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ボルヘスのスケール感

これまで読んだ本の中で、
いつまでも読み続けたい、
折に触れて読みたい、と思う本がある。
いわゆる、
座右の書というやつだ。

僕にも座右の書が何冊かある。
その中の一冊は、
J.L.ボルヘスの、
『語るボルヘス』
という講演録だ。

ボルヘスの、
『詩という仕事について』も、座右の書の一冊で、
旅行に行く時などによく持って行ってパラパラと読むのだが、
『語るボルヘス』もそんなスタンスで読める、
とてもいい本だ。
適度に薄いし、語り口も優しく読み易い。
けれど、
そのメッセージはかなり熱い!

台風だから、
演奏の仕事も休みになり、
時間がたっぷりある。
停電は一日半続いたが、
停電の間も、髪バンドに懐中電灯を差して、
トンネル掘りの人夫のようななりで、
本を読んでいた。
今読んでいるメインディッシュとも言える本が二冊と、
あとはカジュアルに、
トイレに行く時や
煙草を吸いに外に出る時などに読む本がある。
読書は楽しい。
気分に合わせて読むものを都度選ぶ。
なんとなく、
ボルヘスの部屋に行って、その深遠な空気と、そこに流れる時間を感じたくなった。
『8 1/2』を観たこともどこかで影響している。

それで、
久しぶりに『語るボルヘス』を読み始めた。
読む、というより、
肉声を聴く感覚に近い。
彼は慎ましくも広大なスケール感を持った人だと感ずる。

「不死性」という章でボルヘスが語っていたことをいくつかメモしよう。

「われわれ一人ひとりは、何らかの形でこれまでに死んでいったすべての人間なのです。血のつながりのある人たちだけではないのです。」

「この世界の中でわれわれはさまざまな形で協力し合っています。誰もがこの世界がもっとよくなるようにと願っています。もしこの世界が本当によくなれば(それが永遠の願いなのです)、もし祖国が救われれば(必ず救われることでしょう)、われわれは救済という一点で永遠の存在になるはずです。その時、自分の名が知られているかいないかは問題ではありません。そんなことは取るに足らないことです。大切なのは不死であることです。不死になるというのは、成し遂げた仕事の中で、他者の記憶に残された思い出の中で達成されるものなのです。」

この志の高さ!
眼差しの深さ、、、!
恐れ入ります。
一生ついていきます!という気持ちにさせられる。
この普遍的な眼差しは僕も持っていたいなと強く思います。
僕らは、
自我を持つが、自我などをゆうに超えた大きな自我で生きている、、、、なんていうと急にボルヘスの語ったことの新鮮さが失われる感じがするなあ、、、。
何と言ったらいいんだろうか、このスケール感。
ボルヘスの上の言葉を読むと、爽やかなスケール感を感じるのだ。
芸術に携わる人間として、
ボルヘスのような認識はとても重要なものだと僕は思っている。
「自分の声」を追求しながらも、
自分の声の中には無限のあらゆる存在が生きている。両親はもちろん、先祖、聴いてきたもの、出会ってきた書物、、、、。
その、
あらゆる事物を内包した「自分の声」に触れた人々の中に生きる。
その時、「その声が"高雄飛"という人の声なのかどうか」は取るに足らない。なぜなら、その声に触れた人自身が、その時、その声そのものになっているから。

、、、気宇壮大、真に男らしい。ボルヘス先生。

岡潔大先生の、
「できるだけ日本民族そのものを自分と思った方がいい」
という言葉も思い出した。
岡先生は、
自我というものに関してかなり詳細に述べている。
現代我々が思っている自我は、
無明(思考、妄念)に他ならない、と書いている。
我々は言葉に規定される側面を持つ生き物だ。
自我、という言葉の範囲がどこまでなのか。
たしかに、
岡先生の言うように、我々は小さな頃から自我の範囲を、
「感情」や「思考」の範囲に狭めて感じさせられてきた部分も大いにあるかもしれない。
その点、
沖縄における祖先崇拝の文化はハイブリッドだと思う。
意識的であれ、無意識的であれ、
沖縄の人は基本的に祖先との繋がりを感覚として根っこに持っている人が多い気がする。
この感覚があることによって、
「自分は確かに自分だが、自分はこの肉体の器の範囲だけじゃなく、自分に連なるもの全てが自分だ」
という薄っすらとした認識に繋がっていると思う。
僕も沖縄に来てからは、
ウチナンチュのそう言った感覚に感銘を受け、
ご先祖様のことを事あるごとに意識するようにしている。

とにかく、
ボルヘスの持つスケール感は非常に説得力がある。
同じことを言っているように思うかもしれないが、
「ワンネス」
「私たちは本来一つ」
などと言われるのとは違う、
安心感と勇気が沸々と湧いて来る。
ボルヘスの言葉には慈愛がみちている。

「私」という「場」に死者が生起する


台風、
また戻って来て、
まだ去らないようだ、、、、。

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