ふらり旅#6(島根)
塩素の匂いがした。
備え付けのシャワーで髪を洗おうと、蛇口をひねった。勢いよく飛び出してきた水は、肌に痛みを残し床に向かって流れ落ちていった。
桶を床に置く「かこん」という軽快な音が、湯けむりで少し霞んだお風呂場全体に響き渡る。
真夜中近くの露天風呂は、あかりに照らされた湯気がその向こうに広がる闇によく映えて、別の世界のようだった。
吹き付ける風に連れられて、水面を滑るように進む湯気。
無色透明なお湯に、たっぷりと浸かる。不意に触れた肩が、いつもよりつるりとしていた。
水に入るときの音も、揺れる水面も、全てがいつもより少しだけ丁寧で控えめに映る。
こんな遅い時間は、神さまも眠ってしまっているだろうか。
まだ肌寒さが残る空気の中で、真っ暗な空を見ながら神さまに思いを馳せるのは、きっとここが島根だからだ。
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