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オーストラリア2400km自転車旅20日目前半🚴‍♂️

20日目前半​ 「にーちゃん」

緊張のせいで眠れない。眠れないまま深夜1時を迎えた。遅くとも2時までには出発したいと考えていた。そして今日の目的地はフォーテスキューRH、ここから110キロ。
眠れなかった不安を抱えながら、荷物をまとめ、水をタンクに汲み、全てを自転車に乗せた。
自転車のタイヤに空気をたっぷり食わせ、タイヤはパンパンに硬くなった。しっかり洗った黒のバイクショーツが気持ち良かった。臭くない。
暗い夜、雲が低く立ち込めていた。風はまだ唸っていたが、ピークは過ぎた。雨も降っていない。
ここの天使オーナーは、いろいろと気を使ってくれた。
一人で部屋に入れさせてくれたのも、俺がぐっすり眠れるようにということだった。

べッドの上に「ありがとう」の置手紙をして、そのBPを発った。

風は、期待通り向かい風。けど機嫌は良い。
しばらくは街灯のおかげであたりがよく見えた。相棒も、しっかり空気の入ったタイヤで、シャーーッという音をたててご機嫌だ。しばらく走ると、あの盗難にあったカーラッサRHが目に入った。

「もう同じ失態はしまい」心に誓った。

そこを過ぎると、またいつものHwyに乗った。
街灯もなくなった。気持ちがほっとする。
自分のフィールドに帰ってきたという安心感。もし眼鏡が入手できていなかったらどうだっただろうか、試しに眼鏡をとって走ってみる。
「・・・ムリだ。」
気が疲れる。眼鏡ほんとにありがたい。
BPを出たのが3時頃だったので、空が明るみだすのは早かった。

一人のモーターバイカーとすれ違う。
お互い手をあげる。
「オッス」と言ったニュアンス。ところが彼はわざわざUターンして俺のところまで来てエンジンを止めた。
「何やってんだぁ、おまえ?」と言われ
「おまえこそ?」と返した。
「Hey!みりゃーわかんだろ!ファッキンバイク乗ってんだよっ!」
「(こんな会話をするためにわざわざUターンを・・・)」

 オーストラリアのHwyを走っていると、口―ドトレイン・トラック・車・バイクみんなすれ違うときに手を上げたり振ったりする。人差し指だけ上げる人もいてカッコいいなと思い、俺も真似て指を立てる。自転車も車だ。
とても長く平坦な道を、40度を超える気温の中走っていると、たまに誰かとすれ違うことが嬉しい。
「お互い良くやってるなー、こんな暑い中・・・・」
その辛さを共感し合う。
このハンドコミュニケーションは眠気も覚めるし、ほっとする。
今回のこのバイカーも何かを話したかったみたい。
「俺、パースから来たんだが・・・」
彼はパースから一睡もせずに走り続けていると言う。
「昨晩がファッキン恐かった。ほーーっんとに恐ろしかった。ファッキン嵐にあって、風が強くてな、後ろに引いてあるキャリーの蓋がはずれて俺の頭上をかすめてったのよ!
・・・死ぬかと思ったぜ!
雨でべちょべちょになるし、雷がドガーンッて近くに落ちたし。。。。。
『かあさーーん!』って叫んじまったよ。。。
挙句に雷落ちたところ燃え出すし・・・
少し先に進んだら分かるぞ。燃えてっから。
ジョークじゃねーぞ!」

スゲー。。。確かに昨晩の天気は荒れてた。。。
「よくやったなー!死なないで良かったな!」
「いやーほんとに自分でもよくやったと思うぜ。」
「take it easy mate!」ボブにもらった言葉を使った。
(昨日まで腐ってたお前が言うな)と自分で思った。
「ところでお前にいいこと教えてやるよ」
おぉ、、、どんな情報だろう。

