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安寧を求めて生きていたら、随分と擬態が上手になりました。 万年刺繍研究員。 死ぬまでに…

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安寧を求めて生きていたら、随分と擬態が上手になりました。 万年刺繍研究員。 死ぬまでにたくさんの作品を残して生きたい。 好きなこと/もの 刺繍・イラスト・グラフィックデザイン・映画・本・きのことか筍などの山の幸 じぶんの家(実家含む)・神社仏閣

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    それは、大いなる愛の告白なのよ

    人の想いなんて、蝋燭の灯にように簡単に吹き消せる。 自宅のベランダで夜風に当たりながらビールを嗜んでいると、恋人からの破局申請。 -”似た者同士って案外うまくいかないもんだね(笑)” 随分とふざけた雰囲気で送られてきたメッセージを読み終えて、ビールを一口流し込んだ。 確かにあったはずの愛が、喉を通るビールと一緒に体の内側へさらさらと流れ落ちていく。 「いやなところがあるなら、」 言ってくれてもいいじゃない。 自嘲気味に吐いたつもりの独り言が震えた。 気弱な声を自ら認めた刹那、とんでもなくやるせない気持ちが一気に押し寄せる。 みるみるうちに涙が嵩を増して、これ以上は溜められないとぼたぼたと音を立てて零れ落ちていく。 それからは、40分ほど泣いては止むを繰り返した。 からからから。 はっとした。隣人がベランダの引き戸を開いたのだろう。 続けて、はあ~という男性のため息とぺたぺたと鳴るサンダルの音。 彼もまた、やさしい春の夜風にあやかりに来たのだろう。 (すごいタイミング・・・。) こんなにわがままに泣きたい夜はないが、それを邪魔されても案外イラついたりはしなかった。 彼の出現が泣き止むきっかけとなり、安心すらしている。そうよ、もう泣かなくていいのよ。 「これが春の夜風か。」 (!?) 隣のベランダから突如聞こえてきた男性の低い声に思わず肩が跳ねた。 少し掠れているが落ち着いていてとろみのあるやさしい声。 いい年した成人男性が発した独り言は、この上なく詩的で、冷たい東京の風とは不釣り合いだ。 そのアンバランスさが、無性に可笑しい。 「いいですよねえ、春の風って。」 ちょっとしたいたずら心で、隣人に向けてリプライを飛ばしてみた。しばしの沈黙。 (慌ててるかな?そりゃそうか。) 「大丈夫です、わたしも独り言ですから。」 恋人に振られた挙句、空虚に話しかけることなど造作もなくなっている自分がなんだか可笑しくなって、 親しい友人と話すときのように笑い声をあげてしまった。 相変わらず返事もないし、もう部屋に戻ろう。 「いやあ、今晩は月がきれいだなあ。」 情けない声だと一瞬思った。しかしそんなことはどうでもいい。だって、だってその言い回しは―― =========================== ● 制作したきっかけ ● 春の気候が強まり、深夜の夜空観察も叶うようになって参りました。 日中の喧騒を鎮静してくれる闇夜に、自らの失態や暗い気持ちを包み、そして許してくれる母性のようなものを感じました。 そんなやさしく自立した女性を対象としたアクセサリーを作ろうと思い制作に至りました。 ● 作品詳細 ● 華やかすぎず、地味すぎないをゴールにデザインしました。 まずは、全体的にトーンが抑えられるように紺色とゴールドの使用比率を細かく調整。 華奢なゴールドチェーンと長めの9ピンでゆるやかな動きを出し、女性特有のしなやかさを表現しました。 ビーズ刺繍のセンターに配置されたダークカラーのビジューが、シックな大人っぽさを醸し出します。 そこに小ぶりな淡水パールを足すことで、ほどよい甘さがプラスされました。 とことんフェミニンな雰囲気を追及し、且つ強さを表現した働く女性の為のアクセサリーです。 ● おすすめのコーディネート ● 少しユニークなデザインで形成されている為、フォーマルなビジネスシーンよりもカジュアルなシーンでの使用がおすすめです。 しかし、ゴールドチェーンやビジューなどの煌めくパーツも多く使用している為、 ドレスアップする会食などでも自然に馴染んでくれることでしょう。 ぜひ合わせて頂きたいお洋服のお色は、黒やネイビー、ゴールドといった同系色です。 シンプルなワントーンコーデはもちろんのこと、色のカテゴリーが比較的似ているようなレオパードやゼブラといった柄物と合わせて頂くと、パンチの効いたハンサムなコーディネートに仕上がります。 ・落ち込んだ気持ちを打ち消したい! ・気合を入れたい! ・デートのお相手に印象を強く残したい! などといった、勝負の灯をつけたい1日にぜひお使いください*
    3,800円
    細田堂
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    大いなる愛の告白であるとも知らずに

