見出し画像

オーストラリア2400km自転車旅13日目🚴‍♂️

13日目 「エネルギーが体に満ちていく」

 朝起きて、2人でアワビを捕りにビーチに繰り出した。背丈ぐらいある岩場がゴツゴツと、20~30m間隔で点在している。アワビは岩の地層の隙間にいる、とシュンが教えてくれた。お互いパンツいっちょ。シュンの履いているトランクスは、、、何色って言うんだろう!?不思議色だ。かがみ腰になり、岩と岩の間を凝視した。ちっちゃいんだけどこれがけっこういた。ほんとに石ころみたいなやつだ。アワビが警戒心をもつと、ピタッと岩にへばりついてしまって捕るのが難しくなる。気の抜けているときは体がういているが、ちょっとした振動や、こちらの殺気を感じるとピタッとひっついてしまう。抜き足差し足で近づかねば。素早くナイフをアワビと岩の間に突き刺して、ひっくり返した。裏返されたアワビはお手上げ状態。とても楽しかった。
ちっちゃいなりに、たまにそこそこの大きさのやつもあって、それが取れると嬉しい。
シュンは
「僕はデッカイのがほしい」と言って、腰ぐらいまで海につかって、波にバシバシ打たれながら、少しでも沖の方へと攻めていった。沖の方が大きいのがいるらしい。
こちらから見ていると溺れているようだった(笑)
「(たくましいな・・・あいつ)」と、今日も思った。
結局2人合わせてアワビ40個、三角だまは30個ほど捕った。
「いやー楽しかったなーシュン!」
「僕はこんぐらいのがほしかった。」シュンは両手で、その大きさを示してくれた。納得いってない顔をしている。
「そんなデカイのいんの!?」
俺はそこらへんから木の枝ををかき集めてきた。ブロックで小さい囲いを作り、さっそく火をおこし、その上に小屋の中で見つけた網をのっけた。その網が十分に熱せられた。
「ヒロ見ててよ、アワビが今から踊るから!」と言って、シュンはアワビをその上へそっと置いた・・・・
「・・・・・・」
「あ、あれー、おかしいなぁ・・・ほんとはもっとこう、こんな感じで、踊り出すんだけどー、こんな感じで、こんな感じで・・・」と言って、シュンは腰を奇妙に振り続けている。アワビの踊り方を俺に伝えたいと思った気持ちは本当だったと思う。でも踊りの後半は俺を笑かすことに目的が変わっている。。。
俺は、、、笑った。クソッ
悔しいがあんな気持ち悪い動きを見たことがない。
アワビは踊らなかったが、きゅっと身が締まった。その上に醤油をたらす。ご飯も炊き、サバの缶詰も開けた。今日はシーフードランチ!シュンはビールを一本わたしてくれた。
「乾杯!!」
「うまい!」砂がじゃりじゃりするが、うまい!アワビも三角だまもサバも飯もビールも全部問答無用にうまい!
三角だまは中身を取り出すのが難しい。初めは箸でがんばっていたが、だんだんイライラしてきた俺は、それを石の上に置いてさらにその上から石で叩いて殻を割った。
「原始人だね!」シュンには言われたくない。
シュンは先に腹いっぱいになってしまった。俺も苦しくなってきたが、まだけっこうな量のアワビたちが残っている。殺生した分は食べ尽くさねば、ひたすら食いつづけた。彼らは俺の血となり骨となる。石で何度も割りつづけた。



 その後一人でビーチに向かった。バーンヒルの海はバカでかい。ほぼ視界180度にその『青』は拡がっている。その『青』を目の前に、『白』い砂浜の上に立った。サンダルとパンツをそこに脱ぎ捨て、生まれたままの姿になり、海の中にゆっくり歩いていった。

・・・・・・・・
・・・・・・・・・
ぽかーんと浮いてみた。空、青すぎ。太陽、光りすぎ。雲なさすぎ。。。波にのみ込まれた。
海と一つになってみたい。だから抵抗しない。。。。

「ゲホ、ゴホッ・・・危ねー死ぬ」本当に溺れそうになり、浜に戻った。一つになれなかった。
渚で寝転んだ。波が時折体に届く。チンチンがその都度向きを変える。
「何だよ?」と波に問う。地球が丸いのがわかる。その丸みの一番高い所に、裸の俺が一人。
「あぁ。」
「・・・これは・・・俺は・・・僕は・・・私は・・・」
今まで着ていたのは、服だけじゃなかったか。

そのまま眠った。。。

目が覚めて、
「さっきあんだけ食ったのに、また腹減ってらぁー」と思った。何か食べよう、そう思い、自分の身長の半分くらいの深さまで穴を掘り、中ぐらいの大きさのカニを一匹だけ捕まえた。シュンへのお土産ができた。
すっきりしていた。脳みそって洗えるんだな。。。そう思った。小屋につく前に屋外シャワーで、体も流した。
空はまだまだ青い。
小屋に戻ると、シュンは眠っている。気持ち良さそうだ。
「自転車も洗ってやろう!」
念入りに吹き上げた。

俺はべッドに座った。
「いつかまた、死ぬまでにもう一度、ここに来たいな。よし、手紙を書こう。その時の未来の自分宛に。それを小屋のどこかに隠しておこう」そう思いたちさっそく書き始めた。書き終える前に眠くなり、また寝た。

 夜はステーキをシュンが焼いてくれた。イモやキャベツも付けてくれた。火をおこしていたので、半分ステーキを食って、後の半分を火の中にぶち込んでみた。で、食べる。火の香りがしてうまい!毎日いいもん食ってる。ありがとう。
油をひいて、ゴーゴーに熱せられたフライパンの中にカニをぶち込んだ。カタカタカタカタッ!猛烈に暴れ、フライパンから飛び出した。
「待てコノヤロー!」もう一度カニをとっ捕まえて今度は背中を下になるように落とした。激しく踊ったが、一瞬だった。塩をふった。
「そのままガブッといっちゃおう!」とシュンが言う。そんなに小さくないのでガブッといけるのか疑問だった。シュンが足を食べたあと胴体を半分ガブッといった。
「うまい!」と歓喜をあげた。俺も残りの半分をガブッといった。
「うめーー!」殻の中にはむっちりと身が詰まっていた。油でからっと揚げたもんは、塩だけで食うのが一番うまいとシュンが教えてくれた。
スゴイなぁーこの生活、、、しみじみ思った。生命を食って、命をもらう。この分だと、自転車を再開してから、当分食いモンがなくても大丈夫だな。俺の体の中にはタコ・アワビ・三角だま・カニエネルギーが満ちていく。

 食べ終わったら、2人でビール片手に、海の見える丘の上のべンチに行った。しばらく風を浴びた後、シュンは言った。

「クリスマスも新年も、このままここで過ごしたいなぁ、、、」

シュンが眠っている間に自転車を念入りに拭き上げた、つもりだった。シュンは眠ってなかったのか。。。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?