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#最終話 「人生は壮大な喜劇」

【前回の内容】↓

しつけ教室の扉を叩く。
「どうぞー」
と招き入れるトレーナーさんの声は明るい。

「失礼します」

入ると、付近に
布で覆いかぶさったクレートがあった。

ここにボナムがいる…
胸の鼓動が早くなる。

トレーナーさんから1ヵ月の経過観察
現在の状態の説明を受け
ついに、対面の瞬間が訪れた。

ボナムは、ちゃんと覚えているのだろうか。
緊張のあまり、大ツバを飲む。
ゴクリが大きすぎて、痛かった。

旦那がクレートを開ける大役を買って出る。
(あなたは勇者か…)

「開けるよ、、、」

3,2,1…

扉が開く。

そこからニュウっと顔を出す白いナニか。。。

し、白い。白くて、大きな毛玉…いや
ボナムが姿を現した‼!

「ボナム!!!」

ボナムはぼーっとしていた
別にしっぽをフリフリともせず
なんだ、このおじおばさん…という不思議そうな顔で
ずっと見つめていた。

え、、、私たちのこと忘れた?

感動の再会とは程遠く
こちらの温度差とあちらの温度差の違いが大きすぎて
まるでハズレの合コンに来た女子のような顔を彼はしていた。

え、、、忘れちゃったの??
白目になる私。

その様子を見たトレーナーさんに
「ではこちらに立って、ボナムを呼んでください」と
指示をされる。

あ、とりあえず感動の再会とか
ドラマでしかないんだ。
私が見ていたのって、全部フィクションなんだ。

ノンフィクションってこんなもんなんだ。
生きてく〜生きていく〜♪じゃねーわ‼

ボナムはHACHIじゃないし
私はリチャード・ギアでもないし
旦那はただの中年おっさんだし
そういうキラキラワンワン物語ってないんだあああ!と
脳内で世間に色々文句を言いながら
後ろを向き、定位置に行こうとした瞬間

ドスッ

誰かが私の足をすごい力で押した。
この感覚はすぐに思い出した。
足カックンだ‼‼
小学生の時に流行った
あの足カックンを、三十路の私にした!!!!

誰だよ!?と後ろを見ると
ボナムがニヤニヤとしながら後ろで座っていた。

えっ!?

ボナムは私たちのことを覚えていたのだ。
この足カックンはボナムの挨拶で
彼なりのジョークだったのだ。

「ボナム?!覚えてくれてたの!?」

まさかの出来ごとに笑った。
そんな姿を見て、旦那も笑った。
トレーナーさんも笑った。
ボナムが1番笑っていた。

私たちらしい再会の仕方だった。

「ありがとうございました〜」

しつけ教室をあとにする。
空は茜色染まっている。

「さて、帰りますか〜!」
いつもより目が細くなっている旦那の顔は
嬉しさが溢れ出ている。
その姿を見て、私も幸せな気持ちになった。

帰りの道のりで、フッとある言葉を思い出す。

人生は近くで見ると悲劇だが、
遠くから見れば喜劇である。

チャップリンの名言だ。

今までの出来ごとが走馬灯のように蘇る。
1点1点を近くで見たら
とても大変で、悲劇的なことばかりだった。
しかし、今こうやって全てを振り返ると
とてもヘンテコで面白いことばかりで
全部笑えることばかりだ。

私たちの悲劇は、時間をかけて
壮大な喜劇となった。

ボナムが分離不安じゃなかったら
こんなにワンちゃんのことを
調べなかったと思うし
旦那がノイローゼにならなかったら
こんなに面白い展開になってはいなかった。

人生無駄なことなんて1つもない。

私は声を大にして言いたい。
育犬ノイローゼになっている方
なっていなくても、飼い犬に
悩まされている方に伝えたい。

悩んでいる時は、
誰かに少しでもいいから相談して欲しい。
飼い犬を一瞬でも嫌いになる瞬間は
どんな愛犬家だって、あることだ。
完璧なんて、最初からあるわけない。
だから、自分を責めないで欲しい。

悲劇は、いつか喜劇になる。
それは時間がかかっても、笑い話になって
あなたの側にいる愛犬は、いつの間にか
かけがえのない大切な存在になる。
その存在は見えない大きな力で
家族を束ね
大きな幸せを運んでくれる。
彼らと出会えたあなたは、ラッキーだと。

そんなことを思いながら
急ぐ、3人での家路。

今日からまた始まりだ。
キャストは全員出揃った。
3人で始める人生の喜劇が
第二幕を迎えようとしている。

「おかえりなさい、ボナム」
「おかえり、ボナム」

その日、家で見せたボナムの笑顔は
出会って初めて見せる
眩しい、眩しい、笑顔だったーーー


Fin

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