詐欺の被害にあった話

友人宅にて友人祖母に床下に飼い猫が入ったかもしれぬと言われたので確認の為潜ると、猫ではなくその家のジジイと鉢合わせした。

懐中電灯の電池がなく暗闇で互いに四つん這いで移動していた為、非常に心臓に悪い思いをした。危うくジジイの方も昇天しかねぬ事態であった。

ジジイから床下に隠した酒を探していると聞き手分けして探していると、新たに見知らぬ作業着の男が床下に入ってくる様が見えた。
男のライトが地を這う私の姿を照らした。
その瞬間、男は悲鳴を上げ
「何か住んでますよ!?」
と床上に向け声を発した。
男がすぐさま方向転換し逃げるように地上へ上がろうとすると、今度は男の後ろに位置していたジジイにライトが照らされた。
ジジイが顔を傾け四つん這いで見つめる様は循環器に多大な影響をもたらす衝撃的な絵面であった。
男は驚きのあまり頭を打った。

床下にジジイが潜んでいるなどと誰が想像できたであろうか。
男はシロアリの点検に来たらしいが、アリよりも遥かに衝撃的なものとの出会いを果たした。
痛みで頭を抱える男を心配しつつ、ついでに私はこの家の者ではないので家の事はジジイに訊いてくれと念の為にお伝えしようとしたところ
「爺さんはここに住んで長いので、分からない事は爺さんに聞くといい」
と、床下に移住した新入りに村の説明を説いているような形となった。

床下に棲むアリエッティのようなジジイなど既にシロアリ業者の駆除案件の範疇を超えている。
男は一目散に床下を抜け出そうとした。
我々は男を心配し後を追った。

その頃、地上では友人が懐中電灯用の電池を購入して帰宅し、床下から私が上がってくるのを待っていた。
すると、血相をかえた作業着の男が這うように出て来るのに続き、わらわらと私とジジイが這い上がってきた。
友人は、幼き日に興味本位で虫の巣をつついた時のトラウマが呼び起こされたという。

多方の精神衛生面に打撃を与えつつ、我々は再び地上に這い上がった。
友人がシロアリ業者の男を猫を助けに来た者だと誤解し
「すみません。気を抜くと隙間からすぐに潜り込んじゃうんですよ」
と語った為、「気を抜くと僅かな隙間から床下に現れるジジイ」として業者の男の脳内情報に刻まれた。
常に気を張っておかねばならぬ。

業者の男は「近くにシロアリが出たので、今ならすぐに無料点検できる」と友人祖母に申し、「無料なら見ろ」と床下にいる私の事には一切触れずに床下に降ろされたらしい。
お陰で床下が過去最大の人口密度を迎えた。

何でもかんでも来た人間をとりあえず床下に入れるのはやめて頂きたい。
ジジイにも秘蔵の酒はすぐ手の届く所にしまえと申したい。

「無料」などを謳い、突然訪問し契約を急かすシロアリ業者は大抵詐欺であるので、業者の男は友人とジジイに追い返された。
結果としてあの業者の男はシロアリではなく、ジジイと私を見て帰った。

猫は床下ではなく、どこからかするりと現れたらしく、居間で婆さんと共にくつろいでいた。
家庭内での報告•連絡•相談の大切さを私は知った。

【追記】
ジジイ秘蔵の酒は大変おいしかった。
ちびちび大切に飲む爺さんに対し、婆さんはそんなにしょっちゅう飲むわけではないが飲む時は豪快に飲むタイプであり、見つかったら飲みつくされる恐れがある為、床下の奥に分散して保存しているらしい。
ファンキーな老夫婦である。

シロアリ詐欺の手口については、床下に潜り他の家のシロアリ被害の写真を見せ、さも被害にあったように惑わせる。
あらかじめシロアリを瓶の中に入れ、さも居ましたみたいな顔をする。
などなど、手口はさまざまである。
瓦詐詐欺の時と同様に、「シロアリ被害が出ましたので」と訪問しその日は声かけのみで終わらせ、後日都合よくシロアリ業者か現れたり、チラシをポストに入っている二段階パターンもあるので、お気をつけて頂ければと思う。

訪問された場合は即決せず一度断り、信頼できる業者に相談する事をお勧めする。
即決を促す業者こそ怪しいものである。


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