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ベルベット・ヘイズ

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心地よくて、形が無くて、それでもいいと思ってた。
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▪️chapter.5

▪️chapter.5

・・・

『ごめん、仕事まだかかりそう』と、流れるようにフリック入力をする。仕事の忙しさのせいだと思いたいが、若干の面倒臭さを感じる。仕事が終わったら少し時間ある?と来たのは今日の昼頃だった。

『大丈夫!仕事終わったら連絡して!』と数秒後に返事が来て、なんとなく気持ちが滅入った。どう考えても優しい相手の思いやりを、どうしてストレートに受け入れられないのだろう。私の言う『仕事まだかかりそう』は、だ

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▪️chapter.4

▪️chapter.4

・・・

「記念に撮影しておこうよ」

彼は、脇腹のタトゥーをなぞりながら、名案だとでも言うようにパッとベッドから身体を起こしてフィルムカメラを手に取った。

「いや、恥ずかしいからいいって」

「ファーストタトゥーだよ?思い出に残しておこうよ」

はい、そこ立って。と、裸の私を鏡の前に導いた。画角を確認する様子は、至って真剣で、恥ずかしがっている私の方が恥ずかしくなってきた。

作品として撮影を

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▪️chapter.3

▪️chapter.3

・・・

何かが変わるかと思った。

きっと私の母が知ったら、怒るというよりショックを受けてしまうんじゃないだろうかと考えると、なかなか決断するまでに堂々巡りを繰り返した。けれど、これは自分へのケジメでもあり、決意でもあった。

私の人生は私のもの。
主役になるのも脇役になるのも自分次第。 

そう言われてハッとしたあの時。
自分は自分で脇役に徹していたけれど、私を主役にしたストーリーがあってもと

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▪️chapter.2

▪️chapter.2

・・・

気がつけば3年という月日が経っていた。

知り合った頃のあの人はギリギリ20代で、私はギリギリ20代前半だった。こんなにも一年経つのって早いんだね、と1ヶ月振りの背中に問うた。

コーヒー豆を挽きながら、確かにね、と言ったあの人の気持ちというのは、私には怖くて聞けないままだった。

マップを見なくても覚えたこの家と、緊張することなく玄関の扉を開けられるようになって、おかえりと言われるこの

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■chapter.1

■chapter.1

・・・

華やかな余韻が残る夜道は、対照的に私をひどく感傷的にさせた。

孤独な夜とは裏腹に、今日も眠らない街の明かりは、私を安心させる。けれど、何故か一層寂しく思わせた。

久しぶりに履いたルブタンのヒールのせいか、脚はとっくに悲鳴をあげていて、ガードレールに腰掛けながら、脱ぎ捨てるみたいに圧迫されていた脚を解放する。

12センチ上だった視界は、ストンと12センチ下へと落ちる。ストッキング越し

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■chapter.???

■chapter.???

・・・

輪郭のない、
掴めそうで指の間からすり抜けていくそれは、
あまりにも淡くて悲しい。

それでもいいと思ったのも私で、
それ以上を望んでしまったのも私だ。

何もかもが、
いつか幻のように突然消えてなくなってしまうのも時間の問題なんだろう。

紫煙のように、
ゆらゆらと甘美なそれは。

今だけは何もかも、
煙のような幻の中にいたい。

ありがとう。ごめんね。
愛って何なのか、私には分からな

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