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上履きのシンデレラ

いやぁ、いいね、実に良い。
今日は街で制服デートしてる高校生をみかけて、

くぅぅ〜、青春だねぇぇ
っつってもう少しでおばちゃんお小遣い渡しちゃうとこだったよ。

これでポン・デ・リング食べといでって。
古いか。
今は、あれか、スタバか。
それも古いか。

いやぁしかし
制服っていいよね。

制服なんてもぅ何十年も着てないなぁ。
職場も私服だし。

まず、楽でいーよね。
楽なのにシュッとするし。

どんなダメ人間でも化けるよね。

一応私にもかつて結構有名なデザイナーズセーラー服を着て化けてた時期がありましてね。

当たり前だけど詰めてはいけないスカートの裾を大胆に詰めて、大根脚をさらけ出しながら当時の勘違いしたオシャレを存分に楽しんでたんだけど、若さゆえに寒さとか感じないのね。

下手したら泥水をカフェラテだと思って飲めるくらい馬鹿だったよね。

でもそれが青春っつー魔法にかかってるって事なんだよね〜。シンデレラみたいにさぁ。

そんな母校、当時はほぼ新築の校舎で、高校では珍しいアメリカンスタイルのロッカー式。下駄箱が玄関に無かったから、校内は常に土足。一日中外履きじゃ歩きにくいからっていう配慮?で登校後に指定の上履きに履き替えるというシステムだった。

生徒は大半が電車通学。田舎のローカル線にみんなしてキャッキャ言いながら乗るんだけど、これまた楽しくて仕方がないわけ。ホームで待つ他校のイケメンが見える度、私の王子様いるかしら〜なんつって、ミニスカのシンデレラ達は背伸びして待ってるわけですよ。

放課後はさっさと電車に乗ってカラオケ行くのが定番だったから、その日掃除当番だった私は、さーっと床をモップで撫でて先に行ってた仲間達に追いつこうと一目散にすっ飛んでった。

駅ギリギリまで走って、やっと追いついて気がついた。

あぇっっ!?
私上履きじゃん....

ビビった。
自分のアホさ加減に。

どーりでスタスタ走れるはずだわ。
コーナリングもキュッキュッ言わしてブレなかったもん。

だぁーーーもぅ、めんどくせぇ....

上履きのままホームで友達を見送って一人学校へ向かう私。

もうなんてゆーか、レッドカーペット歩いてる気分だよね。みんな見てっかんね。

なんなら、拍手とかシャッター音とかで煽ってもらってもいんだけどね、こっちは。

「上履き履いてきちゃった今のお気持ちは?」

とか駆け寄ってきても、オッケー!
むしろ写真も一緒に撮るよくらいに思ってるからね。

演じなさい!!
平静を装うのよ!!
逃げたら負けよ!!
そうゆーものなの、ハリウッドって!!

と大女優の自分に言い聞かせてから、
よしっ。
つって上履きキュッと方向転換して裏道行ったよね。

でもたまーに、いた。
私みたいなハリウッド女優が。
足隠せないから顔隠して忍者みたいに電柱から電柱へ走るキル・ビルみたいな生徒が。

何回か友達もやった。
その度に、私も一緒にロッカーまで戻ってやった。

電車一本逃しただけなのに、人生終わったみたいなため息出す友達に、

分かるよ、分かる。
って頷いて。
肩ポンポンして。

まぁそんな学校には色んな生徒がいた。
真面目な子もいれば少々ユニークな子も。

食べ盛りを言い訳に車内でブタメン食ってるバカもいた。まぁ私なんだけど。
シンデレラも腹が減れば妖怪へと化すわけよ。

もうなんか、魂でも吸い取ってるんすか?ってゆー勢いでラーメンすすってた時に、私...
気づいてしまったの。

友達が上履き履いている事に。

さすがの妖怪麺ススリも思わず箸を止めて、ガン見。

ガタゴト揺れる車内をゴムの上履きで踏ん張ってる姿をじーーっと見つめた。
茶色いローファーのなかに一際目立つ緑と白のコントラスト。

もう目線は上履き一直線。

A言うべきか、B言わないべきか。
C自分だったら言われたいか、
D言われたくないか。
脳内ミリオネア始まっちゃって、
さなもんたの圧が半端ない。

いやーでも知らない方がいんだよなぁ。
知ったら超恥ずかしいからなぁ。
もう電車乗っちゃってるしなぁ。
ライフライン使えないしなぁ。

二駅過ぎて、知らぬが仏さんと言わぬが花さんがようやく手を繋ぎはじめたのに、その手を引き裂くように隣にいた妖怪パンカジリが私をエルボーで突ついてきた。

「ね!!!見て見て見て見て見て!!」

内心、知ってるよ...
と思いながら揺れるブタメンのツユを庇った。

すると隣のパンカジリはかじりかけの菓子パンを振り回しながら大声で友達を呼び始めたではないか。

ちょっ、、やめとけよ....

「おーーーーい!トモちーーーん!!」

呼ばれた友達は表情ひとつ変えずにゆっくりこっちを向いた。普段はシンデレラみたいな可愛い顔したトモちゃんも今日ばかりは口裂け女の様な出で立ちだ。

「ねぇ、トモちん上履きじゃん!やべぇ〜!」
うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ

テケテケみたいに笑いだしたパンカジリに、
「見たな...」
と言わんばかりに生ぬるい風をふかしてトモちゃんが答えた。

「今ね、、、一人で避難訓練してるトコ...」

一瞬シーンとなって、火がついたように笑いだした。関係ない人までもクスクス言っちゃって。

「ブハッ、どこまで避難してんだよ」
うひゃひゃひゃひゃ

菓子パンをタンバリンみたいに叩きながら大爆笑している。

2人のやり取りに思わず私も吹き出した。

「し、シンデレラの靴、まさかの上履きです」

もう結構出来上がったコントにしか聞こえない。

いや、でもトモちゃんカッコイイぞ。

決めた!!!
ブタメンのカップを片手で握りつぶし、頷いた。
よしっ!次は私もこれでいこう!!

こーゆー時はトモちゃんみたいに開き直るのが一番だ!!

そうよ、
私はハリウッド女優よ、演じるのよ!!


3日後いざ上履き履いてきちゃうと、見かねた口裂け女も「ほれっ!」ってマスク貸してくれるほど猛烈に顔を赤くして、誰でもいいから早くガラスの靴持ってこいやって思いながら、キュッと路地裏に逃げる私です。

そーゆー奴です、私は。



こちらの記事は、Youtube チャンネル、「雷とDNA」内でもお話しています。
https://youtu.be/IkFiXPugEQg

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