    その日は、月明かりが唯一の灯のような夜だった。 人が寝静まる23時。時間を顧みず淹れた珈琲を片手に、自宅のベランダを出た。 ベランダの引き戸をすぅと開けると、まだ少し冷たさが残る風がさらりと僕の頬を掠めた。 「これが春の夜風か。」 東京に上京してから15年弱。 1人暮らしが長いと独り言が日常化すると言われているが、言うまでもなく僕もそういうタイプだ。 3年前に僕の年齢にしては少し早い役職に就いてしまったおかげで、 気軽に冗談を言い合える同期や後輩たちとの距離が物理的にも精神的にも徐々に離れて行ってしまっている気がする。 人とのコミュニケーション不足が、この癖に拍車をかけているのだろう。 -春の夜風て・・・。 今だって、ナチュラルに臭いセリフが出たことに戦慄を覚えているのだ。 でもまあ、ここはマンションの上層階だし夜も遅いし、聞いてる人なんていないだろう。 こういう時に便利なタワーマンションって最k---- 「いいですよねえ、春の風って。」 本当に口から心臓が飛び出そうだった。 凛とした、少しため息交じりの女性の声が、左隣のベランダから聞こえた。 思いもよらないことが起こると、人の挙動と思考は本当に止まるのだと実感した。 止まっていても仕方ない思考が少しずつ解凍されていく。 確かに夜は深いが、これから自由時間を楽しむ大人たちは少なくない筈だ。 どうして両隣のベランダをちらりとも確認しなかったんだろう・・・。 沸々と湧いてくる後悔と羞恥が並走して頭のてっぺんまで到達したと思う頃、再び隣から声がした。 「大丈夫です、わたしも独り言ですから。」 そう放つと、声の持ち主はコロコロと笑った。 ハツラツとしているが可愛らしい声。まだ若そうだ。 相手がまだ同性だったら、こんな風に後悔もしないのだろうなあ。 もう、どうにでもなってくれ、ハハハ。 「いやあ、今晩は月がきれいだなあ。」 震える声でそう放つと、しばらく経ってから駆け足気味の足音とベランダを閉める音が聞こえた。 おじさん、ちょっとショックです。 =========================== ● 制作したきっかけ ● 春の気候が強まり、深夜の夜空観察も叶うようになって参りました。 星や月をぼんやりと眺めているうちに、夜空のようにミステリアスな女性が頭に浮かびました。 ミステリアスな女性はとても魅力的。そんな存在をアクセサリーに出来たらと思い制作に至りました。 ● 作品詳細 ● 第一に、普段使いと職場使いの両方で活用できるよう、なるべく装飾を抑えてシンプルなデザインに仕上がるよう心掛けました。 パーツなどを選ぶ上で、『働く女性の中に残るあどけない少女らしさ』・『オンとオフ』を最も意識いたしました。 そんな女性の二面性を表したのが、星チャームとダークベースのビーズたちです。 星チャームが一見可愛らしさを増長させますが、暗め配色のビーズたちがそのポップさを好い加減に抑えてくれています。 また、星チャームの存在感が際立ちすぎないよう、月のカラーに同系色のゴールドを採用いたしました。 サブ装飾については、ビーズ刺繍部分とコントラストの強い真っ白なパールビーズを採用し、メリハリのある大人の女性を演出しました。 全体的にシックで落ち着いた雰囲気ですが、光の加減で変色する玉虫色のビーズが夜空のきらめきの再現に成功しています。 クールさに遊び心も兼ね備えたとても魅力的な一品です! ● おすすめのコーディネート ● 配色がダークベースで小ぶりなシンプルデザイン。 カジュアル、フォーマルどちらにもお使いいただけるかと思います。 モードなお洋服と合わせて頂くと真っ白なパールがアクセントとなり、お顔周りにもパッと明るい印象を与えてくれます。 全体的に丸みのあるフォームで形成されているので、パンツ×肩落ちシャツのようなハンサムなアウトフィットと合わせて頂けると、 メンズライクなスタイルの中に女性特有の愛らしさと繊細さを際立たせることが出来ます。 勿論スカートとの相性もよいです。 ネイビーやブラックなどの落ち着いた、Aライン強めのボリューミーなスカートと合わせて頂けると、 洗練された上品な大人女性を演出できそうです。 おしゃれがとにかく大好きな20代~40代の女性は勿論のこと、 デートの予定があるけどまだアクセサリーが決まっていない、恋人に少しでもロマンチックなプレゼントがしたい、 いつもお世話になっている知人・家族に喜んでもらえるプレゼントを贈りたいetc, アクセサリー選びにお困りの方にもおすすめですっ:)★
    3,800円
    細田堂
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    氷上の青兎

