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オーストラリア2400km自転車旅18日目🚴‍♂️

18日目​「Take it easy」

「(・・・今何時なんだよ・ ・どうしよう・・これから・・・)」
さらにあたりを探しつづけた。眠っていたところから30mほど離れたところに、ファスナーがビロッと開いたままのリュックを見つけた。
あった!!
かけより、すぐに中を調べた。
パスポートも財布もある。
不幸中の幸い、財布は現金(40ドル)を抜かれただけで、カード類も残っていた。
・・・眼鏡は、なかった。
時計を見つけることもできなかった。
「チクショーー!」
自分を責めた。なんでアコモをケチったんだ。なんで熟睡してしまったんだ。なんでカバンを抱いて寝なかったんだ・・・
頭を地面に叩きつけた。
その後も周りを探したが、目がよく見えない。しばらくして一人のバイカーが俺の近くでバイクを停めた。彼はRHにパンを買いに来たようだったが、あいにくこのRHは24時間オープンではなかった。彼に、しばらくバイクのライトを点けておいてくれるよう、事情を話しお願いした。
「・・・ひどい奴がいるもんだ。もちろんライトは照らしてやるよ」
15分ほどその明かりの中を探したが、やはり眼鏡と時計はなかった。
「だめだー、見つからない・・・」と言うと、彼は財布から札を何枚か取り出した。
「これでサングラスでも買えよ。とにかく光は抑えられる」
なんて優しいんだ。
「それはけっこうです。でも本当にありがとう」
彼に時間を聞くと、4時くらいだと。おそらく盗られたのは1時か2時頃だろう。
「しかし腹の立つ話だ・・・元気出せよ」
そういってバイクのおっちゃんはボンボボボンボボ、音をたてて去っていた。俺は夜明けを待った。
明るくなってきてから、あたりを再度くまなく探した。
RHにあるすべてのゴミ箱をあさったが何も見つからなかった。・・・まいったなぁ。。。
今日からどうする?・・・自転車辞めたくねぇ。

ここから24キロ行ったところに、Hwyからそれることになるが、カーラッサという街があった。仕方なく予定にはなかったが、そこに行くことにした。往復50キロのエキストラ走行。悔しい、がとにかく自転車を漕ぐ。自転車を盗られなくて幸いだった。眼鏡なしでも、どこが路肩かということくらいはわかり、交通量も少なかったので、走ることはできた。ただ世界はぼんやりとしていた。事物と事物を区切る線がない。
泥水の中みたいだ。
あたりが街らしくなってからが大変だった。看板がまったく見えないものだから交番をなかなか見つけることができなかった。看板らしいものがある度に近くまでより、逐ー自転車を降りて見た。やっとの思いで、警察につき、事情を説明すると、警察官は軽くメモをとり、それから薄っぺらな頼りない『警察番号』という紙切れを渡された。
それで保険が下りるとのこと。
「大丈夫、大丈夫」と言う。
よく考えると、、、警察に話したところで、眼鏡が戻ってくる訳じゃない。あまり意味なかったか。。。
彼にBPの場所を教えてもらい、今日はこの街に一泊して休んでいくことにした。その警察署の向かい側は大きなショッピングセンターで、そこに銀行もあったので、お金をおろした。
残金を見て、、、仕事せねば、そろそろまずいなぁ、と思った。

BPはそんなに遠くないところにあった。その建物はBPの中ではとても大きいものに感じた。中に入ると、口の字型の建物のようで上から日差しが降ってきた。
白いワンピースのおねーさんが出てきた。日が当たったそのワンピースがあまりにも白く、天使か!と思った。
オーナーのようだ。そこのBPは日当たりが良くとても落ち着いた雰囲気だった。なぜか人気が全然ない。
彼女は俺を部屋まで案内してくれた。香水の匂いがする。
その部屋には先約が誰もおらず俺一人。ゆっくりできる、そう思った。荷物を部屋へと移し、自転車は部屋の外でロックし、再びショッピングセンターへと歩いて向かった。
ショッピングセンターの中に一軒眼鏡屋さんを見つけた。
さっそく、事情を話し眼鏡を作ってもらえないかとお願いしたが、視力を証明するものはないのか?と尋ねられた。
「ないならテストを受けてもらわなければならないわ。今日はいっぱいだから予約をしてもらわないと、それにはもちろん別のお金がいるし、それからレンズを取り寄せるから、2週間ほどかかるわね」と言う。
だよなぁ。。。即日って訳に行かないのはなんとなく分ってた。けど2週間は待てない。。。宿代が払えない。
「いーや、眼鏡なしで走ってやる!」そう思った。

