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オーストラリア2400Km自転車旅37日目🚴‍♂️

37日目​   「声」

早起きしたおかげで6時半に出発できた。
この日も雲は一つもなく澄み渡った青空だった。景色はどんどん表情を変えていく。
6mくらいの高い緑の木でHwyは挟まれている。

今日は暑かった。

吹けない口笛を吹きながら自転車を漕いでいた。
道中地図にのっていないレストエリアを見つけた。
有難いことにそこには大きな雨水タンクがあった。
今日は水の消費量が多く、飲みすぎてしまっていたので助かる。。。
タンクの側にゴンゾーを立てかけ、それから蛇口を軽くひねってみると、ちょろちょろっとだがちゃんと出た。
そのことを確認してから残っていたタンクの水をがぶがぶと遠慮なしに、わざと口から溢れ出るように豪快に飲み、満足いってから体にぶっかけた。

・・・その瞬間絶妙なタイミングで『風』が吹き、気持ち良すぎて気絶しそうになった。

あぁーー!気持ちぃ一!!

しばらくそこで休憩をしていると、茶色のかわいらしい車が入ってきた。タンクのそばの影の中に車を停め、中からぶっくりと太ったおばちゃんが出てきた。

デカいな、、、そう思った。
助手席には彼女のお母さんだろうか?
おばあちゃんがうつろな目をしてカなく座っている。
おばちゃんはお母さんのシートをほんとんど平らに倒してしまうと、自分は俺のそばにきてタンクを囲っている少し高みのあるコンクリートに腰をおろした。

「今日は暑いわ・・・運転してたら気が遠くなっちゃう。
ちょうどレストエリアがあって良かったわ」
いやいやほんとに。。。

「あなた自転車やってんの!?こんなに暑いのに!?」

暑さにはかなりの耐性がついていたので、今日くらいなら全然大丈夫と思ったが、ただコクリとうなずいた。

「強い男にちがいないよ、あなたは。
目を見ればわかるのよ、私」
と、俺の目を見ずにそう言った。
それでもそう言われて何か嬉しくて、照れ隠しに右手で頭を掻こうとした。

「、、、もしくは変人よあなた。目を見ればわかるの」
ちゃんと俺の目を見てそう付け加えたもんだから、頭のところまで上げた右手の始末に困った。
そのナンのように垂れ下がった二の腕のお肉をつまんでくれようか。
おばちゃんはぶっくりした大きなお腹を持ち上げるようにして立ち上がり、車の後部座席のドアを開けて上半身だけつっこみ、お尻はこちらに向けた。
黄色いズボンだったので大きなシュークリームのようだ。
何かを取り出そうとしているのか、とにかくお尻がすごい。
彼女は車からぬっぽりと上半身を抜き出し、また俺の方に、のしのしと向かってきた。
俺の旅もここまでか・・・

「これ、持って行きなさい」
と、渡してくれたのは紙パックのリンゴジュースだった。

「おぉーーありがとう!」
ジュースはほんとに嬉しかった。冷たかったし、3つもくれた!

「こんなにいいの?」
と聞くと、バチンッと音が聞こえてきそうなくらい大きなウインクをしてくれた。
彼女はまたすぐに車に戻り、おばあちゃんのシートをゆっくり起こした。おばあちゃんの目はやっぱりうつろだ。
でも何もかも分かっているような・・・不思議な目をしてた。
シュークリームおばちゃんは自分の体も車に押し込みエンジンをふかし去っていった。その車の後ろ姿は明らかに右に深く沈んでいた。
クリームがこぼれないか・・・俺はその姿が消える最後まで見送った。
ありがとう。



午後8時半、ビヌーRH着。
ここにはアコモデ―ションがなかったので、

「どこか眠るのに良い場所はないでしようか?」
と店員さんに聞いてみたところ、そのショップの隣にある建物の裏が目立たなくていいんじゃないか、と勧めてくれた。

さっそくそこに行ってみた。
その建物はどうやらここの村の公民館のようだ。

あたりは暗黒だった。
公民館だけに人気があるような無いような奇妙な雰囲気だ。

風は強くその建物の隙間でゴーゴーと唸り、
そこらの木々をゆさゆさと揺らしている。。

それでも幸運なことに、壁のおかげで風が体にあたることは無く、火を起こさずに済みそうだ。

ゴンゾーを壁に立てかけ、寄り添うようにマットをしいて横になった。
寒くはなかったが、風の音が怖くて眠れなかった。
荒れてるなぁー。。。

こんなふうに夜に恐怖したのは久しぶりだ。
眠れそうになかったので、眠ることをあきらめ、上半身を起こしあぐらをかいた。

いろいろ考えたり、ゴンゾーに話し掛けたりした。

「なーゴンゾー、最近交通量が増えたなー」
「何だかなぁ、昔のような、自転車を始めた頃のような孤独な、世界を独り占めした感覚、もう無理かなぁ・・・」
考えてみると、俺はこの自転車の旅をうまくこなせるようになった。
足に筋肉がついたのかも知れないし、
精神がタフになってきたのかも知れない。
実際そうなることを求めていたのに・・・
複雑だ。。。



ゴンゾーをもう一度よく見た。

「お前、そんな感じだったっけ?」

いつもと違うように見えた。
ゴンゾーを引き寄せて一緒に毛布に入った。

この夜に感じたことは、不思議な感覚だった。

この旅を始めたのは、明確な理由もなく、
『やってみたい』というだけだった。
それでゴンゾーを買って、自転車の旅を始めた。

でも、なんで自転車なんだ。
俺は自転車が好きだったか!?
なんで今なんだ!?

太陽と月
 
海と風
 
緑と荒野

宙と人

みんな『怖さ』と『抱擁』を与えてくれた。
その度に、俺の心は膨らんだ。トクゥン

『今』見ておくべきもの
『今』しか感じとれないもの
それを見ること、触れること、
全て決まってたんじゃないか。。。

『おーいヒロ!お前にいいもん見してやるよ!
俺たち今しか遊んでやれないぞ!特別だ!
来い!』

そんな声が、聞こえてたんだ。

今晩の『風』は荒れている。。。
公民館のどこかで、木のドアがギィーと閉まる音がした。

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