大好きだった人の話 その3
高校生にもなると、周りの浮ついた話が空気の私の耳にも、嫌でもはいってくるものです。
××と★★が付き合っている
▼▼と〇〇が公園でデートしていた
◇◇が△△を好き
自分の中にまだそういう思いが芽生えたことが無いことを私は知っていたし、その事に関して特に焦りも無かったのです。
正直異性への恋心とかいうものになんの魅力も感じていませんでした。
男性だろうが女性だろうが、好きになれば好きだろうし、この人と結婚したいとかずっと一緒にいたいとか思う気持ちに性別は関係ない。
出会った人間の中で、人に尊敬の念や居心地の良さを感じたのはひなこさんが初めてだったので、ならば、ひなこさんへのこの思いは「好き」ということなのだろうか・・・?と本気で思っていました。
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しかし、
血が一気に全身を巡っているような感覚。
心臓の音を、なんとかして落ち着かせなければと思う無駄な努力。
それまで気に留めたことなんてなかったのに、風が吹くとすぐに前髪の所在を急に直したくなってくる謎の過敏反応。
こっちを見てほしいけれど、見てほしくない、でもやっぱり見てほしいという矛盾すらにも気付けないほどの思考力低下。
その全てが、
太田くんに帰ろう、と声をかけてもらった時。
太田くんが横を歩いている時。
太田くんに正面から顔を見て話をされている時。
太田くんを見つけた時。
自分にドン引きするほど、脳内に太田くんが溢れてしまっていました。
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私の高校生時代と中学生時代の大きな違いは、
『居場所があったか、無かったか』です。
実際、現実は何ひとつ変化していませんでした。
クラス、というより学科では空気。家では完全なる邪魔者。
無視されているという現実とその環境はなんの変化も無かったのに、
女子バスケットボール部のマネージャーという居場所1つがあっただけで、私の見える世界は天変地異が起きたのかというほど一変していました。
太田くんへの気持ち1つがあっただけで、億劫で苦痛でしかなかった学校への道はLEDを搭載したのかというほど明るい思いで満ち満ちていました。
しかし、いつも、浮かれた気分になっているところに、
飛び込んでくるのが、現実です。
私が楽しく生きているのを良しをするわけがない両親が、
浮かれてしまって見えなくなっていた両親の存在が、
重く、
苦しく、
のしかかってきたのです。
つづく
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