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Over

利き目だけを無理矢理こじ開けて腕に巻きついた有線イヤフォンを辿る。毎日乱暴に扱ってごめんね、なんて思いながらその先にあるスマホを手繰り寄せて時間を確認。表示された時刻に何の感情も抱けないままなんとなくLINEを開いて、見慣れた名前に目を向けてみる。何も無い。当然だ。分かっていた。通知さえ来ていないもの。それなのに寝起きのぼんやりした頭と心でもそれなりの期待はできるようになっているらしくて、いつもちょっと悔しい。

誰かを本気で好きになったことがなかった私を変えてしまったのは言うまでもなく見慣れた名前のそいつだ。 本気で愛したくなって本気で愛されたくなってしまったのもそいつのせい(おかげ?)。私たちは正反対で繋がる点などなさそうに見えるのに、1本の長い線ができてしまうくらいには似ている点がある不思議な2人だった。

私の恋愛遍歴をとりあえずまとめると「"本当の好きや愛"を注がれながらトラウマをも植え付けられた」といった感じになるのかしら、一言では表せないかつ説明に時間を要する経験ばかりの、地獄を煮詰めたようなものだ。そんな私を見事に堕としたのが例の'そいつ'だから人生ってもんは本当に何が起こるか分からない。恐ろしい。恐ろしすぎる。

私たちは一度、別々の道を選んでいる。去年の今頃、秋が深まり始めた頃だった。そこから私は荒んで今もなお元の私には戻れずにいるのだけれど正直言って苦しい。苦しいという言葉では足りないというか少し違うというか、それでもとにかく苦しい。酸素の薄い部屋に閉じ込められているようなそんな感覚。触れることができたら変わるのだろうか。ずっと分からないままだ。 

そんな私は今日も脊髄反射な期待をする。いつか、いつの日か届きますように、涙の渦に飲み込まれてしまいませんように、と願いながら。

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