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大切な事は底に沈む金魚から知る

朝陽を浴びる事
好きな服を着る事
冷たい水で顔を洗う事
愛する人達の顔を見る事
出かける背中に声をかける事
好きな音楽を聴く事
大切な人達を想って作るご飯。
それを食べる笑った顔達。

当たり前の事が全く出来なくなって
自分が生きてるのか
死んでいるのか
生きたいか
死にたいかも分からず
眠る事も
食べる事も
どうやっていたのか思い出せない。

真白はずっと、ベッドで寝ていた。
ポッカリ心に穴が開くって、こんな事らしい。

If you feel ”alone” you never ever could be ”alone”
(もし孤独を感じても絶対独りぼっちになれない)

Your body remember some of parts came from your mom and dad.
(あなたの身体の色んなパーツが母や父を覚えてる)

Never ever be ”alone”
(決して独りぼっちにはなれないって事)

携帯の画面をスクロールさせながら、Lizと撮った写真を見ていた。
Lizの言葉とは裏腹に今の僕は間違いなく1人だ。
2年と言う期限で来日していたLizと僕は出会い愛した。
なのに相談もなく彼女は自国に帰ってしまった。
そんな終わり方ってあるか。
2人で過ごした2年がまるで存在すらしなかった様に、劇場の緞帳が突然ドンと落ちてきて、誰も居ない人生劇場に独りで僕は立っていた。

「居なくなった人の事なんて忘れちゃいなよ」
佐波が絡みついて、そう言う。
幼馴染の佐波は何かと煩いが、今は独りで過ごすより構ってくれる存在で有り難かった。

「結局さ、Lizは日本が好きで、ここで学びたい事があったのも事実だし、真白との関係も本当だったと思うけど、それが彼女にとってはForeverじゃなかっただけじゃない」

佐波は部屋に勝手に入り込んで、冷蔵庫からコーヒーを取り出しながら言う。

「でも、せめて相談して欲しかったな」
ぽつっと本音を言ってしまって真白は、自分が凄く女々しい気になった。

「人と人との出会いとかさ、本当に偶然だと思うし、その中でも大切だなって思える存在になるって特別だと思うんだ。Lizにとって自分がそうじゃなかったのは残念過ぎる」

うーんと唸ってから、佐波はぐっと顔を僕に近づけて言った。
「出会いなんか幾らでも何処にでも転がってる。真白が、ただ見てないだけじゃんか」
そういって不機嫌そうに窓を開けた。
生温い風が入ってくる。
「しかも、たまたま特別になっただけ、でしょ」

僕は佐波が何を言いたいのかさっぱり分からない。励ましに来たのか、反論しに来たのか。
佐波はアイスコーヒーを一気に飲み干すと
「ま、居なくなってしまった人の事はもういいんじゃないかと私は思うだけ」と言い捨て帰って行った。

僕は佐波の言う事も一理あるよなと思い、起き上がって窓を閉めた。歩いていく彼女の小さな背中が見える。僕はふと、佐波の存在を思った。

近過ぎて見えなかったのだろうか。
気が付けば、佐波の事を知っている様で
まるで知らない事に気が付いた。
水色が好きでバスケが得意だったのは中学の頃、自分より勉強が出来て、バイトに明け暮れてたのは高校時代か。
そして甘く無いコーヒーと写真が好きな今。

次の日、僕は佐波を誘って公園に来た。
「どしたの。いつも無関心が珍しいじゃない」
佐波はそう言いながら青空を撮っている。

「佐波の事、あまり知らないなと思ってさ」

佐波は空を見上げたまま
「ほぅ。興味が湧きましたか。20年近く掛かりましたけど、それはそれは良い事ですね」
と、笑いながらふざけた口調で言った。

「あのさ、佐波は幸せは何かって聞かれたら何と答える?」
聞いた僕の横に、猫の様にするりと座った。
「美しいと思う事を大切な人とシェアする時間」
横に座った佐波は膝を抱えたまま目線は空に向けたままで答えた。

「男になりたかったんだよね、私。とにかく強くなりたくて、子どもの頃は青とかバスケとかが男らしいのかなって勘違いしててさ。勉強出来れば何か変わるんじゃ無いかって馬鹿みたくガリガリやったし、でも世の中やっぱり金じゃんってバイトも散々やってさ。で結局どうかって言うと、私は男と強さを履き違えてた事に気が付いたんだ。私は私のままで強く逞しく生きたかったんだ、男とか女とか関係なく。幸せから遠く離れた場所で育ったから幸せの定義は分からないけど」

そういや佐波の父母を見た事が無いし、家庭の匂いが全くしなかった。

「Your body remember some of parts came from your mom and dad.」
そう言うと、嫌味かよと佐波はカメラを向けた。

風を受けて佐波の赤いワンピースが揺れている。
ほらっと佐波に言われて2人でぎこちなく並んだ。
「金魚みたいだ」
僕が言うと佐波は笑って言った。
「Never be alone」
シャッターの音で緞帳が上がる。
風に揺れる金魚を僕は特別に思った。




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