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りんちゃんと幻聴さん #02

りんちゃんは文章を書くのが好きだ。文章を書くお仕事だってしたことがあるし、今も探している。でも、たとえば今みたいに、りんちゃんはパソコンに向かって必死に言葉をひねり出そうとしているのだけど、幻聴さん、特に今日はかなり大きな声の幻聴さんたちが来てしまっているから、その言葉で気が散って、文章が文章として成立しないこともある。りんちゃんはイライラさんになってしまう。

ところでりんちゃんを屋外で見かけたことがある人には今更な話だけど、りんちゃんはヘッドホン無しではほぼ外出できないんだ。SONYの古いWALKMANに、アイボリーのヘッドホン。食料品や生活用品の買い出しの時だって装着していくよ。スーパーマーケットってとってもうるさいし、レジの列なんか皆ちょっと殺気立ってるから、音楽で誤魔化すんだ。

「聴覚過敏」っていうらしい。色んな音、特に人の声、主に笑い声に、りんちゃんは耐えられない。自分が笑われてるんじゃないかって思う時もある。被害妄想っていうやつだね。でも、それが分かっていても止められないのが被害妄想。なかなか厄介みたいだよ。

もうひとつ。りんちゃんは雨音が苦手だ。
大抵の人は、雨粒が窓を叩く音で落ち着くなんて言うんだけど、りんちゃんは、多分ル・クレジオの作品かな? 好きな小説の言葉で、

「意識を蝕む雨」

っていう風に表現する。大げさなようだけど、りんちゃんにとっては言葉通りなんだ。

最近、りんちゃんは大きな進歩を成し遂げた。
笑わないで聞いて欲しいんだけど、「屋内でヘッドホンを装着できるようになった」。
雨音が酷い時や幻聴さんたちがわいわいやってる時、これまでりんちゃんは音楽のボリュームを上げることで対処してきた。だけど今は一緒に住んでる人がいるから、ほら、迷惑でしょ?

そもそもなんでりんちゃんが「室内でヘッドホンをつけられなかった」か、その話もしないとね。
これはりんちゃんのお母さんに起因することで、一戸建ての実家に住んでいた頃、りんちゃんの部屋は二階だったんだけど、お母さんは内線を使わずに、大声で階下からりんちゃんを呼ぶことが多かったんだ。

「呼ばれた時にヘッドホンをしていて気づかなかったら怒られる」

りんちゃんはずっとそう考えていた。実際には、お母さんはそんなに怒らなかったかもしれないけれど、りんちゃんの頭の中ではそういうことになってたんだよ。だから音楽はWALKMAN付属のスピーカーで聴いて、どうしてもヘッドホンで聴きたい時(大好きなバンドの新譜とかね)は、あらかじめご家族にこう宣言してた。

「今から一時間ヘッドホンをするので、用があったらケイタイにメールください」

時には部屋のドアに「ヘッドホンをしています」って貼り紙をすることもあったね。

きみはこれを聞いてどう思う? 
りんちゃんの被害妄想が強すぎるって思うか、ご両親が厳しすぎるって思うか、まあ、色々意見はあると思う。
ある人は、この一連の流れを「異常だ」って言ったよ。「りんちゃんがそんなに強い被害妄想を抱くのは、そういう被害妄想を起こさせるお母さんが悪い」ってね。

でもね、この前も言ったけど、りんちゃんは「基本的に」家族が大好き。確かにお母さんとの関係性は長年の悩みだし、主治医の先生も問題視してる。別居している今も、「お母さんに怒られる声」は頻繁にやってくる。何か失敗をした時や、自己嫌悪に襲われた時、実際のお母さんの意見は関係なく、頭の中で怒られちゃうんだ。

話を戻そう。今、りんちゃんは屋内でヘッドホンを装着できる。何故かって、もちろんお母さんは大声でりんちゃんを呼ばないし、ガレージに車が入る音が聞こえた瞬間ドキッとするようなことは、今のおうちでは「現実に起こらない」ことだから。
でも、ここに至るまで三年かかったよ。笑う人もいるかもしれないけどね。

この前ここに来て話をした時、幻聴さんの声をいくつか挙げたよね?
「死にたい」さん、「死ね」さん、「殺せ」さん、くらいかな。字面だけ見ると、物騒でバイオレンスな感じだよね。りんちゃんは彼らを「ジェノサイド軍団」なんて言ってるよ。

だけど、りんちゃんがそんな「ジェノサイド軍団」によって困らされる時、別の意味で困ることを言う声もいる。
それは、「撃て」もしくは「撃ち殺せ」さん。
「鉄砲で撃て」っていう感じで言ってくるんだ。でも、言うまでもなくりんちゃんは銃なんて持ってない。「持ってないから撃てないよ」って、余計に悩んじゃう。変なことを言う声もいたもんだ。

おっと、もうこんな時間か。そろそろ行くよ。また話しに来るからね。

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