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また、いつもの声で呼ばれると思っていたよ。


福祉の仕事をしていると
色んな出会いがあります。
車椅子の人、手話の人、全盲の人
目に見える障害のある方も
目には見えない障害のある方も
毎日『おはようございます』って挨拶をして
『今日は雨ですねぇ』とか
『髪、切りました?』とか
本当に何気ない日常があって
生活があって
仕事があって。



今の就労支援の部署は
『今から働きたい!』と言う方達ばかりなので
比較的に年齢がお若い。
精神の方は一度社会に出た方が多いけれど
それでもお若い。
働きたい!というエネルギーに満ちている気が
します。

2年前まで所属していた入所施設の部署は
全く逆で
高齢者の方が多かった。

もともとはお若くして入所されたのでしょうが
もう20年30年と施設で過ごされ
障害者というより
高齢者としての課題が大きくなっている
そんな現場でした。

基礎疾患が無い人を探す方が難しいし
家族との付き合いがある人を探す方が
難しい。

障害者問題が、ありありと
そこには日常的にありました。

この世の中になって
部署異動した私が施設を訪問することは
簡単ではありませんでした。

通所と入所が完全に遮断されているのです。

研修等で訪問しても
ガラス越しに見える姿に手を振ったり
出来る事は、それくらいでした。

私を『noriちゃん』と呼んで
『お茶をいれてくれ』
『お菓子の袋を開けてくれ』と
何かと用事を言いつける方が居たのです。

戦前のハルピンで生まれ
命からがら日本へ帰国し
国の指定難病とされる疾患を患いながら
長男として仕事をし一家を支えてきた

私たちは『じぃ』と呼んでいて
80歳を超えても、明け方の空に向かって
シャンソンらしき歌を歌っている
そんな姿の『じぃ』を毎朝見ながら
朝礼を行っていました。

そんな『じぃ』が昨日、
天から呼ばれて逝ってしまいました。

昔は相当、浮名を流した事でしょう
そんなルックスの方でした。
『気にいった女性は必ず下の名前で呼ぶよ』
そう聞かされていて
始めて『noriちゃん』を聞いた時は
吹き出してしまいました。

ばあちゃん子で育った私は
何故か高齢者に好かれます。
銀行の窓口の時も
教育委員会の時も
じいちゃん、ばあちゃんにウケが良いのです。

何か身に付けたモノがあるんでしょうね。

もれなく『じぃ』とも仲良しでした。
『どら焼きが食べたい』と言われたら
近くのスーパーまで買いに行きました。

私が働く法人は、
週に1回車で色々なものを売りにくる
移動販売カーが来るのですが、
『じぃ』の食べたいどら焼きは
その販売カーには無いのです。

『じぃ』だけではなく
他の方の『あれが欲しい』『これが欲しい』は
私たちが週に2回
買い物代行として行っていました。

それはそれは大変です💦

指定されたものが違えば返品にも行きますし。

ひとくちで『どら焼き』と言っても
メーカーがあり
サイズがあり
値段があり・・・。

それを1人ひとり聞いて買い物に行くのですから
それはそれは1日掛かりの仕事でした。


夏前に体調を崩した、と聞いていました。
入院するかもしれないと。

でも今までも
何回も
危ない時を超えてこられた『じぃ』
今回もそうだと思っていました。

今日、弟さんが来られて
簡単なお葬式がありました。
家族の参列は弟さんだけです。
後は職員と仲の良かった利用者の方々。

『じぃ』が好きだったどら焼きと
『このマークがついたやつしか飲まん』と
決めていた特保のお茶を買って
さようならをしてきました。

いつもの声で、また呼ばれると思っていたよ。
あぁまたじぃが呼んどる〜って走って行く
そんなつもりだったよ。

最後に見た
あの朝の太陽に向かってシャンソンを歌う
あの顔は想像以上に細くなっていて
2年と言う時間を感じさせられました。


福祉の世界に入って3年目
幾度さようならをしただろう。
年齢に関係なく
障害や病気に関係なく
天から呼ばれて
みんなアッサリと、
この世に未練など微塵もないように
抗う事なく逝ってしまう。


どこか憂鬱な寂しさのまま
昼休みに参列した私は
仕事に戻りました。


今の部署に戻ると
そこには目を輝かせ、
『今日はタイピングがこれだけ出来ました!』と
報告される精気が漲る方々が居ました。

新聞を使って新聞タワーを作って
誰が1番高いものを作れるか
と言うワークをしたのですが
ぐにゃりと折れて大笑いの声と
お互いが『こうしたら良いよ』と言い合う声と
そんな声を聞きながら
生きると言う事
生を終えると言う事を
ぼんやりと考えていました。

『じぃ』は混乱と戦争の時代を生き
高度成長の日本で難病と共に働き
そして
自分の家族を持たないまま召された。

障害を取り巻く環境は変わったのだろうか

色んなことを考えた1日でした。

台風の来る、
荒れた日に天に逝くのは『じぃ』らしいね

そんな事をある職員さんが言いました。

本当にそうだな。
いつも何か面白い事を考えていて
危ないから辞めといたら?って言うのに
わざわざやってみたり。

生を終えても人の記憶に残るって
こんな事なんだなと
横殴りの雨の中、子どもたちの待つ
我が家へ帰ってきました。

私の居場所。
私の大切な人。

誰かが亡くなると
色々な事を思い出して悲しくなって
辛くなってしまうのですが
こんな台風の時を選んでくれたのは
『じぃ』の最後の優しさだと思います。
台風来てるぞ
センチになってる暇ないぞって。



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