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オーストラリア2400Km自転車旅38日目🚴‍♂️

38日目  「街・ジェラルトン」

夜明けが来た。
太陽はいつも通り昇る。。。

いつもより遠くみえる。。。
・・・だめだ、寂しい。。。

缶詰をほおばり、足をマッサージして、荷物を積みゴンゾーに乗った。

この日は・・・追い風だった。。。
・・・だからそれが寂しいって。。。

「・・・夏」

空にはちょこちょこと弱々しく丸い雲が見受けられた。
それを除けば深く青い色をした良い天気だった。

ノースハンプトンまでの40キロを2時間で走った。
昨日と同じく木々の緑が目にしみた。道はまっすぐではなく湾曲したり上ったり下がったり。
ノースハンプトンに近付くにつれて、あたりには広々としたファームが広がり始める。

いろんな角度で緩やかに曲面している大地を、黄緑色の綺麗な芝が覆っている。とってもやさしい色だ。
そんなファームの中にある小さな丘の上なんかには、時折かわいらしい家がポツンと建っていて、そんな絵本の中から出てきたようなかわいらしい家で、一体どんな生活をしているのか、と想像を巡らした。

「俺がもしこの家で住むなら・・・
朝早くから畑仕事して、昼飯は家で、分厚い肉のサンドウィッチ食べてから昼寝、その後、
ホットコーヒーに角砂糖5個くらい入れてゆっくり飲む、で15時くらいからまたボチボチ畑仕事して、19時にまた家に戻る、それでシャワーを浴びて頭は乾かさずハーブ入りの歯ごたえの強いウィンナー10本くらい焼いてテラスで食べて、なんか口の中がキシキシするなぁ、とか言いながらビールを瓶のまま飲む、腹が膨れたら面倒くさくなる前に歯を磨いておっきなソファーで横になって本を読む、それで知らない間に寝てしまうけど寒くなってきて目が覚めて、暖炉まで行って火をおこす、その火の明かりだけでまた本を読む。明日何時に起きるかは特に決めてない。

・・・最高だな!ゴンゾー!聞いてるか?俺のはなし!?」

ノースハンプトンは静かで、落ち着いた雰囲気をもつ村だった。家ーつ一つはおままごとセットからでてきたような可愛らしさ。
この村には警察なんて要らないだろうな、
と思える。
小さなショップに入り、ジュースを一本持ってレジに向かった。
その時レジをしていたのは、レジの当番をまかせられるにはちょっと頼りない若い女の子だった。彼女は俺の頭の上をブンブン飛び回っているハエを見ながらジュースをバーコードに通すこともせず話し掛けてきた。
客は俺以外になく、きっと暇してたんだろう。

「どこから来たの?」とか
「一日にどのくらいの距離を走るの?」
計5つほどの質問を一通り聞き終わるとさらに彼女は言った。

「何を考えながら走ってるの?ずーっと自転車漕いでるわけでしょ。景色もそんなに面白くないと思うし。」

今俺は、一応ジュースを手にレジ前に立ち、財布をもう一方の手に持っている。
『客がレジ前に来てから、何分会計せずに過ごせるか!!ワクワクチャレンジ!』
そんな彼女のオリジナルゲームの最長記録達成の相手として選ばれたらしい。。。
あとでゴンゾーに報告だ。

それはそうと彼女は若いわりに落ち着いている。さすがこのゲームの主催者。

(何を考えながら走っているのか・・・)
新鮮な質問だった。何で自転車をやってるのか?とよく聞かれたが、漕いでいる時に何を思うか、と聞いてこられたのは初めて。​

「『オージーのやさしさ』についてよく考える」と答えた。
彼女は、何それっ?て顔をした。

「道中たくさんの人が助けてくれた。冷たい水くれたり薬くれたり。そういう人たちのおかげで今でも自転車続けられてる・・・オージーは良いな。とても自然に当たり前にやさしくしてくれる」

「だけど全員が全員やさしいってわけじゃないでしょ?」

「全員やさしいってわけじゃないけど・・・
けどやっぱりやさしい人多いよ・・・

このジュース、サービスしてくれる?」

彼女はクスッと肩をすくめた後、ピッとジュースのバーコードを通した。
「1ドル50セント」と言って、両手を俺のほうに差し出した。
憎たらしいけど、笑った。

店を出て、べンチを見つけ、しばらくそこでジュースを飲みながら休憩した。

今日の目的地はいよいよ、『ジェラルトン』という大きな街。
カナーボンから480キロ。
ノースハンプトンからはあと50キロ。
確実にパースに近づいてきている。。。
ジュースも飲み終わり、十分に休憩をとるとまた走り出した。
途中、車の中から青年が俺に向かって一言叫んだ
「足を折れ(Bend your legs) ! !」
と確かに聞こえた。
何てことを言いやがるんだ!
お前に言われるまでもなく俺の足はもうボロボロだ!
あぁー腹立つ。。。とその時は思った。
あとで辞書で調べてみると、それには「がんばれ」という意味があるらしかった。
足が折れてしまうくらいの根性でいけ!と。
「サンキュー!」と答えるべき場面だった。