    「う、う、うさぎが、北校舎のうさぎが、見当たりません、、っ!」 まだ朝露が解け切らない時刻にだけ味わえる静謐な学院長室。 その扉を慌ただしく破った副院長からうさぎの失踪について報らされた。 うううさぎがぁ、、と肩で息をする副院長に駆け寄り、「迅速な報告をありがとう」と丸い背中をさすりながら労わった。 役職が付いた大人がぜえぜえしながら報告するようなことなのか?と問われれば、答えはイエス、である。 僕は去年の春からこの学院の長だ。 ここは、月の動きや星の位置関係で未来を占う占術や、人あるいは土地を浄化する祈祷などの特殊能力を育成したり伸ばしたりする者たちが集う術学院である。 特殊なカリキュラムが置いてあるわが校では、うさぎは生徒の慈しむ心を豊かにする為ではなく、大事な局面で本校の行く末を占う為に存在している。 無論、僕の就任もこのうさぎが占った結果によるものである。 本校建立の2,600年前から代々占術師として見守ってくれていたうさぎが居なくなってしまったとなれば、様々なことが一気に危ぶまれる。ううむ、一体どうしたものか。扇形の校舎を見渡せるように設計された大きなアーチ窓に腰を掛けようとした時だった。 窓から見て南側の内庭にある池の上を小さななにかがぴょんぴょん跳ねている。慣れ親しんだあの動きを見て、まさかと息を呑んだが僕はその様子にただ目を張るだけでソファで息を整える副院長を呼ぼうと思わなかった。 ぴょーん、ぴょーん。一匹の動物が池の上でただ遊んでいるようにみえるが、それが跳ねるたびに池の水がしゃらんと氷る現象は明白な神秘であり只者ではないことがわかる。 ぴょーん、しゃらん、ぴょーん、しゃらん。 「あ、」 途端、その動きがぴたりと止んだ。こちらに背中を向けて、微動だにしない。 僕はまだ人を呼べずにいる。 こういうのなんて言うんだっけ、あ、金縛りだとやっと気づいた瞬間、池の表面を氷に変えたそのものが突然体ごとくるりとこちらを振り向いた。ターンテーブルに乗っているかのようなその動きが、先ほどの跳躍と比較するとかなり機械的で少し慄いた。 僕と目が合っているのは、やはり今朝から姿を消していたうさぎだ。僕たちは5km以上離れた場所で確実に見つめ合っていた。 なんだあんなところに居たのかと安堵する半分、もういいんじゃないかという何かを解放したいような不思議な感覚が心の中にあった。 もういいってなんだ。 何を解放したいのか本当は心の中ではわかっているような気がしてならない。その気を自覚してしまった途端、声が聞こえた。 ――そなたの気持ち、有難く頂戴しよう。 性別や年齢が判別できない、鈴のようで厚みのある美声が耳元と頭の中の中間くらいで響いている。 その一言がどこで発せられたのか、副院長に咄嗟に目をやると当の本人は我知らずといった様子でハンカチで汗を拭いている。 じゃあこの声は。再びうさぎの方に視線を戻そうと慌てて窓を振り返ると、窓ガラス1枚を隔てたすぐ目の前に青白い顔をした美しい少年が立っていた。 心臓が大きく飛び跳ね、思わず声が出そうになった。学院長室は10階にあり、窓の外には欄干もない為本来そこに人が立つことなど不可能だ。もしかしてこの子は――― 目の前に佇みこちらをじっと見つめている少年は美しい弧を口元に描いた。微笑むと両頬にできる均等なえくぼが、随分と人間らしくて親近感を覚えてしまう。 何か言葉を紡ぐだろうか、と黙って様子を見ていると、少年は微笑んだまま軽くお辞儀をしてすぅっと消えてしまった。 「あっ、」 本日二度目の「あ」を発したところで、副院長が後ろから「あのぅ」と遠慮がちに声を掛けてきた。 うさぎ捜索の指示も出さず、しばらく黙りこくっていた僕を不思議に思ったのだろう。 すまないねと一言返し、その件はと続けた。 「一旦様子を見ることにしよう。」 「え?」 素っ頓狂な声が副院長の口から洩れた。 「うさぎは捜索せず、そのままで構いません。しばらく遊ばせておきましょう。」 後ろに手を組みながら、にこりと末尾に微笑みを加えると副院長は「は、はぁ・・・」と応えた。 しばらくとは言ったが僕は毛頭うさぎを探すつもりはない。もう二度とあのうさぎは北校舎には戻ってこないとわかっているから。 今までわが校の為に本当にご苦労様でした、と労いの言葉を心の中で呟くと再び耳元と頭の中の中間で声が聞こえた。 ――時折、見守っていますよ。 先程とは少し違い、気まぐれで可愛らしい声だった。
    3,800円
    細田堂
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    それは、大いなる愛の告白なのよ