その後、スーパーマーケットに行って、缶詰を買い集めた。それと晩飯ようにチキンを買った。安かったので2キロも買ってしまった。それにしても、視力のない眼で値段を凝視しながらの買い物は疲れた。
BPに戻り、シャワーを浴び、汗臭い服をごしごし洗って部屋に戻った。まだ日中だったが、唯一持っていたパンツも洗った。そのままフルチンでべッドに横になった。
薄暗い天井を見ながら、昨晩起こった事と向き合った。
何者かが、眠りに落ちている俺に音をたてず近付き、そっとカバンを盗って行くシーンを想像した。
一人なのか、複数なのか。
眠りこけた俺の貧相な顔がその犯人にはどのように写っていたのか。
カバンを枕にしてたくらいだから、相当近づいたんだな。
盗られたものは、4 0ドル・眼鏡・時計。
盗られなかったもの、財布・パスポート・日記帳。コーラでベタベタしてたのが、結果よかったのかなぁ、、、

・・・・・そうこう考えているうちに眠りに落ちた。

何時間眠っただろう、目が覚めるととても腹が減っていた。
とりあえずショートパンツだけはいて、キッチンに行ってチキンを焼いた。棚の中から適当に誰かの調味料を借りて味付けをした。時間帯は丁度晩飯時だったようで、BPは昼間とはうってかわって賑やかだった。日中静かだったのは、皆仕事に行っていたからか。一人でばくばくチキンを食っていると、声をかけられた。
「一人で食ってないでこっちこいよ」
「(人と話す気分じゃない・・・)」と思いつつ、それでも断れず行ってしまう。するとドデカい魚の形をしたガラスのビンを渡された。中にはたっぷりとオレンジジュースが入っている。
「ウォッカのオレンジジュース割だ。お前が一番初めに飲め!オーナーに聞いたぞ、自転車やってんだってな。どっから来て、どこに向かうのか知らねーが、スゴイやろうだ!それ飲め!」
遠慮なく飲んだ。
周りは大いに盛り上がっている。それからその大きな魚のビンは時計回りにラッパ飲みで渡されていった。変わった飲み方だなー。。。

今まで、いろんなBPに泊まり、仕事もしてきた。
そこでできた仲間との楽しかった日を思い出した。
野菜採ったり果物採ったり、それなりにタフな仕事だったけど、楽しかった。日が明るい内に仕事を終え、すがすがしい気持ちで皆で飲む酒や、ソーセージはおいしかった。

ここのBPの人たちもとてもフレンドリで素敵だ!
ただ、皆ベラベラ話すもんだから、俺にはちょっと厳しかった。目が見えないと、耳まで悪くなったようでなかなか聞き取れない。
酒飲んでる相手にゆっくり話してくれなんてシラケルし、タイミングを見計らって
「眠くなってきたから俺はこれで・・・」
と言って輪から出た。
キッチンへ行き食器を洗っていると、がたいの良い黒人に話し掛けられた。
「元気か、大将!?」
「いやー疲れてる」
続けてポロッと彼に愚痴をこぼした。
「実は昨晩、モノ盗られて・・・ほんとはここに来る予定はなかった」と言った。
俺は同情を求めていたのかも知れない。ところが彼の態度は想像の逆だった。
「ガーハッハッハッハ!!」大声で笑い出した。
「どこが面白かった?」
「ハッハッハッ!お前は幸運拾ったなー!!」
ムスッとしている俺の肩をたたいた。
「お前、真夜中に外で、体一つで熟睡して、殺されなくてよかったな!手足もちゃんとついてて傷一つない。お前はホントにラッキーなヤローだ!!」

「おぉ、、、」目を覚まさせられたような気がした。
彼の言う通りだ。ディンゴや蛇より、『人』が一番怖い。
そのことを忘れてはいけない。その『人』にモノを盗られただけですんだ。大きな幸運を拾ったんだ。

「Take it easy mate!」と最後に彼が言った。

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