニメの制作会社が立地しています。

「ピーエーワークス」は、2000年に堀川憲司氏によって設立されたアニメスタジオです。これまで『Angel Beats!』や『レイトン教授』シリーズなど数多くのアニメーション作品の制作を手掛けています。

ピーエーワークスは、東京にも制作部門のスタジオを置いてはいるものの、本社機能やアニメーター育成のための施設などは全て城端地区に置いています。このように、都市部に本社機能がないアニメスタジオは国内でも数少なく、広々とした敷地と周りの自然環境は唯一無二といっても過言ではありません。

そんなピーエーワークスでは、地域活性化に関する事業にも取り組んでいます。

2009年に富山テレビや地元在住のクリエーターらと共同で行った「富山観光アニメプロジェクト」をはじめ、学生に向けたアニメ制作教室、北陸の街をモデルにした作品の制作など、様々な形で地域活性化に関する事業に取り組んでいます。

また、南砺市では「アニ×旅 なんと」と題して、アニメの舞台となった場所を巡る「聖地巡礼」による観光振興に力を入れています。ピーエーワークスと共同でイベントを開いたり、SNSで観光PR活動を積極的に行うなど、街を挙げてアニメを生かした観光施策に取り組んでいます。

おわりに

ここまで、富山県南砺市の芸術に関する産業と観光振興についてみてきました。

南砺市は、木工彫刻からアニメ制作まで様々な芸術が盛んな街であり、そんな街の特性を生かした観光振興に取り組まれていることが分かりました。

関連文献

  • 大森千歳「観光地へと変化した村の現状と今後の課題 ―世界遺産白川郷・五箇山の合掌造り集落を事例に―」『多文化・共生コミュニケーション論叢』第16号(フェリス女学院大学多文化・共生コミュニケーション学会、2021年)

  • 片山明久「アニメ聖地における巡礼者と地域の関係性に関する研究」『観光学評論』第1号第2巻(観光学術学会、2013年)

  • 金田彰裕「砺波散村の歴史 古代から現代まで ―歴史地理学から読み解く散村の変遷―」『Bio city』第80号(ブックエンド、2019年)


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