アプリで騙された話

昔、地図アプリを頼りに可愛いラテアートが魅力なカフェに入ったつもりが、気づけば買うまで出してもらえないという外国人の服屋に入店していた。

カフェにしては随分ファンキーな外観だと思った。
扉を開いた瞬間、ガタイの良い巨大な店員と、筋肉質な細い店員と目が合った。
看板メニューの「森の小さなお友達」のラテアートを求めて来たというのに「大陸の屈強な仲間達」が出てきてしまった。

店員達も自ら入ってきた日本人に驚いていた。
巨大な方にTシャツを勧められたが、変に気を持たせたら申し訳ないと思い
「あ、すみません。服は着ない主義です」
と、断った。
裸族のようになってしまった。
ファンキーな服は着ないと言いたかったが、言語の壁が邪魔をし、あまり上手く伝わらなかった。

服に興味がないと知ると、アクセサリーを勧められたが
「あ、付けないんで」
と、再び断った。
何故この店に入って来たと思った事だろう。
私もなぜ今自分が此処にいるのか全く分からない。

じゃあ、お前は何が好きなんだと唐突に訊かれ、数多くある中から考えた後
「ビーフジャーキー」
と答えた。
細い方は
「オレモ好キ」
と答え、巨大な方は
「ソウジャナイ、オシャレノ話」
と答え、質問の意図を履き違えていた事が浮き彫りとなった。

私は僅かな希望にかけ、カフェについて訊ねる事にした。しかし
「森の小さなお友達を食べに来たのですが、どこですか?」
と、小動物界の進撃の巨人と化した。

呼んでもいないのに、不安過ぎる日本人が来てしまった、という雰囲気が漂った。
「コノ人、ナニ……」
と、巨大な方が細い方に話しているところをみると、私の存在はこの店のアクシデントとして捉えられているようである。
せめてこちらに分からぬよう、そちらの母国語で相談してほしかった。

そもそも、私が「東京Japan」と記されている日の丸のTシャツを着ている時点で大分場違いである。
しかし、よく考えればオシャレなカフェでは、より絶望的に場違いである。
森の小さな仲間達を食している場合ではない。
今となっては辿り着かなかった事は不幸中の幸いとも言えよう。

しかし、店から出して貰えぬのならば居座る他ない。
私は水筒の蓋を開けた。

すると、外から新たな屈強な仲間達に連れらて日本人男性客が入店した。
入店時に私と目が合うと、同じ境遇の被害者を見る同情の眼差しでこちらを見ていた。

巨大な方が男性客に服を勧め始めた。
私もただ居るのも申し訳ないので
「似合いますよ」
と、合いの手を入れると、男性が客が
「アイツ、こちら側ではないのか…?」
という顔をした。
しかし、店の者の仲間しては東京Japanが浮きすぎている。
「でも、Tシャツにしては我々の感覚からしたら高いですよね」
と、声をかけると、巨大な方も
「何言ってんだコイツ?」
と、いう顔をした。
一体どの立ち位置から物を申しているのだろうか。
どちらとも付かない不気味な存在と化した。
ただ一つ分かる事は、どちらにとっても迷惑な存在であるという事だけである。
非常に肩身の狭い思いをした。
再度帰っていいかと訊ねると、すんなりと出して貰えた。
ドアまで開けてくれた。


【追記はこちら】
その後のショックな出来事などを記載してあります。


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