    人の想いなんて、蝋燭の灯にように簡単に吹き消せる。 自宅のベランダで夜風に当たりながらビールを嗜んでいると、恋人からの破局申請。 -”似た者同士って案外うまくいかないもんだね(笑)” 随分とふざけた雰囲気で送られてきたメッセージを読み終えて、ビールを一口流し込んだ。 確かにあったはずの愛が、喉を通るビールと一緒に体の内側へさらさらと流れ落ちていく。 「いやなところがあるなら、」 言ってくれてもいいじゃない。 自嘲気味に吐いたつもりの独り言が震えた。 気弱な声を自ら認めた刹那、とんでもなくやるせない気持ちが一気に押し寄せる。 みるみるうちに涙が嵩を増して、これ以上は溜められないとぼたぼたと音を立てて零れ落ちていく。 それからは、40分ほど泣いては止むを繰り返した。 からからから。 はっとした。隣人がベランダの引き戸を開いたのだろう。 続けて、はあ~という男性のため息とぺたぺたと鳴るサンダルの音。 彼もまた、やさしい春の夜風にあやかりに来たのだろう。 (すごいタイミング・・・。) こんなにわがままに泣きたい夜はないが、それを邪魔されても案外イラついたりはしなかった。 彼の出現が泣き止むきっかけとなり、安心すらしている。そうよ、もう泣かなくていいのよ。 「これが春の夜風か。」 (!?) 隣のベランダから突如聞こえてきた男性の低い声に思わず肩が跳ねた。 少し掠れているが落ち着いていてとろみのあるやさしい声。 いい年した成人男性が発した独り言は、この上なく詩的で、冷たい東京の風とは不釣り合いだ。 そのアンバランスさが、無性に可笑しい。 「いいですよねえ、春の風って。」 ちょっとしたいたずら心で、隣人に向けてリプライを飛ばしてみた。しばしの沈黙。 (慌ててるかな?そりゃそうか。) 「大丈夫です、わたしも独り言ですから。」 恋人に振られた挙句、空虚に話しかけることなど造作もなくなっている自分がなんだか可笑しくなって、 親しい友人と話すときのように笑い声をあげてしまった。 相変わらず返事もないし、もう部屋に戻ろう。 「いやあ、今晩は月がきれいだなあ。」 情けない声だと一瞬思った。しかしそんなことはどうでもいい。だって、だってその言い回しは―― =========================== ● 制作したきっかけ ● 春の気候が強まり、深夜の夜空観察も叶うようになって参りました。 日中の喧騒を鎮静してくれる闇夜に、自らの失態や暗い気持ちを包み、そして許してくれる母性のようなものを感じました。 そんなやさしく自立した女性を対象としたアクセサリーを作ろうと思い制作に至りました。 ● 作品詳細 ● 華やかすぎず、地味すぎないをゴールにデザインしました。 まずは、全体的にトーンが抑えられるように紺色とゴールドの使用比率を細かく調整。 華奢なゴールドチェーンと長めの9ピンでゆるやかな動きを出し、女性特有のしなやかさを表現しました。 ビーズ刺繍のセンターに配置されたダークカラーのビジューが、シックな大人っぽさを醸し出します。 そこに小ぶりな淡水パールを足すことで、ほどよい甘さがプラスされました。 とことんフェミニンな雰囲気を追及し、且つ強さを表現した働く女性の為のアクセサリーです。 ● おすすめのコーディネート ● 少しユニークなデザインで形成されている為、フォーマルなビジネスシーンよりもカジュアルなシーンでの使用がおすすめです。 しかし、ゴールドチェーンやビジューなどの煌めくパーツも多く使用している為、 ドレスアップする会食などでも自然に馴染んでくれることでしょう。 ぜひ合わせて頂きたいお洋服のお色は、黒やネイビー、ゴールドといった同系色です。 シンプルなワントーンコーデはもちろんのこと、色のカテゴリーが比較的似ているようなレオパードやゼブラといった柄物と合わせて頂くと、パンチの効いたハンサムなコーディネートに仕上がります。 ・落ち込んだ気持ちを打ち消したい! ・気合を入れたい! ・デートのお相手に印象を強く残したい! などといった、勝負の灯をつけたい1日にぜひお使いください*
    3,800円
