Bill.com Holdingsのマーケティング分析
最初は米国のfintech企業 Bill.com($BILL)を分析します。
企業間決済のクラウド化・デジタル化を支援するプラットフォームを提供しており、請求も支払いも、このプラットフォーム上で完結します。
米国も日本と同様に紙ベースでの請求のやり取りが未だに主流です。日本でも新型コロナウイルスの流行をきっかけに紙や押印に支配されているバックオフィスの変革が進もうとしていますが、米国でもやはり同じ動きは起こっています(小切手→デジタル)。Bill.comも、コロナによって普及が進むプロダクトの一つと考えられます。
bill.comは以下のミッションを掲げています。
Our mission is to make it simple to connect and do business.
「複雑なものをシンプルにしてビジネスを推進していく」ということが表されています。
## プロダクトについて
かんたんにプロダクトについて解説します。
Bill.comは中小企業のキャッシュフロー管理、支払い・請求、請求書発行を効率化するSaaSを提供しています。会計ソフトと自動連携することで、データの打ち込みや仕訳等の工数も大幅に削減できます。
課金ポイントとしてはサービスの利用料、決済ごとのトランザクション課金があります。
日本でいうと、インフォマートが提供しているBtoBプラットフォームが近いかもしれません。
以下のムービーは公式が提供している請求の承認プロセスです。
米国のテック企業で顕著ですが、B2Bでも伸びてる企業の殆どがこのように動画による解説を多用しています。日本でも少しずつ動画によるマーケティングが増えてきたように思いますが、こういった解説的な部分での利用はまだ少ないように思います。
## 外部環境分析(PEST分析)
### 政治・社会
2016 年時点で米企業間の決済(B2B payment)の 51%は依然として小切手が用いられている(2013~16 年にかけて同割合は 1%増加した)ことが明らかになっている。
特に小規模企業の事業主にとって、決済システムは小切手を中心に構築
されており、その処理体制のワークフローを再構成することが困難なことや会計システムの刷新にかかる費用が高いことがネックとなっている。
出典:https://www.ipa.go.jp/files/000073466.pdf
4年前のデータですが、約半数が小切手での取引、そのうちの殆どがSMBとなっています。今回のコロナ禍においてWFH(work from home)が拡大し、小切手取引のデジタル化が加速していることが想定されます。
国策としてもプッシュのかかる領域です。
### 経済
バブル状態とも言われているSaaS領域に属する企業で、半年で約2倍の株価になっています。
PSRも40超と割高です。
また、収益の約1/4を決済手数料が占めており、toC領域ほどではないにしろ、現在の状況においてダウンサイドリスクはありそうです。
一方で、サブスク課金のところは安定して伸びそうですね!
### 技術
こちらは例にもれず、クラウドサービスのエコシステムが機能しそうです。SMB市場で大きなシェアを占めているクラウド会計システムとの連携をしっかりと行っており、これらを使用しているユーザーの流入も見込めます。
エンタープライズ向けにはなると思いますが、開発者用ページも用意されており、オンプレで組んでいるシステムに対しての組み込みも可能なようです。
## サービスのプロモーション
### ターゲット
サービスサイトを見るに、SMBをメインターゲットとしているようです。
これらの企業に対してはセルフサーブ型なので、基本的に利用企業が自走できる仕組みになっています。実際にアカウントを作成してUX・UIを確かめましたが、非常にわかりやすくできていました。
### パートナーやリファラルプログラム
注目すべき点は会計事務所や銀行とのパートナーシップです。おそらく、ある程度の大口顧客についてはこの経路から獲得しているケースが多いかと思います。
B2B領域において、銀行や顧問からのプッシュは強力です。自社ではアプローチしにくい層に対しても、銀行を介してならアプローチができるようになるケースがあります。SMBだけだと伸び悩むフェーズが遠からず訪れることが予想できます。その際、パートナー企業からどれだけ紹介してもらえるか、という点も今後の成長に関わる大きなポイントになります。
また、SMB向けにはリファラルプログラムを展開しています。