「RHに着いたら、ファッキンノーマル人間は水を買うだろ?そこでだ、水じゃなくて氷を買え。5キロのやつ売ってるだろ。あれの方が安い!そして冷たい!
nice & coolだぜ!」
彼はそう言って、満面の笑みになったことがサングラスの奥からも伝わった。
俺はいつも水道水を補給してるから無料なんだよな、、、
けどここんとこ常識の枠を越えて暑いから、たまには氷を買うのも良いな。。。
「ありがとう!大将!」
「おー気にすんな!」
彼はバイクのエンジンをかけた。
「お前もがんばれよ!」
そう言って手を振りながら去っていった。エンジン音が明るみ出した空に高らかに響き渡った。
さて俺も急がなければ。
フォーテスキューRHまであと70キロも残っていた。
そしてさっきまで空を覆っていた雲がすかすかに解け初めている。
やばいなー、太陽が、あいつ出てくるとやばいぞ。

しばらく行くと、本当にあちらこちらで煙が昇っていて、
「ほんとに燃えてらー」
おっさんよく走ったよほんと。。。

そのうち午前10時をまわる。

・・・熱さはぶっ飛んでいた。
やっばいなー、まじでこれやばいぞ・・・
汗は毛穴から出た瞬間に気化した。

11時をまわると頭は朦朧とした。

これ・・・・サウナぐらいの熱さあんじゃねーか・・・
サウナなら・・・限界が来れば出ればいい・・・
でもこれ・・・そうはいかない・・・

まわりのどこを見渡してもユラユラと揺らいでいる。
全てのものは、一瞬で枯れて、今にも発火しそう。
あぁーー。。。これは・・・意識保てないかも・・・

・・・まずい・・・考えないと

「どうする・・・」
対策が思い浮かばない。
自分の胸ぐらいの高さの木を見つけ、その影の中に倒れこんだ。。。。。かと言って熱さは弱まらない。

「どうしよ・・・」

「やばいか・・・」

フォーテスキューRHまであと20、30キロ。。。

水は、、、ある。

体に、水を浸み込ませた。
あと20、30キロこのまま走り続けるか、、、
ここに留まり体に水をかけ続けるか、、、
水が切れたあとはどうしよ、、、

「まいった・・・どうしよう・・・」

どうにもできず、また倒れこんだ・・・・・・

・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・

兄貴との昔のコト、思い出した。。。

夏の暑い日、、、扇風機が回ってた。
窓から入道雲が見えてた。

「おもんない。こんなゲームおもんないわ。」俺はそう言って、兄貴の頭をたたいた。ファミコンの野球ゲームで兄貴に負けた。めちゃくちゃ悔しかった。
思いのほか兄貴の頭を強く叩いたらしく、兄貴はさらにその頭をテーブルの角にぶつけてしまった。
兄貴は頭を抑え、うつむいたまましばらく体を起こさなかった。
しまった、、、俺は何てことを。。。
ただ痛がるその兄貴を、見ていることしかできなかった。
長い時間に感じられた。
セミが、、、うるさい、、、

ようやく兄貴は頭を上げ、俺の方を見た。
頭から、血が出てる。。
最低だ、俺。。。。
兄貴は立ち上がった。俺は歯を食いしばった。
ぶん殴られると思った。殴られたかった。。。

・・・だけど兄貴は殴らなかった。
「今日はたまたま俺が勝ったけど、次はヒロが勝つよ!またやろうな!」
なんでそんな言葉が出てくんだよ・・・にーちゃん。
「にーちゃんごめんな・・・あの時・・・」

​弟とも、よく遊んだなぁ。。。。。

弟のみっちゃんはいつも俺のあとをついて来た。俺が同年代の友達と遊んでいるときでもついてきた。だんだんそれがいやになって、怒鳴った。
「友達とだけで遊びたいからついてくんなっ!」
その日みっちゃんはついてこなかった。
俺は公園で皆と野球をした。
この時も、かんかん照りの暑い日だったなぁ。
野球、、、全然おもしろくなかった。
「ごめん用事思い出したから帰る」
走って家に帰った。
家に着いてドアを開けた。
玄関のところでみっちゃんはちっちゃくなって眠ってた。
俺の帰ってきた音で目を覚ましたみっちゃんの目も顔も真っ赤だった。。
みっちゃんはその赤い顔いっぱいで笑って
「ひろに一ちゃんおかえり!」と言った。

「みっちゃん・・・にーちゃんとクワガタ捕りにいこっか!」
・・・・・・・
・・・・・・・

こんな昔の話がなぜか思い出され、、、

『あー、兄貴とおみつに謝らなくっちゃな・・・

悪いことしたなぁ・・・・

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