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    その日は、月明かりが唯一の灯のような夜だった。 人が寝静まる23時。時間を顧みず淹れた珈琲を片手に、自宅のベランダを出た。 ベランダの引き戸をすぅと開けると、まだ少し冷たさが残る風がさらりと僕の頬を掠めた。 「これが春の夜風か。」 東京に上京してから15年弱。 1人暮らしが長いと独り言が日常化すると言われているが、言うまでもなく僕もそういうタイプだ。 3年前に僕の年齢にしては少し早い役職に就いてしまったおかげで、 気軽に冗談を言い合える同期や後輩たちとの距離が物理的にも精神的にも徐々に離れて行ってしまっている気がする。 人とのコミュニケーション不足が、この癖に拍車をかけているのだろう。 -春の夜風て・・・。 今だって、ナチュラルに臭いセリフが出たことに戦慄を覚えているのだ。 でもまあ、ここはマンションの上層階だし夜も遅いし、聞いてる人なんていないだろう。 こういう時に便利なタワーマンションって最k---- 「いいですよねえ、春の風って。」 本当に口から心臓が飛び出そうだった。 凛とした、少しため息交じりの女性の声が、左隣のベランダから聞こえた。 思いもよらないことが起こると、人の挙動と思考は本当に止まるのだと実感した。 止まっていても仕方ない思考が少しずつ解凍されていく。 確かに夜は深いが、これから自由時間を楽しむ大人たちは少なくない筈だ。 どうして両隣のベランダをちらりとも確認しなかったんだろう・・・。 沸々と湧いてくる後悔と羞恥が並走して頭のてっぺんまで到達したと思う頃、再び隣から声がした。 「大丈夫です、わたしも独り言ですから。」 そう放つと、声の持ち主はコロコロと笑った。 ハツラツとしているが可愛らしい声。まだ若そうだ。 相手がまだ同性だったら、こんな風に後悔もしないのだろうなあ。 もう、どうにでもなってくれ、ハハハ。 「いやあ、今晩は月がきれいだなあ。」 震える声でそう放つと、しばらく経ってから駆け足気味の足音とベランダを閉める音が聞こえた。 おじさん、ちょっとショックです。 =========================== ● 制作したきっかけ ● 春の気候が強まり、深夜の夜空観察も叶うようになって参りました。 星や月をぼんやりと眺めているうちに、夜空のようにミステリアスな女性が頭に浮かびました。 ミステリアスな女性はとても魅力的。そんな存在をアクセサリーに出来たらと思い制作に至りました。 ● 作品詳細 ● 第一に、普段使いと職場使いの両方で活用できるよう、なるべく装飾を抑えてシンプルなデザインに仕上がるよう心掛けました。 パーツなどを選ぶ上で、『働く女性の中に残るあどけない少女らしさ』・『オンとオフ』を最も意識いたしました。 そんな女性の二面性を表したのが、星チャームとダークベースのビーズたちです。 星チャームが一見可愛らしさを増長させますが、暗め配色のビーズたちがそのポップさを好い加減に抑えてくれています。 また、星チャームの存在感が際立ちすぎないよう、月のカラーに同系色のゴールドを採用いたしました。 サブ装飾については、ビーズ刺繍部分とコントラストの強い真っ白なパールビーズを採用し、メリハリのある大人の女性を演出しました。 全体的にシックで落ち着いた雰囲気ですが、光の加減で変色する玉虫色のビーズが夜空のきらめきの再現に成功しています。 クールさに遊び心も兼ね備えたとても魅力的な一品です! ● おすすめのコーディネート ● 配色がダークベースで小ぶりなシンプルデザイン。 カジュアル、フォーマルどちらにもお使いいただけるかと思います。 モードなお洋服と合わせて頂くと真っ白なパールがアクセントとなり、お顔周りにもパッと明るい印象を与えてくれます。 全体的に丸みのあるフォームで形成されているので、パンツ×肩落ちシャツのようなハンサムなアウトフィットと合わせて頂けると、 メンズライクなスタイルの中に女性特有の愛らしさと繊細さを際立たせることが出来ます。 勿論スカートとの相性もよいです。 ネイビーやブラックなどの落ち着いた、Aライン強めのボリューミーなスカートと合わせて頂けると、 洗練された上品な大人女性を演出できそうです。 おしゃれがとにかく大好きな20代~40代の女性は勿論のこと、 デートの予定があるけどまだアクセサリーが決まっていない、恋人に少しでもロマンチックなプレゼントがしたい、 いつもお世話になっている知人・家族に喜んでもらえるプレゼントを贈りたいetc, アクセサリー選びにお困りの方にもおすすめですっ:)★
    3,800円
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    氷上の青兎

