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そこにあかりが灯るから、わたしはまたバトンを次に回す事が出来る


キリッと冷えた空気に当たると
頬が痛いと言う感覚を
すっかり忘れていた。

マスクをして玄関を開ける
そんな習慣が
いつの間にかルーティンになったから。

早出の朝
まだ少し暗いなか
冷えた車に乗り込む。

振り返ると
リビングからパジャマ姿の子ども達が
手を振るのが見える。

2人の見送りも
いつの間にかルーティンになった。

ついこの前まで
小さな背中を
見送る側だったのに。

そう思うと子どもたちの成長は
嬉しい様で寂しい。

親とは全く勝手なものだと思いながら
タンブラーのコーヒーを飲む。

道路は混む時間と少しズレていて
ストレスも感じない。

ふと信号待ちで止まった時
見上げたマンションの一室に
あかりが灯っているのが見えた。

それはおかしな感覚で
その一片だけを切り取って
誰が住むとも知らぬ
その部屋に親近感を持ってしまう。

あぁ、あの部屋の人の今日も
始まったんだな。

私はいちいち立ち止まる事が苦手だ。
でも生きていれば
嫌でも足が竦む事もある。

そんな時は必ず
谷川俊太郎の『朝のリレー』を
思い出す。

目の前の不動産屋にある
電光掲示板の文字が流れていく。

オランダ姓の彼が初めて日本に来た時
『おまえの国の夜は明るすぎる』と
憂いた事があった。

Vancouverだってカナダの中では
大きな都市だったでしょ。

そう言ったけれど
思い出すVanの夜は星が綺麗だった。

街灯は付いていても
こんなにチカチカしたものは無かった。

『カナダにいる時もオランダにいる時も
自分の中にあるアジアを意識していたけれど
本当はこんなにも違うんだな』

初めて見る日本に
嬉々としたり
憂鬱になったり。
彼は少し期待していたものとは違う
疎外感を
日本に感じていたのかもしれない。

ポーランドとインドネシアのハーフで
どことなくエキゾチックだった。
エキゾチックと言うと
『それはお前だ』と言い返されていたな。

不動産屋の看板にさえ
彼の記憶が結ばれてしまう。

どこにいても
何を見ても
影の様に彼の記憶は付いてくる。

早出の理由は
利用者の方の送迎。
慣れない大きな車に乗り
エンジンをかけると
突然にラジオが始まる。

流れてきた歌が気になって
送迎を終えて
調べてみた。
そらで覚えた歌詞を打ち込むと
それは直ぐに出て来た。

ずっと昔に
聞いた様な気もする。

陽を受けて
黄金に光る毛を
風に揺らしているライオンが見えるような
そんな歌だと思った。

携帯の音量を上げて
私はアクセルを踏む。
誰かの今日が次々に始まっていくのを見ながら
今日と言う日のバトンが
無事に繋がったことを安心する。

私は誰かにとっての
あかりなのだろうか、
そんな事を思いながら
今聞いたばかりのフレーズを歌ってみる。

少し冷めたコーヒーを飲んで
私は私で認めるだけしか出来ないって事を
改めて知る。

誰でもいい。
知らない人でもいい。
そこにあかりが灯るなら
私はまたバトンを繋ぐ事が出来る。



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