オーストラリア2400km自転車旅23日目🚴‍♂️

23日目「ディンゴ」

やっぱり夜は寒い、そして眠い。なんでこんなに気温差があるんだ?まったく意地の悪い国だ。

この晩の走りでは、居眠りを我慢してけっこう走ることに成功した。120キロ走行。朝日が昇り、日が体に当たりだした時は嬉しかった。なんせあったかい。。。

俺は俺で好き勝手なこと言っている。太陽に対して、死ねっつったり、早く昇れ一つったり。まー好き勝手言ったところで彼は聞いていないし、ないから好き勝手言っている。ついさっきまで魅惑の月を右手に夜の道を走っていたのに、気付けば燃える太陽を左手に光の中を走っている。

俺は自分を中心にした天空の大回転を味わっていた。

太陽に向かって叫んだ。

「ありがとう一!!」

こんなことが言えるのも今日は朝9時までにミニヤRHに着ける余裕があったから。

9時前に左手の林の中にガソリンの看板がそびえ立っているのが見えた。

「よし着いた!」

この夜の走りに辛さはなかった。とうとう俺は、この旅を上手くこなせるようになった。けどそれが。。。それほど嬉しくない。

いつものようにまずはジュースを買って飲んだ。自分へのご褒美。あとチップスも買って食べた。塩分がめちゃくちゃうまい。芝生の上にマットをしいて横になると、やっぱり太陽をうとましく思った。打ち落としてくれようと、石をやつに向かって投げた。

疲れただけだった。

ふとお店のほうに目をやって、ドキッとした。

レベッカファミリーがいた。
あーどうしたもんかなー、しばらく考えていいことを思いついた。
俺がまだオーストラリア東海岸を車で旅していた時、どこかの町のへんぴな店で、恐竜の小さなゴム人形(水につけるとデカクなるやつ)を4つ、なんとはなしに買っていた。ありとあらゆる無駄な荷物を捨ててきたが、これはかさばらないし、捨てずに持っていた。それを2つ手に持って、レベッカ姉妹に近付いた。

「メリークリスマス!」大きい声で言って驚かせてやった!そして恐竜をあげた。

「わーありがとう!」

「どういたしまして」

「何コレ??」

「えっ!?恐竜・・・」

「・・・ふ~ん」

あげて損した。憎たらしいやつめ。とりあえず妹のほっぺたをつまんだ。おばちゃんも俺に気付いた。

「まーヒロ!」

おぉーちゃんと名前覚えてくれてる。

「昨晩はねーあなたがいなくなった後もあなたの話でとても盛り上がったのよ!」

・・・よっぽど話題がないんだな。。。

「今日はね、カナーボンに皆で行くの。明日はクリスマスイブだから、いろいろ買わないとね。たくさんの料理とシャンパンと・・・(お・も・ちゃ)」

最後だけ声をすぼめた。子供にはサプライズのようだ。

「たいへんですね・・・あっ、昨日は水ありがとうございました。おかげで今もこうして生きています。」

「それは良かった。それじゃ一私達は行くわ。またHwyで会うかもしれないわね。」

「それではその時に。レベッカバイバイ!」

「またね!」この時は、もう一度彼女らの帰路の時に会えると思っていたけど、結局話したのはこれが最後だった。

いつものように横になりながら涼しくなるのを待った。 このRHには人目のつかないテーブルがなかったので、敷地の出来るだけ奥の方の地べたで横になっていた。
蟻に起こされた。

「あっ、痛っ、こらお前か!噛んだんはお前か!」

オーストラリアのアリの顎は腹が立つほど強力だ。この時俺は頭を西に向けて横になっていた。風が強く、砂が耳に入った。左耳に入って、「あれっ?」と違和感を感じた。
風が・・・ひょっとして北から吹いてないか!?