    「う、う、うさぎが、北校舎のうさぎが、見当たりません、、っ!」 まだ朝露が解け切らない時刻にだけ味わえる静謐な学院長室。 その扉を慌ただしく破った副院長からうさぎの失踪について報らされた。 うううさぎがぁ、、と肩で息をする副院長に駆け寄り、「迅速な報告をありがとう」と丸い背中をさすりながら労わった。 役職が付いた大人がぜえぜえしながら報告するようなことなのか?と問われれば、答えはイエス、である。 僕は去年の春からこの学院の長だ。 ここは、月の動きや星の位置関係で未来を占う占術や、人あるいは土地を浄化する祈祷などの特殊能力を育成したり伸ばしたりする者たちが集う術学院である。 特殊なカリキュラムが置いてあるわが校では、うさぎは生徒の慈しむ心を豊かにする為ではなく、大事な局面で本校の行く末を占う為に存在している。 無論、僕の就任もこのうさぎが占った結果によるものである。 本校建立の2,600年前から代々占術師として見守ってくれていたうさぎが居なくなってしまったとなれば、様々なことが一気に危ぶまれる。ううむ、一体どうしたものか。扇形の校舎を見渡せるように設計された大きなアーチ窓に腰を掛けようとした時だった。 窓から見て南側の内庭にある池の上を小さななにかがぴょんぴょん跳ねている。慣れ親しんだあの動きを見て、まさかと息を呑んだが僕はその様子にただ目を張るだけでソファで息を整える副院長を呼ぼうと思わなかった。 ぴょーん、ぴょーん。一匹の動物が池の上でただ遊んでいるようにみえるが、それが跳ねるたびに池の水がしゃらんと氷る現象は明白な神秘であり只者ではないことがわかる。 ぴょーん、しゃらん、ぴょーん、しゃらん。 「あ、」 途端、その動きがぴたりと止んだ。こちらに背中を向けて、微動だにしない。 僕はまだ人を呼べずにいる。 こういうのなんて言うんだっけ、あ、金縛りだとやっと気づいた瞬間、池の表面を氷に変えたそのものが突然体ごとくるりとこちらを振り向いた。ターンテーブルに乗っているかのようなその動きが、先ほどの跳躍と比較するとかなり機械的で少し慄いた。 僕と目が合っているのは、やはり今朝から姿を消していたうさぎだ。僕たちは5km以上離れた場所で確実に見つめ合っていた。 なんだあんなところに居たのかと安堵する半分、もういいんじゃないかという何かを解放したいような不思議な感覚が心の中にあった。 もういいってなんだ。 何を解放したいのか本当は心の中ではわかっているような気がしてならない。その気を自覚してしまった途端、声が聞こえた。 ――そなたの気持ち、有難く頂戴しよう。 性別や年齢が判別できない、鈴のようで厚みのある美声が耳元と頭の中の中間くらいで響いている。 その一言がどこで発せられたのか、副院長に咄嗟に目をやると当の本人は我知らずといった様子でハンカチで汗を拭いている。 じゃあこの声は。再びうさぎの方に視線を戻そうと慌てて窓を振り返ると、窓ガラス1枚を隔てたすぐ目の前に青白い顔をした美しい少年が立っていた。 心臓が大きく飛び跳ね、思わず声が出そうになった。学院長室は10階にあり、窓の外には欄干もない為本来そこに人が立つことなど不可能だ。もしかしてこの子は――― 目の前に佇みこちらをじっと見つめている少年は美しい弧を口元に描いた。微笑むと両頬にできる均等なえくぼが、随分と人間らしくて親近感を覚えてしまう。 何か言葉を紡ぐだろうか、と黙って様子を見ていると、少年は微笑んだまま軽くお辞儀をしてすぅっと消えてしまった。 「あっ、」 本日二度目の「あ」を発したところで、副院長が後ろから「あのぅ」と遠慮がちに声を掛けてきた。 うさぎ捜索の指示も出さず、しばらく黙りこくっていた僕を不思議に思ったのだろう。 すまないねと一言返し、その件はと続けた。 「一旦様子を見ることにしよう。」 「え?」 素っ頓狂な声が副院長の口から洩れた。 「うさぎは捜索せず、そのままで構いません。しばらく遊ばせておきましょう。」 後ろに手を組みながら、にこりと末尾に微笑みを加えると副院長は「は、はぁ・・・」と応えた。 しばらくとは言ったが僕は毛頭うさぎを探すつもりはない。もう二度とあのうさぎは北校舎には戻ってこないとわかっているから。 今までわが校の為に本当にご苦労様でした、と労いの言葉を心の中で呟くと再び耳元と頭の中の中間で声が聞こえた。 ――時折、見守っていますよ。 先程とは少し違い、気まぐれで可愛らしい声だった。
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⚫︎ 自己紹介 ⚫︎

