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オーストラリア2400km自転車旅22日目🚴‍♂️

22日目​「GONZO」

「さ、さむっ!」寒さで目が覚める。思い出してすぐにタンクを調べた。漏れていない。
水には神経質になる。
時間は5時。。。ここんとこ夜は寒い。
何だよこの寒さは??日中あんだけ暑くなるくせに。
暑いか寒いかどっちかにしてくれよ。。。
どうにも我慢できる寒さじゃないもんだから、仕方なく懐中電灯を持って、そこらへんから石や木の枝や樹皮を集め、火を起し、両手をかざした。

「おお一温い!」少しほっとした。
ここの休憩所は意外に広いんだなと思った。小さな木々が点々とあった。
「長袖の服ほしいな。よしカナーボン(次の町)で買おう!」
なんて考えていると、後ろから声をかけられた。
「グッモーニン!」とっさにグッドモーニンと返答し振り向くと、それは昨日会ったロスだった。
「ここでキャンプしてたんか!」
車は確かにあのワゴンだ。
「日が暮れたところでちょうど休憩所だったから、それで・・・ヒロは何時に着いた?」
「3時くらい・・・ところで昨晩寒くなかった?」
「夜は寝袋で寝てるから。今起きてみて寒ってなった。」
「俺寝袋ねーから、ファイヤーしてんだけど。
一緒にあたる?」
「おはよー!」ユカも起きてきた。
「おはよ!」
「ねーほんとに食べ物ちゃんとある?」
彼女はもう一度心配してくれた。
「パン多めに持ってない?あると嬉しんだけど。」
彼女は走って一旦ワゴン車に戻った。
走らないでもいいのに・・・
しばらくして食パン一斤と丸パン3つ持ってきてくれた。
「えっ!こんなにくれんの!?」
「うん、皆いいよって」
「いやー悪いなー。ありがとう!」
ワゴン車のところまで言って、皆にお礼を言った。
「俺たちは町に着けばまたいくらでも買えるから」
と言ってくれた。
自分のテーブルに帰って、丸パンを起した火の中にぶちこんだ。
「あっクソッ焼きすぎた!」
炭みたいになってしまったが、おいしかった!
温かいブレックファスト!食った分がエネルギーとなって体を動かしてくれると思うと嬉しい。
ロスたちは、日が昇って暑くなってしまう前にと早いうちにそこを発った。

彼らが去った後、屋根付きのテーブルに寝床を移し、眠った。
日も昇り始め暖かくなってきた。その暖かさが暑さに変わるまでの3、4時間でしっかり眠った。

11時くらいになるともう無理。。。
体に水をかけながら、ディープを塗って足をマッサージしていた。。。と前方10mほどのところでザワザワザワという音と共に砂が巻き上がった。その巻き上がった砂は急速に渦を巻き、こちらに向かってくる!
「・・・??た、竜巻!」
やばいなーとわかっていながら打つ手がなかった。あっという間にその渦は俺を巻き込んだ。目をつぶることがその時の精一杯だった。
「痛っ、いたっ、いたっ、痛いっ!」砂と小石がすごい勢いで飛んでくる。
15秒ほどして風が治まったので、ゆっくり目を開けた。
「なんなんだよ、まったく・・・」
耳の中にえらく砂が入ってしまった。
あぁー気持ち悪い。さらには身の周りのものをあちらこちらに吹き飛ばしていってくれた。バイクショーツを探すのが大変だった。飛ばされたものすべてを拾い集めて思った。
「・・・『風』のやつ、俺とじゃれ合いたかったのか!」
かわいい一面もあるんだな。

またしばらく横になった。ここの休憩所のさらに奥には一軒ハウスがあった。どうやら誰か住んでいるようだ。
午後4時頃、体にかけすぎたこともあって水を補給させてもらえないだろうかと、そのハウスをノックした。

「すみませーん」すると中からおばちゃんと小学生くらいの2人の女の子が出てきた。
なんかいっぱい出てきた・・・。
「あの一水を補給させてもらえませんか?」
半分位減っているタンクを見せた。
おばちゃんはしばらくそのタンクを眺め、
「そのタンクに水は入れてあげられないわ」
「ウッ(えっ、だめなの! ? )」
「私達も水不足で困ってるの」
う~ん、それなら仕方ない。
ちょっと体に水かけすぎたな・・・