「おぉー!もしやフォーテスキューの奇跡再びか!!」

あの3時間で90キロの奇跡。
跳ね起きて、急いで出る用意をした!
時間はまだ昼の3時。しかしそんなことを言っている場合ではない。タンクに水をくんだ。水道には「飲み水ではありません」と注意書きがしてある。まーいつものことだが試しにちょっと飲んでみる。
「うぇー」
何だか今までになくまずい。
全身に水をぶっかけてゴンゾーに飛び乗って、走り出した。
Hwyに出る。

「・・・あ、あれっ!?」

がっかりした。
Hwyに出てみると、自転車は重い。

何だよまったく、一時的な風だったのか、俺の方向感覚がおかしかったのか・・・
やれやれ。。。

もう飛び出してしまったもんはどうしようもない。仕方なくそのまま次の目的地に向かうことにした。
次の目的地はいよいよおっきな街、カナーボン。距離は140キロ、長い夜になりそう。。。

この日の走りはきつかった。寒いし、眠いし、最近ずっとそうなのだか、この夜はとくにひどかった。俺は寝袋もテントもないが、唯一1枚ブランケットを持っていた。シンガポールかマレーシア空港の紫色の機内用ブランケットだ。東海岸を車で一緒に旅をしていた友達が置いていってくれた代物。これがとても薄いからたたむとコンパクトで重宝したが、薄い分寒い。一旦このブランケットをカバンから取り出すと最後、夜は寝ては行けないと分かっていても寝てしまう。。。
そこが林だろうが、デコボコの砂利の上だろうが関係ない。道路から8mくらい離れると林がある。ちょうど道路と林の真中4mくらのところでゴンゾーを倒し、俺もついでに倒れた。

犬は熟睡することはなく、半覚醒状態で目をつぶっていると聞いたことがある。そんな風に俺も、体の左半分でディンゴを意識し、右半分はロードトレインを意識しながら寝る、をしてるつもりだったが、半覚醒はやっぱり無理。

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何分?いや1時間ほど寝てしまったのかもしれない。ふと目を開けた・・・すると、目があった。

「うわー・・・何かおる!」
びびった。これがディンゴか?と一瞬思ったが、今まで見たことがないから正解がわからない。背丈は俺の膝から腰の間たり、、、けっこうでかい。キツネのようにも見える・・・これがディンゴか。

(落ち着けぇー)

そぉーとあのファームの棒を手にとった。いつもそれを体のそばに置いていた。それが俺のできる唯一のディンゴ対策だった。彼女(何の根拠もないが、切れ長の目に女性らしさがあった)はジーッと俺を睨んでいる。俺は弱々しく上体を起し、その棒を彼女の方に向けてゆっくりと振りかざした。彼女は俺の左手前方からテクテクと右手前方へと回り込み、改めてこちらを見つめている。

もう一度、今度は少し大きめに棒を振りまわした。彼女はバッと後ろに身を下げ、そのまま右の方へ歩きだした。道路を横切る。道路の真中で一旦立ち止まり、またこちらを軽く振り返り、もう一度俺を見た。

月が明るく、彼女の姿や顔がよく見える。しばらく見つめ合い、その後道路をはさんだ反対側の林の中へと去っていった。

「・・・あせったー」胸を撫で下ろした。すっかり目は覚めた。

「ゴンゾー、あれがディンゴか?」

ゴンゾーは基本無口なので答えなかった。それにしても寒い。まいったなーこの寒さ、まーけど目は覚めたし走るとするか。そう思い、再びゆっくりと自転車を漕ぎ出した。うーむやっぱり走るとなおさら寒い。寒くて眠い、意識は遠い、体から半分魂がはみ出ている状態で、ゴンゾーにしがみついていた。

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突如、目の前が眩しく光った。真っ白な光。その光は、叫ぶ時間も考える時間も俺に与えず、一瞬で大きく膨らんだ。完全に世界は真っ白になり、

「(あーーっ、トラックだな・・・)」

あきらめた。目はつぶらなかった。その光は次に一瞬で収縮し、ゴゴゴゴーー轟音と爆風へと変貌し、鼻先で山のようにデカく黒い塊が横切っていった。。。

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ゴンゾーの車輪が風で空回りする音が聞こえた。カラカラカラ

「?・・俺・・・えっ!?助かった?!」

自分で自分の体を見わたした。俺は道路わき1mのところで横になっていた。すぐそばにはゴンゾーがいる。ゴンゾーも俺も壊れてない。。。

「寝ちまってた・・・」

半ば無意識に自転車を降り、道路のすぐ脇で寝てしまったようだった。それで半覚醒状態でロードトレインのハイビームを浴びた

・・・激しい鼓動、喉のおくから心臓が飛び出しそうになり胃液を吐いた。ドクドクが止まらない。

今度から眠いときは我慢せず寝よう。眠いと思ったら道路から十分に離れ、林のそばで寝よう。ディンゴやヘビに噛まれても即死ではない、しかし、ロードトレインにひかれたら「瞬殺」だ。。。

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