みなさん、はじめまして。 ふと書き物をしたい時、映画の感想を言いたい時、濁る気持ちを吐き出したい時。いい感じの媒体を探していたところ、noteに辿り着きました。 自分のための備忘録になるかと思いますが、のんびり読んでいただけると嬉しいです。 記念すべき第1回目の本記事では、簡単な自己紹介をさせて頂きます。 プロフィール とっても簡単にわたしのプロフィールを記します。 名 前:たま 住 み:東京のちょうどいいところ 職 業:事務+フリーランスのグラフィックデザイナー 性

    • 今日も1日お疲れ様でした。 わたしはまだ夏休みですが、甥っ子姪っ子たちの爆発的な元気さに疲れている。 遊びに付き合ってるわけじゃないのにね、音とか振動にストレスを感じてる模様。 やだな、感覚過敏。 ただ、騒がしい中でも人知れず制作は進めています。 明日も頑張って生きます。

      • 最悪な気分で目覚めた理由をテキストで綴りました。 今でもよく思い出せる夢の話です。 長いのでいくつかに分ける予定です。 移動中の隙間時間、手持ち無沙汰な日中、夜更かしのお供などに読んでいただけたら嬉しいです。 ▼理不尽な孤独01 https://note.com/_______hsd__/n/ne90e19bc0155

        • はじめてこんな近くでバッタを見ました。 ショウリョウバッタという種類のようです。 小さな体で猛烈な風と車体の揺れに耐えてました。 ボディは葉っぱ、足は小枝。まるで植物。 人間も、社会に馴染むために一生懸命「擬態」する。捕食されないために。 これは自然の摂理なんだね。