よし、あきらめて帰るか、と思った時、
「そっちのボトルにだけ水を入れてあげるわ」
とおばちゃんが言って、女の子のお姉ちゃんの方がテクテクと歩いてきて俺のボトルを2つ取り家の中へと入っていった。
妹のほうはじーっと上目遣いで俺を見つめている。
「(・・・イヤイヤイヤ、ちょっと見つめすぎだろ!?
ねーちゃん早く戻ってきてよ)」
お姉ちゃんは水を入れたボトルを返してくれた。
「ありがとう!」
「かまわないわよ。ところであなた日本人?」
「そう」
「やっぱり。私の日本語教師にそっくりだもの」
へーそうなんだ。。。日本語習ってるのか。
「ねーちょっと待ってて」と彼女は言って、一旦家の奥に入りまたすぐに戻ってきた。
「見て、コレ!学校でやったの」
彼女が見せてくれたのは日本語のひらがなドリルだった。
「おおーきれいに書けてる!」
「ええそうよ、だって先生もほめてくれたもの」
彼女ははにかみながら言った。
「ちょっと日本語しゃべってみてよ!」
彼女はしばらく何もない空を眺めてから
「わ・た・し・は・レベッカ・で・す」と上手に言った。
オーストラリアに日本語を勉強している子供がいるんだと知った。
「よくできました」と日本語で誉めた。
すると妹がキャッキャと喜びだした。
妹のことは誉めてねーぞ・・・そう思った瞬間、
妹は上目遣いになり、また見つめ合いが始まる。
おばちゃんも娘の勉強の成果をみることができて嬉しそう。
「この子はクラスの中でもとっても優秀なのよ!」
家族のことを胸を張って自慢するところが日本人とは違う。
はは!何だかこの家族おもしろい!
「ねーそれあなたの?」
レベッカは俺の相棒を指差した。
俺のじゃなかったら、誰のだよ。と思いながら頷いた。
「男の子?女の子?」
そんなこと考えたこともない。

そういえばブルームでこいつを買った時、バイクショップのおっちゃんに、
「パースに着いたらこいつを誰かに売るよ。」
と言ったことがある。そしたらおっちゃんが
「もしYоuがほんとにパースに着けたとしたら、きっと売れないよ。その時はもう恋人以上の存在さ」
と言われたのを思い出した。てことは女か?
いいや違う。こいつは男だ。多くを語らないとってもクールなやつだ。レベッカに、
「男の子だよ」と答えた。彼女は別にどっちでもいいけどって顔をしている。。。。
彼女は相棒に歩み寄った。
そしてハンドルを握った。
「こ・ん・に・ち・は、よ・し・だ・さん」
「(君の日本語教師の名前は「吉田」なんだね!?)」
と思った、と同時に相棒に名前つけてなかったなぁとも。

「あのねー!こいつはー・・・
・・・こいつの名前は・・・『ゴンゾー』っつうんだ!」

直観で『ゴンゾー』と名付けた。
名を得た相棒は・・・無口を貫いている、クールだ。
まーでも、直観でその名が浮かんだ。
そんなこんなでいろいろ話をしていくうちに
「ちょっとあがっていきなさいよ」なんて言われ、
コーヒーまで出してもらった。
お姉ちゃんはひっきりなしに日本に関する質問を投げかけてくる。
「何で日本人は頭がいいの?」とか。吉田先生は日本のいいことばっか言ってんじゃないかと心配になる。わけのわからない質問ばかりしてくるので、俺はだんだん面倒臭くなってきた。
「なんで日本語は難しいの?」
「クレイジーだからだよ」
「なんで日本人は頭がいいの?」
「クレイジーだからだよ」
「なんで日本人は空手をするの?」
「クレイジーだからだよ」
「あなたはオーストラリアと日本とどっちのほうが好き?」
「クレイジーだからだよ」
「ねえあなた、少し臭うわよ」
「黙れ!頭臭わすぞっ!!」
「ママー」
「わわわ、冗談だって」
そんなやり取りが永遠に続くかと思われ、気が遠くなった。
さっきまでこちらを見つめ続けていた妹からは警戒心が消え、
次から次へと絵を描いては「見て一、見て一」と言って画用紙を俺の鼻になすりつけてくる。
「近すぎて見えないっ! 」って言ってるのにやめない。
絵を評価できない、、、見えないのだから。
仕方がないので妹の丸パンのようなほっぺたをこれでもか!というくらいつまみまくってやった。しばらく席を外してたおばちゃんが戻ってきて、
「コーヒーのおかわりをどうぞ、ミスターよ・し・だ」
とか言う。家族みんなで俺をおちょくってんじゃねーぞ!
「そろそろ失礼します。お水ありがとう」と言って、逃げるようにその家を飛び出した。えらい目に会った。
まだ砂嵐のほうがやさしかった。

さっさとここを発とう。
荷物をまとめ、もう一度軽くマッサージして、膝にはサポーター、手にはグローブをつけた。
そして吉田さん、、、じゃなくてゴンゾーにまたがった。
水の量が若干不安だったので、体にかけるのはよしておいた。風は今日もダメ。さらにはアップダウンが激しい道だった。
あぁー今晩もつらい走りになりそうだ。

次のミニヤRHまで160キロ。昨日からだろうか、道路わきのブッシュの背丈が高くなってきている。
もうあまり不毛な雰囲気はない。月明かりで道の先もそれなりに見渡せる。ムーディーな薄明かりだ。
「おぉー、だいぶ風景も変わってきたな。。。」
吹けない口笛を吹きながらゴンゾーを漕いだ。
「パースまで、半分切った!
これからも頼むな、ゴンゾー!」
しだいに風も弱まり、想いのほか気持ち良く走ることができた。

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