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小品「非常」

このマンションには、頭のおかしい奴が住んでいるらしい。

上の階に住んでいる奴がそんなことを言っていた。
頭のおかしい奴とはどんな人間なのか。
全く見当はつかないが、とにかく近づかない方が良いことだけはわかった。

なんでも、日の暮れた夕方によく目撃されているらしい。
私が仕事を終えて帰ってくる頃の目撃例は少ないらしいが、
安心はできない。

そう考えていたのは、上の住人からその話を聞いた後の数週間だけだった。

その頭のおかしい奴は、一人ではなかった。

五人ほどだろうか。
マンションの外通路の先の方に、突っ立っている人影があった。

こちらを凝視していることは確かだった。
しかし、それが本当に“人間”なのかは不確かだった。

人影といえば人影だが、少しおかしい点がいくつかあった。

体が異常に長く、首が長い点。

非動物的で、髪が見当たらない点。

モノクロ写真みたいな色のない見た目。

それぞれが人間らしさを欠くような要素で、
より不気味さを引き立てている。

目が合ったような気がしたので急いで部屋の扉を開けて鍵を閉めた。

薄暗い部屋の中と、奴らがいるであろう玄関の外と。

それぞれの恐怖に挟まれて数分を過ごした。

その後、特に変わった様子はなかった。
部屋の窓ガラスが開いていたことを除いては。


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梔子

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