これは紹介してくれたら紹介者に$100あげるよ、というものです。どの程度ワークしてるかわかりませんが、月額$39のサービスの獲得単価(CPA)が$100であればかなり安いと言えます(普通3万円位するとおもう)。
### 新型コロナへの対応
Bill.comは一貫してSMB支援のメッセージを発信し続けています。
現在のこの危機的状況をbill.comは信頼獲得のチャンスに変えようとしている姿勢が見えます。定性的な面ではありますが、このように対応している企業は今後も伸びていく可能性はかなり高いように感じます。
以下のグラフはsimilar webで取得した推定アクセス数ですが、直近はピーク時に比べて落ち着いてきているものの、1月〜3月くらいにかけてアクセスが増加しています。
増加に対応した以下のリリースや、ページが参考になります。
サポート延長などのお知らせ(3月)
自社のサポート以外も含む、SMB支援策のまとめページ。
コロナが請求に与える影響についてのFAQ。
共催でのウェビナーも開催しており、この状況下でも更にリード(見込み顧客)の獲得は進んでいくでしょう。
## MAやコンテンツを活用したマーケティング
上述の通り、Bill.comの現在の主戦場はセルフサーブで獲得するSMBアカウントです。それを効率よく獲得するために、コンテンツの配信やMAを効率的に利用しています。
### コンテンツ
各種資料をWeb上から自由にアクセスできるようにすることで、ユーザーの意思決定の材料を与え、判断しやすくする(=ローコストでの顧客獲得)施策に力を入れていることが伺えます。
- 事例
https://www.bill.com/resources/?field_resource_type_value=Case+Study
- プロダクトガイド
- ホワイトペーパー
### MA(マーケティングオートメーション)
今や日本でも一般的になりつつありますが、例にもれずBill.comでも利用しています。利用ツールはおそらくMarketo。
これを入れることで、顧客ステータスに応じたアプローチを設計することができます。(MA自体の詳細な説明はここでは割愛します)
Small Businessに対しては、デモの実施状況などをみて、サブスク登録するような誘導メールを定期的に送ることでエンゲージメントを高めていることが想定されます。
ちなみにアカウント登録してみたら、以下のようなメールが飛んできました。
口座の連携状況などに応じて、配信するメールを出し分けているのだと思います。
一方でMid以上の企業についてはスコアリングを利用して、インサイドセールス、フィールドセールスに連携をすることで、ある程度導入確度が高い顧客への効率的なアプローチを実現しているようでした。
これらの予測は、ビジネスの規模によって入り口が分けられていることから想定が可能です。
### 参考
bill.comのビジネス領域は競合が多いとされていますが、ど競合っぽいTipaltiとの検索トレンドを比較するとまだまだBill.comが圧倒的ですね。
## 総論
Bill.comをマーケティングの側面から見てみました。
まとめです。
- 市場環境はBill.comのプロダクトを後押ししている
- バックオフィスにクラウドシステムが普及してくる程に優位なポジションになっていく
- SMBをメインターゲットとして、セルフサーブできるようなコンテンツを大量に仕込んでいる(獲得コストを下げることができる)
- MAやコンテンツマーケティグを活用したB2B SaaSの王道
- エンタープライズ向けには銀行やコンサル、会計事務所からのアプローチ
- 伸びるスタートアップに欠かせない、一貫したメッセージ発信と、それに反しない対応をしている
というわけで、高成長率は維持されると予想しています!顧客が増えるほどに獲得コストも下がっていきそうなので、粗利も向上するのではないかなあと……(大型のプロモーションなど入ってくると一概には言えませんが)。
とはいえ、やはり高値圏には見えてしまうので、私はバックオフィスの効率化を応援する気持ちで数十万円分持っているという状況です。
開示資料に基づいた分析についてはneko様の以下の記事が詳しいので、ぜひ併せてご参照ください。
こちらの記事の最後にもありますが、近接領域でのM&Aの可能性も高いなと思っています。(日本だとマネフォなんかはM&Aを積極的にやってますね。ここも増資を一時期よくやっていました)
思ったより長くなってしまった……。次はもうちょっと短くまとめたい……。
長々とお読みいただきありがとうございました!
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