夜が明ける
読書が好きになったきっかけはアメトーークの「読書芸人」だった。昔から本は読む方だったけど、単なる暇つぶしの一種で、特にその頃は韓国のアイドルに夢中だった。
私が見たその回で、オードリーの若林とピースの又吉がこぞっておすすめしていたその本が、西加奈子さんの「サラバ!」だった。
オードリーの若林さんのその話を聞いて、20代になってもいない当時19歳の私はなぜか、その本がとても読みたくなって、学校帰り本屋さんに寄って、分厚いその本を買った。
初めて読んだ時は、何がなんだかわからなかった。でも、西さんの文章は疾走感に溢れていてついていくのが必死だった。追いていかれないように、のめり込んで読んだことを覚えている。「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない。」その言葉に秘められた、強いメッセージが、いまだに忘れられない。当時は本当に衝撃を受けた。読み終わると、途轍もない希望が身体中に広がった。
その感動が忘れられず、「漁港の肉子ちゃん」「きりこについて」「円卓」等、西さんの作品を片っ端から読んだ。自分らしくあること、自分を信じること、西加奈子さんの綴る物語からはそんなメッセージを感じる。
そして、西加奈子さんが久しぶりに長編作品を出版した、という噂を聞きつけて、すぐに購入した。「夜が明ける」。買ってすぐはなかなか時間が取れなくて、積読になってしまっていたけど、つい昨日読み終わった。(2022年本屋大賞にもノミネートされてるみたい。)
全て読み終えて、なぜかとても悔しかった。それは西加奈子さんに対してではなくて、今のこの世の中のもの全てに対してだった。そして、自分に対しても。
この本の主軸となるテーマは「貧困」「虐待」「過重労働」。ありふれた日常を送っている私からは到底想像できない苦しい世界が、すぐそばにもあるかもしれない。「自分は当事者ではないから、関係ない」ことではなく「自分がいつ当事者になるかわからない」ことなのだ。苦しみを知っている人だけが、共感するのではなく、いつ自分がなってもおかしくないと感じさせてしまう今のこの世の中が、たくさんの人の共感を生むんだ。そう感じた。そしてそんな世の中を心底恨みたくなった。
そして、「助けて」と言えること。それがどれだけ難しく重く、でも必要なことなのか。戦うのではなく続けること。声をあげ続けることは何を生むのか。色々なことを考えすぎて、頭がおかしくなりそうだった。
初めて「サラバ!」を読んだ時のように、のめり込むように、追いていかれないように、必死になりながら、文書に縋りついた。西加奈子さんはいつも私をいろんな世界に連れて行ってくれる。そして考えさせられる。これからもたくさんの作品を読みたい。
夜はいつ明けるのか、異国で戦争がはじまった今、そんなことに思いを馳せてしまう。戦うのではなく続けること。戦いは何も生まない。声をあげ続けること。独裁者が支配する国で、声をあげ続ける人たちがいること、忘れちゃいけないと思った。そして、いつ自分が当事者になるかわからない、苦しみ悲しみ、全てに夜が明ける日が来るといい。
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