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          【実際に見た夢の記録】理不尽な孤独-01-

          夢を見た。 最悪の気分だ。嫌な夢だった。 夢に出てきた人物は、わたしがかつて全身全霊の愛を注いでも構わないと強く感じた唯一の男だった。 そう強く想える相手は、もしかしたら今後一切現れないかもな、なんて当時は思ったほどだ。 彼とはたくさんの思い出がある。 こんなに長い時間を過ごして、ひとりの時間が欲しいとは一切思わなかった。ずっと一緒に居たかった。彼も常時そう言ってくれた。 そんな彼は突然、わたしの目の前から姿を消した。 絶望的な失踪だった。 しかし、そこまで大げさにする

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          IKEAで買いたいアイテム紹介

          大好きなIKEAで久しぶりに買い物がしたいのでHPを見漁っていたら、いくつか欲しいものが見つかりました。 本記事では、今最もIKEAで買いたいほしいものリストをご紹介します:) 今夏は家族が全員揃うので、姉についていってもらおうかなあ…(笑) お部屋のアクセントに欲しいまずひとつめの欲しいものはこちらの鏡! 特段鏡を必要としていたわけではないのですが、部屋のアクセントにいいなあと思いリスト入り。 めちゃくちゃ可愛い新商品を展開してくれたな、IKEAさん。 お次はこちら

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          麻美和史原作【殺人分析班シリーズ】に沼った3つの理由

          生きている中で数本程度しか鑑賞経験がないドラマ弱者なわたしが最近ドはまりしている作品があります。 麻見和史原作の【殺人分析班シリーズ】です。 石の繭、水晶の鼓動、蝶の力学等を挙げれば「あ〜あれね!」とピンとくる方もいらっしゃるのではないでしょうか。 今回はその殺人分析班シリーズの魅力をすこしだけお話させていただこうと思います。 まずは本作品のご紹介殺人分析班シリーズは、スピンオフ版も含め全4弾wowowで放送されました。 メイン回では女性新米刑事が主人公であり、そのキャラ

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          今夏やりたいこと3選【刺繍・美容院・展覧会】

          みなさんこんばんは。本日もお疲れ様でした。 わたしは今週の金曜日から夏季休暇に入るので、浮き足だって過ごしています。 1週間以上ある夏休み…どうやって過ごそうかなあ。 そんなことを考えていたら、この休暇中にやりたい事が実は結構あることに気付きました。 まずは刺繍をしたい作業途中の刺繍作品がたくさんあるので、すべて完成させたいです。 これは普通に夏季休暇中にやってしまいたいなあ。 刺繍に関しては図案ばかりが出来上がって、実作業が追いついていない。 刺繍の技術自体は向上した

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          宇宙人のあいつ、決死の愛を知る

          監督・脚本を手掛ける飯塚 健の作品『宇宙人のあいつ』を観ました。 主演の中村倫也目当てで鑑賞を決めたものの、普通に心に沁みました。 宇宙人が主人公ということもありシュールで小ふざけた映像演出がふんだんに盛り込まれていますが、監督が伝えたいテーマ【家族愛】が真っすぐに伝わってきた見応えのあるハートウォーミング系作品だったと思います。 ※本記事はネタバレを含みます※ あらすじ幼くして両親を亡くした真田家の4人兄弟。 それぞれ悩みを抱えつつも仲良く助け合いながら兄弟だったが、次男

          宇宙人のあいつ、決死の愛を知る

          わたしの夏の写真

          一昨日、職場のカレンダーを1枚捲りました。 そこで気づく衝撃的な事実。 もう8月!? 正直、みなさま、最近7月を迎えたばかりではないですか? 時の流れの速さを痛感した刹那、『ああ、そうか、こうやって忙しい毎日を過ごして、歳も重なっていつの間にか白髪が増えたり、身体の可動域が減ったりして、丸まった背中にすっかり馴染んだ頃には小さな壺に収められるんだな』とわたしの脳は随分と飛躍した結末に落ち着きました。 (話を装飾をしたり、壮大なものに膨張させるのは幼少からの悪癖ですの。)

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