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フクツカサ、山廃仕込み、未完成。

創業以来初めての登場

 7月22日発売となる福司酒造の山廃は、創業103年目にして初めての取り組みでした。前回までのnoteでは、なぜ取り組んだのかということを書いてきましたが、今回は商品の出来上がるまでを書きたいと思います。

きっかけは。

 きっかけはコロナの影響だったと思います。出荷量が減ったことで仕込み本数が減少したことで、製造計画の見直しをすることになりました。北海道のお米はかなり早くから契約をするため、コロナになったその年も多くの酒蔵はコロナ前の製造計画通りで米を購入しただろうと思います。10月の仕込みはじめですが、米の発注は前の年の12月に始まります。多分こんなに早いとりまとめは北海道だけだろうと思いますが・・・。そのため見直しで余剰となったお米で試験醸造をすることにしました。 

 試験醸造ができたのは米の確保の面だけではなく、タンクの兼ね合いもあります。私たちは「四季醸造の蔵」などと呼んでいますが、近年では冷蔵設備を整えて小ロットで長期間仕込みを行う蔵も増えてきました。そういった蔵でしたら試験醸造も手軽にできるのでしょうが、弊社の様に小仕込みの設備が少ない蔵にとって小ロットの試験醸造を行うタンクは、大吟醸酒などの高級酒の仕込みでスケジュールが埋まっていますが、これもコロナの影響で調整が可能となりました。

 製造計画上山廃を行う調整が終わり、製造部のメンバーに「山廃やるぞ」と伝えるのですが、新たなことをやるにあたって社員の負担が増えることを考えるとまだ迷いはありました。ところは部下たちは、「やらせてもらえるのであればやりたい!」とはっきり言ってくれたのです。

山廃の難しさ

 「山廃にチャレンジしました。」といっても、日本酒に詳しくなければそのチャレンジがどういうものなのかピンと来ないと思います。業界では山廃と生酛が同じようなくくりで話されることが多く、生酛の方が山廃よりも工程が多いことや歴史が古いことで複雑で難しいイメージがあります。しかし実際にやっている方の中には、生酛よりも山廃の方が難しいと話す杜氏もいるくらい山廃には見えない壁があるのです。 

 一番は環境設定ではないかと思います。酛の仕組みは酸や糖の濃度を利用し菌を抑制しながら酵母を育てます。生酛の特徴である山おろしを行う事で粘性の高い、水分の少ない酛になります。山廃はこの作業をしないため菌のコントロールがより難しく、失敗する要因が多くなるのです。

 誰一人として山廃の経験者がいない。速醸仕込みしかできなかった蔵で、山廃への挑戦の壁は本当に高い壁でした。成功も失敗もわからない。そこからのスタートでした。

原料米、北海道産山田錦

 山廃も初めての試みでしたが、原材料も特徴があります。1本は北海道の酒造好適米「吟風(ぎんぷう)」というお米を使用。弊社で最も多く使っている酒米です。そしても一つは北海道の芦別という土地で作られた山田錦を使用しています。北海道では寒くて生産が無理だと言われていた山田錦ですが、加藤農園さんで何年もかけて栽培に取り組んでおり、今回その山田錦を試験的に使って山廃を仕込んでいます。


 北海道の気候で育つのは難しいとされている山田錦でしたが、仕上がったお米は北海道の酒造好適米とは異なる特徴を有していました。保水力や味わいは山田錦の風格があります。植物は気候の変化対応し先祖返りするともいい、今後どのような形で北海道の土地で山田錦の種が育っていくのかも興味深いです。

思ったほど酸が出ない

酛の仕込み後、乳酸菌の増殖によって酸が出てくるのですが文献ほど酸が出ない!という事件が起きます。山廃=酸のイメージがあったため、十分な酸がないことへの不安がありました。担当者も酸度が上がらない・・・測定が間違えているのではないか?と分析結果を疑うほど。結果的には衛生的に管理ができていたためという事でしたが、いい意味で福司らしいすっきりした味わいになりました。醪でも順調に経過をとり、醪中期ごろには南国のフルーツ系の香りが出ていました。山廃の酵母の力強さを感じましたね。仕上がったお酒も速醸では出ない旨味があります。

北海道産山田錦のモロミ中期ころ。


流行りではない酒

 最近流行りの酒質ではない、旨さを求めたタイプのお酒で、派手さや華やかなタイプではないですが、食事に合わせてじっくりと飽きずに飲める酒に仕上げています。流行りの酒は飲み飽きする。自分たちが酒好きの集団で、製造部で飲みに行っても結果自分のところのお酒を飲みます。飽きずに楽しめる酒こそよい酒ではないか?と思ってるからです。飲んでる最中に満足する酒ではなく飲み終わってから思い返すと満足するような。河島英五の「時代おくれ」の似合う、そんな時代おくれの酒になりたい。

山田錦50特別純米
吟風60純米酒

#フクツカサ未完成

 山廃初年度は、試験醸造的な位置づけとしており来シーズン(R4BY)より本格的に商品化いたします。今年はプロトタイプ的な位置づけてす。そこで商品には『フクツカサ、山廃仕込み、未完成。』とさせていただきました。初年度から完成形などというつもりもなく、これから福司の山廃の文化を作り上げていくため、酒屋さんや消費者の皆さんと共に新たなブランドを育てていけたらという思いも込めています。次回は首掛けへの想いなども含めてお話しできればと思います。

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