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【2500字】肝試し美人化【毎週ショートショートnote】

「いちま~~い、にま~~い、さんま〜〜い・・・ななま~~い、はちま~~い、きゅうま~~い・・・げっ!一枚足りない!」

落ち着いて。もう一度。

「・・ななま~い・・はちま~~い、・・きゅうま~~い・・やっぱり一枚足りない!」

何度数えても一枚足りない。99万しかない。

ほかの山は確かに10枚あるのに最後のひと山だけがなぜか9枚だ。おかしい。昨日の昼には確かに100枚あったのに。まあいいか。財布にあればいいんだ。ぱっと見て千円札が束になって顔を出している。

「・・ななま~い・・はちま~い!・・きゅうま~い!」

何度数えても9千円しかなかった。もう一枚無いと大変なことになる。

小銭入れをみてちょっと安心した。まあいいか硬貨もごちゃっとある!なんとかなるかも。

「・・はちま~い・・!・・きゅうま~い!」

百円玉も一枚足りなかった。

完全に詰んでしまった。

お菊は必死に考えた。

たしか昨夜は泥酔して帰ったんだった。親友の貞子と久しぶりに過ごした楽しいひと時は覚えている。一件目の焼き肉屋は飲み放題でビールを浴びるほど飲んだ。二件目でカラオケ、三件目のバーラウンジでハイボールをしこたまキメて・・・記憶がそこで飛んでいた。

今朝目が覚めたときは自分の部屋でパンイチだった。たまにパンなしの時があるが今は寒い時期なのでさすがにそれはない。一応掛物にはくるまっていたがこんな姿誰にも見せられたもんじゃない。

お菊はスマホのセルフィーを確認してみた。ほとんどが貞子とのツーショットだ。相変わらず貞子は髪はぼさぼさで顔が見えないほど前におろしている。そしてこの寒いのに白の薄手のワンピースだった。そして貞子の爪は伸び放題でピースサインがやたら長く見える。貞子は絶対に爪を切ろうとはしなかった。

そう、貞子は自分のスタイルというものを持っていてそれを絶対に崩さない。自分にはない貞子のそういうブレない強さにお菊はあこがれた。

お菊と貞子の出会いは井戸だった。お菊は奉公先の十枚組の一枚のお皿を割ってしまい、怒った主人に井戸に突き落とされたのだった。それからだいぶしてからその同じ井戸に貞子が捨てられたという事情があった。

お菊と貞子はすぐに意気投合した。そしてそれ以来のズっ友だった。お菊の方が先輩であるが、享年でいえばお菊16歳、貞子19歳でお菊は何から何まで貞子に頼り切った。そして未成年の飲酒はかたく禁じられているがそもそもこの二人に法律が及ぶのかはなはだ疑問だった。

頭がガンガンとする中、お菊はセルフィーを頼りに記憶をたどってみた。そうだ、ゆうべ貞子にうちにこないか?と誘ったのだが〝アンタんとこのテレビから帰ればいいんだけどね〜。今日は終電で帰るわ!〟と冗談ともつかない戯言を言って帰っていった。

そしてなんとか私は部屋にたどり着いて化粧も落とさずに寝たんだった。だけど真夜中突然目が覚めたら、モーレツにのどが渇いていて、冷蔵庫には何もなくて、手元にあったとりあえずの一万円握りしめて近くのコンビニに行ったんだった。だんだん思い出してきた。なんか悪い予感しかしない。

で、ミネラルウォーターを買ってその場でごくごく飲んで、げ~~やっぱり!

だから百円足りないのか。今日のために準備した百万円に手を付けてしまった。この日のために準備した虎の子だった。いきさつは次のとおりだ。

実はお菊は井戸に落とされたときに顔にけがを負ってしまい、それがちょっとした痕になってしまっていた。貞子は折につけお菊に美容整形を勧めていた。

「あんたさあ、怪談界の三大美女といわれるぐらいの美人なんだからその痕、整形で何とかしたほうがいいよ!」
「でも」
「でももくそもない!ヤレっつーの!」

こんなかんじで飲んだ時は必ず貞子に説教されるのが常だった。
「でもたくさんのお金がかかるんでしょ?」
「心配するなアタシに任せておけ!」

貞子は妙に頼りがいがあった。さすが昭和生まれは義理と人情に厚かった。いちおう没年も昭和だが。

まず貞子は働き口を探してきた。自分とお菊のためにこれ以上はないという仕事を探してきた。お化け屋敷や、肝試しイベントの幽霊役のキャストだ。

二人はたちまちこの業界から引っ張りだこになり、なくてはならない存在となった。当たり前だ。本物ならではの迫力でお客を心底震え上げさせることができた。トラウマ級の恐怖だ。

こうして貯めた百万だった。

そしてあろうことか貞子は腕の良い美容整形外科医に直談判して三百万の外科手術をお菊のために百万まで値を下げさせた。外科医は貞子のあの手この手でさぞや怖い思いをしたに違いない。

実はSNSではその若いイケメン外科医が貞子との交渉中にちびったみたいだともっぱらの噂になっていた。

さて、美容整形外科の予約時間が迫っていた。このタイミングを逃すとまた予約待ちで数ヶ月待たねばならない。お菊は焦っていたが、これ以上貞子に頼るわけにはいかない。あとどのくらい余裕がある?お菊はスマートウォッチを確認した。残り一時間か。

余分な有り金はすべて昨夜使ってしまった。お菊の生年は江戸時代のため銀行口座やカードを作る与信などあろうはずもなかった。さあどうする?

お菊はクローゼットの服のポケットの中をを片っ端からまさぐった。ふだんからだらしない生活をしていると思わぬところで救われることがある。無い!今度はバッグを片っ端から確認しはじめた。無い!

こんどは引き出しという引き出しをひっくり返してみた。無い!次は掃除機だ。ふだんかけないところも入念にかけてカチリと鳴る金属音を期待した。無い!百円以外の硬貨でも紙幣でもとにかく出てくればマシなのだがその気配すらなかった。

たった百円が足りないだけでこんなに苦労しなければならないのか?時計をみるとあと30分に迫っていた。

貞子に頼ればなんとかなる。だがここまでしてもらってこれ以上の事はとても言えそうに無い。

お菊はスマホに手を伸ばして観念したようにもう一人の友人にかけた。

「あっあたし。お願いがあるんだけど!百円貸してもらいたいんだけどあんたすぐには来れないよね。貞子に融通してもらえるよう頼んで貰えるかな?たかが百円なんだけどすぐに必要なんだ。えっ自分で頼めって?ちょっとした事情があってあたしの口からは言えなくて。いい?貞子だったらテレビさえあればすぐに来れるから。お願い!頼んだよ」

お菊は貞子との共通の友人に頼むことにした。くどいようだがお菊の口からは貞子に百円ショートしちゃった!てへぺろなんて口が避けてもいえなかったのだ。


そう、その共通の友人とは最初から口が裂けてる口裂け女だった。


たらはかに様の毎週ショートショートnoteに参加いたしました。





















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