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オーストラリア2400km自転車旅10日目🚴‍♂️

10日目 「バーンヒル」

朝5時に目が覚めた。ハエが起き出す前だ。空は曇っている。。。やけにぐっすり眠れた。良いことなのか悪いことなのか屋外のテーブルの上で寝ることにも慣れてきた。Hwy沿いのブッシュ脇で横になるよりはずっと安心感が持てた。ディープを取り出し足に塗り、マッサージを始めた。パースまであと4分の3、絶対この休養中に完治させてやろう!そう思っていると雨が降り出した。その雨でシュンも目を覚まし、一緒にテントをたたんだ。その雨は30分ほど降り続け、最後に二重の太く鮮やかな虹を北の空に残していった。シュンがやけに喜んでいたのを憶えている。

「最後に虹見たのはいつだったかなぁ、すごいなー!」とシュン。色鮮やかな虹は、俺たち2人の士気をあげた。

「攻めるか!バーンヒル」荷物をまとめ、そそくさとつまらないポートスミスを発った。一直線、あのタイヤへと辿り着く。やはりゲートには鍵がかかってある。シュンは隠すように林の中へ車を入れ込んだ。

「じゃーシュン行こうか!」おのおの2リットルの水を持ち、ゲートをくぐり、9キロの道を歩き始めた。しかしそれを歩ききったところでオーナーがそこにいるという保証はなかった。

「シュン、最悪20キロの無駄歩きになるけど、いいか?」

「無駄にはならないよ。あの海が見れる!」空はすっかり晴れ渡っていた。深く青い。太陽は恐ろしく燃えていた。道の先は針のように細くなっている。シュンは帽子代わりにシャツをかぶった。砂道は膝に優しくない。さらにゲートを2つくぐり、出発してから2時間半後、バーンヒルについた。真っ先に海を見たい気持ちを抑え、オーナーの家に向かった。すると突然番犬がほえながら飛び出してきた。この番犬が・・・ブサイクだった。あぁ、、頭がでかい、、体との比率が1対1くらいじゃないか(笑)迫力があるといえばある。

「うぉー ごめんって、許して」と言いながら、そーと犬の頭に手を伸ばした。噛まれないか不安だったが無事触れる事ができた。ゆっくり撫でた。喉の下をタプタプした。すると、

「何だ、お前けっこういいやつなのね」っと思ったらしく、気持ち良さそうに目を細めた。

「こいつ・・・使える番大だな!」とシュンに言うと、笑っていた。犬に認めてもらった後、大きな声で「ノックノック!」と家に向かって叫んだが、反応はない。鍵がかかっていなかったので、中を覗いてもみたけどやはりいない。しかし犬を置いてったということは近いうちに戻ってくるんだろう、と考えられた。とりあえずその時点で打つ手がなくなってしまったが、不思議と大きな落胆はなかった。

「海行こうか!」

海に向かった。当然バーンヒルには、俺たち2人を除いて誰もいなかった。もちろん海にも誰もいない。シュンは泳いだり走ったり寝転んだりしていたのか、俺にはよくわからない(後で聞いたらフルチンで泳いでいたらしい)。俺は例のごとくあの丘の上のべンチでTシャツを頭にかぶせ、自分の汗臭さに酔いながら眠りこけた。もう正午を回っていただろうか、ふと車のエンジン音に気付き飛び起きた。

「オーナー帰ってきた?」急いで、キャラパーの方へ、今俺たちがこの中にいる理由についてどう説明するかを考えながら走った。と、そこにいたのはオーナーではなく、2台の車とオージー若者男女6人がいた。俺たちはお互いにびっくりした。「どうやって入ってきたんだ?」とお互い思ったのだ。軽く挨拶をした後

「え!?どうやって車で中に!?」と尋ねた。

「ブルームのインフォで、 ここの電話番号を聞いてすぐに電話したんだけど繋がらなくて、そしたらそのインフォのおばちゃんが、『バーンヒルのオーナーはゲートの近くのどこかに鍵を隠してるわよ』と教えてくれたんだ。とりあえず行ってみるかってことになって、ゲートのところで鍵を探してみたんだ。でもなかなか見つからなくてあきらめようかって思った時に、ゲートの真下の砂の中に鍵を隠してあるのを見つけたんだ!それで中に入ってこれたわけさ。」何てこった、鍵が近くに隠してあるなんて。。。