そんなこともありつつ、ジェラルトンまでの50キロは、マイペースで走ることができた。
今まで1キロ1キロが辛く苦痛の旅だったから調子が狂う。

ジェラルトンに着くと、その街のデカさに圧倒された。周りはすっかり街の雰囲気になっていたのに、その中心街に着くまでさらに30分以上かかった。デカかった。

道路はすごい交通量で、信号もたくさんあった。
スーパーマーケットやショッピングモールなどのデカい建物がデンと存在していた。
待ちゆく人の視線が少し痛い。

「祝ジェラルトン着!」
まず始めにインフォメーションセンターでBPの位置を教えてもらった。
そのBPはカナーボンの時同様、海沿いにあって、のどかではあったが都会の色も濃かった。
それが嫌なわけではないが、この都会の奥にあるパースの存在を感じずにいられず緊張してしまう。
すぐに部屋をもらい、シャワーを浴び、洗濯し、晩飯の買出し、ついでに街の散策へ繰り出した。スーパーマーケットは何度行っても楽しい。たいした物や量を買うわけではないのだけど、プラプラとした。

BPに戻り、洗濯物を取り込み終わると、少し早い時間だったがさっそく晩飯をつくった。
BPで晩飯を作るときは早いにこしたことはない。なぜなら1人でキッチンを独占できるから。混みあってくると、やれ包丁がない、フライパンがないやらで、下手したら人が使ったものを洗わされる羽目にもなる。
俺はささっと野菜炒めをつくり、夜風があたる外の涼しいべンチでそれを食い始めた。潮風のせいもあってか、ちょっと塩っからい。

しばらくして
「隣に座ってもいい?」
と、金髪で目の青い子に声をかけられた。
「Why not!?」
俺はこの言葉が好きだ。ハーブが宿代をおごってくれた時によく使っていた。

「サンクス!」

「皿持ってきなよ。野菜炒めよかったらあげる。」
(しょっぱいから、、、薦めるべきじゃなかったか。。。)

彼女は確かスイス人だったと思う。名前はマーガレット。ご飯を食べながら話をした。

「あなた、日本人!?」

「うん」

「私、日本好きで、日本人と話したくって」

「そうなんだ?」

「だけど日本人の旅行者は、日本人とばかりくっついてて」

「あぁ。。。俺もそうなる。英語がさ・・・やっぱり難しくて。マーガレットは日本のどこが好き?」

「アニメ」

あーやばい、全然話せないかも。

「そうなんだ」

普通に考えると、このあと何のアニメが好きなの?と言わなきゃいけない。でも言えかった。
「私、絶対いつか日本に行きたいの」
そう言うと彼女は嬉しそうな顔をした。
アニメに限らずだけど、自分が日本のことあまり知らないなと痛感した。自分の国にもっと関心を持たないと。。。

ご飯を食べ終わり、使った食器を洗い終わると、彼女にまた明日、と言って自分の部屋へと戻った。
まだ寝るには早い時間だったが、眠れそうだった。
俺の部屋は二人部屋で、すでに1人、大きな刺青をばっちり背中に光らせているいかにもジャイアンな男がべッドで横になっている。

『あぁ、恐そうなのがいるよ、、、』
と思いながら自分のべッドにそーと腰をかけた時、ジャイアンは体を起こし叫んだ。

「駄目だ一眠れねーー!」

「ごめん!起こした?」と、聞くと

「いやちがう。お前のせいじゃない。ところで音楽をかけていいか?眠れないんだ」

こんな時間に眠らなければならない理由があるのだろうか?そんなことを疑問に思いながらもビビりの俺は
「Why not!?」と答えていた。

流れ始めたのはオーストラリア人が大好きなカントリーミュージックだった。それは別段うるさい曲ではないが、眠りを誘う要素もなかった。とぼけたカウボーイが馬にまたがりパッカパッカと砂漠の中を進んでいくシーンをイメージさせられる。
電灯は消えていたので俺は目を閉じて眠ろうと試みた。
さっきまで眠れる自信があったのに、変な顔のカウボーイが口一プをブルンブルン振り回している姿が浮かんできて、
そのブルンブルンが頭から離れず眠れなくなってしまった。
音楽をやっぱり消してくれと言える勇気はなかった。
せっかくのべッドだというのに・・・・

ジャイアンはいびきをかいていて、音楽を聴いているようには見えない。

俺は、部屋を出た。
廊下の明かりだまりで、溜まっていた日記を書いた。

この街には2泊し、パースに向かう体調を整えた。

あと420キロ。

※読んで下さっている方へ。次回42日目まで飛びます。
基となる日記をつけてませんでしたm(__)m

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