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体感-40℃、じんわりとした温かさにふれる旅 - トロント
成人式じゃなくて、カナダに行かせてほしい!!!
成人を迎える年、土下座までして父にお願いしたのは、まだそんなに昔のことではないような気がしてしまう。
1日レンタルの成人式の振袖と、1か月のカナダ留学。
考えるまでもなく金額的に釣り合うわけないのだけど、顔を合わせるたびカナダカナダと呪文を唱えるようにつぶやいていたので、きっともう嫌になって諦めてくれたのだろう。
常々「必要最低限のもの以外は自分で買え」と言う父が、成人式のための資金から渡航費を捻出してくれることになり、無事にカナダの都市・トロント行きのチケットを勝ち取ったのだった。
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父、ありがとう。
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ヒートテックの無い冬、生命の危機
トロントの冬は、とにかく寒い。
暖冬といわれる年だったのに、風が強い日は、体感温度(windchillと呼んでいた)が-40℃ほどになることもあった。そんな日は、自分の息でまつ毛が凍ってしまうくらい。
なぜわざわざそんな過酷な時期を選んだのか…と自分でも思ってしまう。
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初めての週末に街歩きへ出掛けたら、目に映るものすべてが新鮮でわくわくしてしまって、4時間で数ブロックしか進めなかった挙句、ひどい風邪を引いた。
ステイ先に帰ってからしばらくお湯に浸かっていなければいけなかったほど、四肢が紫色に鬱血してしまった。
体質的にヒートテックを着ることができないので、その日から十二単をまとうように、とにかくありったけのコットンやニットを重ね着して過ごすことに。
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ホッカイロを人生でいちばん贅沢に使って過ごした冬だったけれど、それでも余ってしまったものはホストマザーにプレゼントした。
ホッカイロを知らなかったマザーにもとても気に入ってもらえたようで、わたしが帰国した後、両足の甲にのせて暖をとっている写真が時々送られてきた。
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価値観を「ぶっこわす」
初めて自力で海外に行った時から、自分の価値観を「ぶっこわす」のが好きになった。
固定概念を覆すとか、思考をアップデートするとか、色々な言い方ができるのだろうけど、何となく勢いが足りていない気がする。
今まで自分と外の世界を隔てていた見えない壁を、ガラガラと音を立てて崩れ落ち、しばらく呆気に取られてしまうくらい大きな壁を、ぶっこわす。
その方がしっくりくる。
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ホームステイでは、まさに良い意味で「ぶっこわされたな」と感じた。
「外国では靴のまま家に上がるらしい」という浅いにもほどがある知識で、外を歩いてきた靴で家に上がって「No! Momo〜〜!!!」と叫ばれてしまい、猛省から始まったホームステイだった。(いま思うと本当にとんでもないな…)
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「モザイクシティ」とは、様々な民族、文化、言語などが共存しているような都市のことをいうのだと、いつか大学の教授が言っていたような気がする。うっすらとした記憶だけど。
トロントもそんな都市のひとつなんだと思うのだけど、いかにも観光客みたいな雰囲気が漂っていそうなのに道を尋ねられて驚いたり、ひとりで居ると見知らぬ人に「どこから来たの?」とよく質問された。
なんだかありのままの存在を認められているような気がして、息がしやすかった。
英語の発音をからかわれたり、「これはわたしがアジア人だからなのかな…?いや違うのかも…?」と考えさせられるようなこともあったり、自分がアジア人、日本人であることを日常的に実感させられるのもまた、初めてではあったのだけど。
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トロントに来てから3週間目、起き抜けにマザーに「おはよう!」と言ってしまい、きょとんという顔をされたことがあった。
自分が日本人で、相手がカナダ人であることを忘れることも多くて、ただ自然とひとりの人間同士としてそこにいる。そんな瞬間が心から嬉しかった。
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チャイという贅沢な時間
いまでこそ、自分で茶葉やスパイスをブレンドして淹れるほど好きなチャイ。
初めてチャイを飲んだのは、実はカナダだった。
マザー厳選の7種類のスパイスを袋に入れ、家の前の道路に置いて、ハンマーで叩き割ってブレンドした、野生味(?)が感じられるチャイ。
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「朝5時に起きて散歩に出かけ、帰ってきたらチャイを淹れて、オンタリオ湖を眺めながら、すがすがしい空気を満喫する」というマザーの素敵なモーニングルーティーンに参加するのが、日々の目標になった。
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「今日は左に行く?右に行く?」
毎回、どちらの道を選ぼうかなってわくわくした。
左の道は少し短いけれど、高台から朝日が昇ってきらめく湖を、ほぼ貸し切りで眺めることができる。
右の道はどこまででも行けるほど長くて、近所の人たちとおはようを交わしながら、朝を迎える都市を望むことができる。
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毎回全力アタックをしてくる近所のわんこ。
左の道から家に帰ってきた朝7時、チャイを淹れた。
温かいマグカップを両手で包みながら、アパートの前のベンチに向かう。
チャイを飲んで、人なつっこいリスたちにナッツをあげながら朝日を迎える、特別な時間。どんな贅沢よりも贅沢だなぁと思った。
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20歳の誕生日と、らしいこと
そんなに朝が弱いわけではないけれど、わたしは昔から、遠足や卒業式みたいな特別な日こそ寝坊する習性があるみたいだった。
もちろん20歳の誕生日も寝坊から始まり、ぐしゃぐしゃの髪を何とかポニーテールにまとめ、大学のパーカーを雑にかぶり、走って家を出た。
大学でせっかくお祝いしてもらった写真がぐだぐだな自分なのが泣きたいほど悔やまれたけれど、大事なところで抜けているわたしっぽいな〜とも感じた。
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20歳らしいことって、何だろう?