「すごい!しかしむちゃくちゃだなそのインフォ!そんなこと教えちゃっていいのかよ! ?」

自転車初日、俺に説教を垂れたあのおばちゃんだ。

「俺たちもそう思ったよ。ところでゲートのところで車を見つけたけど、あれ君のだろ?まさかココまで歩いた??」あの超ボコボコの車はシュンのだ。俺のではないと思ったが、それは今どうでもいい。

「長かった・・・友達と2人で歩いてきた!」

「オーマイガッ・・・何時間かかった?」

「2時間半」

「おぉ、、ファッキン・・・俺がゲートのところまで君らを連れてってやるよ。それで車でここまで来るといいさ!」

「そりゃー助かる!ちょっと待ってて、友達呼んでくる」 

この時俺は少し複雑な気持ちだった、、、車で中に入って来れる嬉しさと、このバーンヒルを占有できないガッカリが入り混じった。だけど、とにかくこれでバーンヒルで生活できる。。。よし喜ぼう!そうして、彼らのおかげで無事車で中に入ることができた。

「結局なんとかなったね!」とシュン。

「ほんとな。」俺たちは、 ここでの生活の実現を喜びながらスイカを食べた。 このスイ力のうまかったこと!

シュンは「あー最高!おいしすぎる!」と言って、ひたすら食っていた。なにしろ大きいスイカなので、半分はお礼にと6人組にあげたが、シュンはまだ食べ足りなさそうだった。俺は冷蔵庫の心配をした。冷蔵庫はあるのだが電気が通っていなかった。オーナーはラジエーター(発電機)を止めて外出していた。冷蔵庫がないとビールが冷やせない、ビールが冷やせないとシュンがシュンでなくなってしまう。オーナーんちの冷蔵庫はどうだろうか?と思い、ビッグヘッドをタプタプして、勝手に侵入した。冷蔵庫ではなくフリーザー(冷凍庫)があった。やはり電気は止まっていたので少し中の物が溶けはじめてはいた、が十分冷たかった。これならビールを冷やせる!シュンに即報告し、そこにビールを入れた。フリーザーの中にはたくさんの食料があったので、オーナーすぐ帰ってきそうだな、と思った。その後あの例の奥の小屋で、俺は前回と同じべッド、シュンは俺のもひとつ奥のべッドで昼寝した。ご無沙汰のべッドでついつい顔がほころんでしまった。

夕方5時ごろ俺たちは目を覚ました。やらなければならないことがあった・・・タコ捕り。そもそもシュンは一人分の食料しか買い込んでいなかったわけで、タコで何とか2人が生きていける分を補わなければ。そんなことで海に向かったが、様子が違った。岩場が無いのだ。しばらく待ったが結局少ししか岩場は現れず、今晩は不発だった。晩御飯にタコとはいかなかったが、シュンが買っていたソーセージを焼いて、ご飯を炊いて小屋の外の椅子に座り、満天の星空の下でそれを食べた。シュンは本当にうまそうにビールを飲んだ。笑っている。風は言うまでもなく気持ち良かった。俺はあのハーブが用意していた木々で火を起こした。ハーブにはほんとに悪いことをした。

「シュン、俺さーハーブに悪いことしてしまって・・・」魚を腐らせたことを話した。

「ハーブは不思議なやつだった。彼に会ってなかったら、僕達バーンヒルなんて知ることはなかった。彼が僕達を天国に導いてくれたんだ。」シュンはいつも文学的だ。けど本当にハーブは神の使いだったのかもしれない。誰もがその使いに出会えるわけじゃないと、思った。シュンだからこそ、シュンの優しさが導いた結果でもある。俺だったらまずハーブを車に乗せることはしなかった、言い切れる。たまたまシュンと友達だったから、俺はバーンヒルに来ることができた。ハーブとの出会い、シュンとの出会いをありがたいと思った。この時のキャンプファイヤーはとても良かった。火は懐かしい匂いがした。不思議な気分だった。周りには、その火以外光っているものは何もない。火の光を反射しているシュンの顔が白い仮面のようで、かつ笑っているから不気味だった。久しぶりのちゃんとした飯、リラックス。月が出ていた。星はあいかわらずすごい。ワインもビールも飲んだ。俺は気持ち良く疲れて、後片付けもできず、

「シュン、片付けは明日俺がするから、そのままおいとってな。」と言って先に横になった。

火の中の木が時折、パチンッとはじけていた。

「あっ、また見つけた!」と言いながら、シュンは特技「流れ星」に夢中になっている。

「いつまでやってるつもりだろう、あいつ・・・」と思っているうちに眠りに落ちた。

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