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オーストラリア2400km自転車旅5日目🚴‍♂️

5日目「もう辞めてやる」

 朝5時頃、ブンブンブンブンうるさい音で眼が覚めた。目を開けると大量の蚊が顔の周りをたかっていた。体の神経が通いだし、ものすごく痒いことに気が付いた。あんまりにも痒いもんだからびっくりして急に体を起し、膝に激痛が走った。顔がパンパンに腫れて熱を持っているのがわかる。あぁー最悪

「やめろーお前らーー!!」

蚊に怒鳴った。ここにはおられないと思い、いそいでマットをたたみ自転車にまたがった。あたりは明るくなってきていたが気分は真っ暗。しぶしぶ自転車を漕ぐ。ここからサンドファイヤーRHまでまだあと107キロも残っていた。当初の予定では、この休憩所が今晩の目的地で、サンドファイヤーに明日の晩到着予定だった。ステディーに走っていれば膝も治っていたかもしれない。しかし、今はとにかく進むしかない。動き続けなければ蚊に咬まれる。それにしてもこの日は辛かった。。膝の激痛、睡眠不足、異常な太陽のさかり・・・体は今にも溶けてなくなりそうに思えた。

そんな半生半死の俺の口から出るのは、ひたすら文句ばかり。

「やめろ!!畜生めっ!殺してやる!お前ら殺してやるーーっ!!」と

太陽、風に対して。

熱さも絶頂の昼2時3時ごろ、道路の脇に自転車を倒し、小さな木陰を見つけ、ヘビチェックする余裕も無く倒れこんだ。

「ちくしょー・・・ちくしょー・・・」

この世に神様なんていないんだということを知った。そんな時向かい側から走ってきた車がとまり、若いに一ちゃんが降りてきた。 こっちに向かって歩いてくる。

「大丈夫?」

「死んではいない」と答えた。

「これ、きみに」と言って渡してくれたのは、6 0 0ミリリットルの

『コーラ』だった。しかも冷たい!この世に神様はいない発言は撤回させてほしい。

「ありがとうーー!ほんっとに!!」

「俺からじゃなくてサンドファイヤーで会ったやつが、自転車やってるやつ見かけたら渡してくれって」

ふとっちょライダーのやつ(>_<)

「ありがとーーっ!!」

あのデブだてに太っ腹じゃねーな!このコーラはほんっとうまかった。あんなうまいコーラ飲んだことなかった。

「ありがとーふとっちょライダー!」

しっかしあのおっさんもうサンドファイヤーに着いたのか、と羨ましく思った。ちょっと元気を取り戻し、また走り始めたが、そのコーラパワーも熱さと膝の痛みですぐ尽き果てた。サンドファイヤーに着く手前の3 0キロの走りは、生きた心地がしなかった。立ち漕ぎでも膝の痛みをごまかすことはできず、一歩ごと突き刺さる恐怖と化していた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、、、、」

誰にという訳でもなく謝り続けた。太陽はこの日も沈んだ。一台の車が、俺の手前1 0 0mのところで止まった。小太りちょびヒゲおっさんがおりてきた。

「ちょっとあんた、一番最後に車とすれ違ったのは、何分前だい?」

と聞かれ、よくは憶えていなかったが、1時間ほど前だと言った。

ここからサンドファイヤーまであと何キロですか?」と俺も質問した。

おっさんは、あと5キロだと教えてくれた。良かった、5キロなら何とかなる!あと少し、膝にあと少しだと言い聞かせた。それからサンドファイヤーに着くのに悲惨にも1時間半かかった。5キロだなんて、おっさんはウソつきだった。まだかまだかと必死に走り続けた。

「こんな旅辞めてやる!自転車辞めてやる!サンドファイヤーに着いたらもう辞めてやる!クソ食らえだっ!」

激痛からくるストレスは、もう限界を超えていた。サンドファイヤーがあと1キロでも遠くにあったら、本当に気が狂っていたかもしれない。恐らく9時頃だったと思うが、意識も朦朧の中サンドファイヤーに着いたとき、背の高い「ペトロール(ガソリン)」と書いてある看板の上に、俺は『火の鳥』を見た!

「俺に永遠の命をくれー」

かすれた声でそう聞いた。彼は何も答えてくれなかった。彼が孔雀だと気付くのに2分かかった。

「お前、きれいだな。」

店の前のべンチに倒れこんだ。無気力、何も考えられなかった。しばらくして腹が減っていることを思い出し足をひきずりながら店に入った。ジュースとミートパイとリンゴを一つ買って食べた。うまかった。ほんとにうまかった。

日本にいた時はまったく考えもしなかったが、「店」があるというのはすごいことだ。今朝の苦い経験から虫除けスプレーも買った。ガソリンスタンド兼コンビニのお店の若いおねーちゃんに、アコモ(アコモデーション;宿泊設備)があるか聞いてみると、一泊30ドルでキャンプが10ドルだと言う。このお店の裏側に、有料スペースがあるのが分かった。ただアコモ高すぎ。キャンプするにもテントないし、仕方なくずっと外のべンチに座っていた。

23時、店の人が皆いなくなったのを見て、テーブルの上にマットをしいて体に虫除けをしっかりふってから横になった。

「ブルームから3 0 0キロ来たわけか・・・こんだけやってまだパースまでの8分の1・・・ゾッとする」

「問題は膝だな・・・なんで無茶したんだ俺・・・」

「昼間に走るのはやっぱりまずいなぁ、熱すぎる・・・」

「それにしても夜、野宿はやだなぁ、誰もこねーよな、あーベッドで寝てーなぁ、恐いなぁ・・・」
「いいや。どうでもいいよ、もう・・・」

火の鳥はまだ看板の上にいた。視線をこっちに送っている。
改めて全身に虫除けスプレーをふった。耳なし芳一にならないよう、耳にも塗った。

あぁー無理かも・・・痛み、疲れ、不安・・・眠ってる間は忘れられた。

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