まず何しようかな〜って考えたとき、やっぱりお酒を買ってみようかなと思った。
トロントのあるオンタリオ州では19歳からお酒を飲んで良いことになっているので、20歳の記念になったのかは怪しかったけれど。
カナダはアルコールまわりが厳しく、お酒を買うにはリカーショップ(LCBO)に行って身分証を提示しないといけなかった。
初めて買うお酒って何だかドキドキするけれど、ちゃんとしたお店に行って身分証を提示する分ハードルが高くて、余計にドキドキして。側から見たらただの不審者だったと思う。
リカーショップなだけに本当にたくさんの種類のお酒があって、ちょこちょこ嗜むようになった今になって、もう1回ゆっくり行ってみたいなと思う。
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その後は、夕方の散歩で荒れ狂う湖のショーを見て、とても素敵な誕生日になった
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…と思う。
初めましてのトボガン、さよならのスモア
ステイ先では、仕事の関係で引っ越しをしてまもなかったホストシスターの部屋を貸していただいていた。
アレルギーがあるので、念のためペットの居ないお家を希望していたのだけど、今回は少し前に愛犬が亡くなってしまったのと、シスターが家を出たことで部屋が空いたので、奇跡的なタイミングで叶えられたホームステイだった。
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久々にシスターが帰ってくるということで、大胆にカラフルな業務用アイスを1パック生地に混ぜて焼いたケーキで迎えた。
当時は四六時中、暇さえあれば洋楽を聴いていたおかげで、ラジオから流れてくる洋楽ベストの曲をマザーとシスターと3人で歌ったり踊ったりすることができた楽しい夜だった。
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雪がたくさん降る夜は、3人でトボガニング(そり)をした。
そりを求めて色々なお店を回ったけれど、なぜかどこにも置いてなかったので、日本からニットをたくさん詰め込んできていたビニールをそりの代わりにすることにした。
都市部を一望できる小高い丘(といっても傾斜はスキー場並み)をコロコロ転がりながら見た夜景が美しかった。
もう上下左右よく分からず、どこもかしこも夜景だったような気もするけれど。
そして、美しさへの感動と同じくらいお尻が痛かった記憶もある。
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さよならの前日は、焚き火でスモアをした。スモアは、「焼きマシュマロをビスケットで挟んで食べようの会」である。
夕方の散歩中に、焚き火をしている集団を発見したマザーが、そうだ!そこで火を借りて楽しんじゃおう!と思ったらしい。本当に自由だなぁ。そういうのすごく好き。
日本で英語を教えていた先生や、日本に行ってみたいから色々話を聞かせてほしいという女の子、初めましての人たちとおしゃべりをして、ゆったりと最後の夜を過ごした。
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マシュマロがビーガン用のグルテンフリーマシュマロだったことで、そこに居た全員でスモアを楽しむことができた。
わたしはグルテンフリーでなくても良いけれど、グルテンフリーだからといって困ることもない。誰でも食べれる、誰でも使える、みんなで楽しめるって優しいんだな。いいな。と思った。
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まだまだ書ききれないたくさんのことを経験した、短い1か月間だった。
最後の朝、追い付かないと分かっているのに、一生懸命空港行きのタクシーを追いかけてくるマザーの走る姿が小さくなって、見えなくなった。
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「おみやげに連れて帰って」とマザーが手に握らせてくれた小さなりんご。空港に着いてから飛行機には乗せられなそうだなと思った。
なんだか大きな壁を感じてしまって、そのまま勢いよく齧り付いた。
真っ赤に熟れて食べごろのはずだったのに、悲しくてちょっとしょっぱい味がした。
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当時の写真なので、画質が荒かったり、編集もしてなかったりするけれど、穴が開きそうなくらい何度も眺めた大切な写真たちを載せました。
その後、再びトロントへ訪れたときのことも、また書きたいなと思う。
読んでくれて、ありがとうございました。
それでは、またきっと。
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