見出し画像

探しています

大学生の時に知り合った江口大揮という生き物
自称占い師 自称役者 自称ラジオDJ
大学という晴れ舞台でイケてる友達欲しさに又は自分がイケてる人種だと主張したいが為に注目を浴びる発言を繰り返してはああコイツ友達おらんねやろな中高とイケてなかったから必死なんやろながバレバレのイモ臭い奴だった
彼が言う自称の全てを僕達(僕達がイケていた訳じゃないけど。たまたま近くにいたので赤子をあやす様に)はもちろん信じていなかったけどバレバレの嘘が楽しいので泳がしていた
例えば「昨日京橋で女の子にナンパされてぁ〜」を根掘り葉掘り聞くとそれただのガールズバーのキャッチやんけだったりした
そろそろ穏やかな僕達も彼の嘘に辟易してきた頃
彼もそれを察したのかここは今までと違うどでかいのいっとかなあかん飽きられたらいかんさかいなと思ったのか
「ヤクザが小指切るとこ見た事ある」と口走った
どういう経緯でかを聞くと「なんかこわい人にビルに連れて行かれて」とだらだら血迷っていたみんながどこのビル?とかこわい人って具体的に誰やねんとかを飲み込んでいると僕達の1人であるギャル男が痺れを切らしキレ気味で「お前ヤクザなんけ?」と突っ込んだ
「ふすまをちらっと開けて覗いたら…」と続ける
僕は「ビルやのにふすま…相変わらずデイティールがガタガタでいいね」と思っていた
ギャル男がもう一度突っ込む「なぁお前ヤクザなんけって!?」
「…」江口黙る
「もうお前正直言えや全部嘘なんやろ!?」ギャル男が詰める
みんなが見守る中で江口は泣きそうな顔でそれは大声でそれは真剣に叫んだ
「正直言う!!全部嘘や!!!」
僕達は爆笑した
出会った頃から知っとるっちゅうねん
江口は僕達の笑顔を見て安心したのか苦笑いから急に爆笑へギアをチェンジしたせいか変な顔で壊れていた
この日を境に江口はみんなと疎遠になった
流石の能天気も自分の寒さに気付いたのかもしれない
唯一僕だけが「江口…指を切るじゃなくて指を落とすやで」と火に油を注ぐいやらしい笑顔で喋りかけた
その甲斐あってかは知らないけど
「馬場ちゃんどこで働いてるん?」
「ローソンやで」
「俺も行っていいかな?」
「全然いいねんけど高槻やで?」
「大丈夫!」
枚方に住んでいる江口がわざわざ僕が働いているローソンにやって来た
どえらいのに懐かれてしまったけど責任持って育ててあげようと思った
「江口お客さんレジ来たらまずポイントカードお持ちですかって聞いてな」
「おうわかった!」
「さっき聞いてなかったで」
「ごめん次はちゃんとするから!」
レジから1番離れた場所でコーラを補充する江口に「あっ江口あのお客さん今からレジ行くわ。一旦今の作業辞めてレジ入ってほしい」と注文すると頭がポイントカードでいっぱいだったんだろう
「ポイントカードお持ちですかーーー!!!」と叫びながらレジへ走っていた
いや江口早い早い早い
レジ入ってから落ち着いてポイントカードの有無聞いたらええから
もうめさめさ可愛かった
もしかしたら人から愛されるセンスはお持ちかもしれないと思った
時を経て大学卒業後
久しぶりに江口に会うと名刺を渡された
「俺今ラジオやってんねん!」
放送統括ディレクターと書いてある
自称じゃなくなってる
もしかして誰か凄い人に可愛いがられてるんかな
よかったなーと言ったものの少し悔しかった
江口の嘘が本当だったらいいのにと思ったのは初めてだった
松屋でカレーを食べながら未来を語った
馬場ちゃんは将来なんかやりたい事あるんと無邪気に聞かれた
僕にはなんにもなかった
酒を呑むだけの毎日だった
自分より劣る江口を見て安心したかっただけなのにペットに手を噛みつかれた気分で純粋な彼に悪気はないだろうがそれは時計じかけのオレンジみたいな逆襲と似ていた
それ以来彼とは一度も会っていない
というか連絡が取れなくなった
今どこで何をしてるか知らないけど
何が嘘で何が本当だったのかわからないけど
会いたい
おい江口…ワシは今ヤクザや!
お前がもし出世したり金ガポガポ稼いでた時の為にワシ毎日冷凍ウインナーで小指落とす練習しとるさかい覚悟せえよ









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?