見出し画像

ひとり東京散策-清澄白河へ-

冬が溶け、うららかな陽に溢れる三月の終わり、ひとり清澄白河を散策した日のことを綴ります。


清澄白河というと、穏やかでゆっくりとした時間が流れる下町という印象が強い。

私がここを訪れるのは美術館へ行くときだけだけれど、そのたびに都会の喧騒から離れた心地のよい長閑さを肌で感じていた。

まずはiki ESPRESSOへ。
建物の入り口は開放的で、たっぷりとした春の日差しに溢れていた。


気軽に立ち寄れて、人々の交流の場になるような、生活に根付いたカフェを目指したというこの場所は、ふらりと立ち寄るひと、友達同士、小さな子を連れた家族、さまざまな人々が思い思いにひとときを過ごす。

軽食にと、フラットホワイトとリコッタチーズパンケーキを注文した。

フラットホワイトとは、エスプレッソにミルクを加えたオセアニア発祥のドリンクとのことで、ラテよりもたっぷりとミルク感を感じられるそう。マイルドな口当たりに気持ちがほぐれていく。

やわらかく焼き上げられたパンケーキの生地を頬張ると、ふわりとリコッタチーズの香りが抜けて至福。店内に流れるBGMや談笑に満ちた空間が心を弾ませる。

ほっと心を落ち着けられるカフェで休日を過ごすなんていつぶりだろう。ひと息つく間もない多忙な日々から解放されて幸せ。

次はロースイーツを扱うカフェ、POSHへ。

ロースイーツとは小麦、砂糖、卵、乳製品を使用せず、48℃以上の加熱をしないスイーツのことで、焼かないことにより食材に含まれる酵素や栄養素を失うことなく摂取できるため、身体にもよいのだとか。

白とベージュを基調とした洗練された空間、ショーケースに飾られたスイーツは宝石のようにひとつひとつ煌めいていて、その美しさに目を奪われた…

初めて目にする白いタルト生地は、ナイフで切るとほろほろと崩れ、つぶつぶとした食感とほのかな甘さがある。

まぶしい光を反射する隅田川の水面、波打つ水音、遠くきこえる小鳥の囀り、清々しい気候に心から安らいだ。散策するのは初めてだけれど、清澄白河の魅力はこの”安らぎ”な気がする。

都会の喧騒から離れた、静かでなだらかな居心地の良い街。ほどよく自然に囲まれ、すぐ側を隅田川が流れていて開放感がある。サイクリングや散歩にも最適で、日常を彩るカフェやベーカリーが点在していながら、すっきりと洗練されている。「こんな街に住みたい」とつい思ってしまう。

大きな橋を渡り、広々とした公園へ立ち寄ると、多くのひとで賑わっていた。ボール遊びに夢中な子どもたち、まだ蕾の多い桜を眺めながらのピクニック、涼しげな木陰のベンチで読書、もうすっかり季節は移り変わってしまったのだと思い知らされる。

入口付近には雪柳が咲いていて、思わずシャッターを切った。

これまではただそこにある存在としか認識していなかった雪柳。ある小説の中で「雪柳が咲きこぼれている」という表現を見つけて以来、特別美しい存在に感じている。白い小さな花を数えきれないほど咲かせる様は、まさに”咲きこぼれる”だと思う。


住宅地を縫うように歩き、グリーンの壁紙が目を引くtallskogenへ。シナモンロール、全粒粉のスコーン、味噌を使用したバナナブレッドと焼き菓子がカウンターに並んでいて、店員さんがひとつひとつ丁寧に説明してくれた。どうやら夫婦で経営されているようで、親しみやすさが滲み出ている。

小さな森をイメージした空間の真ん中には、交流の場にぴったりな大きなテーブルが配されていた。再訪したときはゆるりと珈琲を飲みながら、こだわりの焼き菓子を堪能したい。

今回立ち寄った場所はどこもやさしい眼差しで迎えてくれた。これは偶然かもしれないけれど、清澄白河に構える店はとりわけ心が込められているように感じる。ひとりひとりに寄り添ったような待遇に心温まる。


すっかり日が傾いてきた頃、最後は静かに佇む小さなイタリア料理店il tramへ。
暗闇の中に灯る、あたたかな照明に惹きつけられる。道に迷っているときにこの場所を見つけたら、張り詰めた緊張が一気にほどけて安心できそう。

スパークリングワインと共に、春の食材を使用した逸品をひとつひとつ味わった。こだわりの食材を使用した料理はどれも芸術作品のように美しい。

カリフラワーのスープとカマンベールのチップス
苺とブラータチーズ
アスパラガスのローストと半熟卵


ぎゅっと凝縮された贅沢な一日に、身も心もいっぱいになった。
美術館に行くためだけに訪れていた場所が、今では気に入りの場所のひとつになっている。

疲れ果てたときにはこの街へ来て、心に余白をつくりたい。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?