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▪️chapter.4



・・・


「記念に撮影しておこうよ」


彼は、脇腹のタトゥーをなぞりながら、名案だとでも言うようにパッとベッドから身体を起こしてフィルムカメラを手に取った。

「いや、恥ずかしいからいいって」


「ファーストタトゥーだよ?思い出に残しておこうよ」

はい、そこ立って。と、裸の私を鏡の前に導いた。画角を確認する様子は、至って真剣で、恥ずかしがっている私の方が恥ずかしくなってきた。


作品として撮影をしようとする彼に失礼に思えて、胸を隠していた手を退けた。

「うん、良い感じ」


どんな風に彼の目に映っているのか私にはわからない。シャッターを切られた瞬間、この光景を、どうか彼が忘れてしまわないでほしいと小さく願った。この時間を無かったことになんてしてほしくない。

「現像したら送るから楽しみにしてて」


そう言って笑う彼の唇を、私はそっと塞いだ。彼は少しだけ驚いた顔したけれど、そのままゆっくりと長いまつ毛を伏せていく。流れるように、頬に指先を滑らせ、そのまま耳に触れて髪を梳く。薄く目を開いた彼が、少しだけ私の顎を持ち上げる。それは合図だ。目を閉じて、深くなる彼の舌の感触に集中する。熱くて甘くて、酔いそうになった頃、薄く目を開ければ天井をバックにした彼がいる。それはあまりにも官能的で、心地よくて、たまらなく泣きたくなった。

その瞬間は私だけのもので、
満たされていると感じるのと同時に、瞬間的に何かが足りない気持ちになる。いつまでもこのままでいたいと思うのに、すぐに終わりが来てしまう。この行為に愛はあるのか、全く無いのか、あるいはただの情なのか。考えては頭の中がぐちゃぐちゃになって、快楽でぐちゃぐちゃになって、そうして思考を手放してしまう。

不意に目が覚めて、ちらりと横に目を向ければ、穏やかな寝息を立てる彼がいる。この夜が終われば、朝になれば、この時間が終わってしまう。1分だって一緒に時間を共有したいのに、隣にいると心地よくて、気づいたら寝落ちてしまう。


寝返りを打った彼の背中が私に向けられると、急に距離を感じた。その背中に擦り寄ってみて、彼の体温を感じる。けれど彼は起きない。それでいい。それ以上を望んではいけない。けれど、もしかしたら振り返って私を包んでくれるかもしれないなんて、あまりにも儚い期待をしてしまう。きっと口に出してしまえば、この関係が崩れてしまうのだと思うからこそ、何も言えなくなる。

「寝れないの?」

頭の上から寝ぼけた声が降ってきた。頭をあげようとして、彼の手が先に頭を撫でた。そして、そのまま背中をポンポンと叩く。まるで子どもをあやす様な仕草に、私はひどく安心した。もう何だっていい。この穏やかで心地よい時間が少しでも私の側にあれば、それ以上は望まない。いつかこの環境を卒業しないといけないとは分かっているけれど、自分から卒業を決意するまでは、その気持ちが固まるまでは、もう少しだけ此処にいたい。

彼の胸元に顔を埋めたまま、柔らかな柔軟剤と混ざる彼の匂いをゆっくり吸い込んだ。他の女の人もこうやって同じ気持ちになっているのかと思うと複雑な気持ちになってしまうけれど、今だけは私だけのものだと、自分に言い聞かせるように彼の脇腹に腕を回して、強く抱きしめる。


こんなにも私は彼が好きだ。
嗚呼、なんて悲しいんだろう。


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